
大同硝子興業株式会社は、多様な協力会社との連携を武器に顧客のあらゆる要望に応える、プラスチック成形を強みとする企業だ。代表取締役社長の鈴木聡氏は、異業種での経験を携え、対話を重ねることで旧来の組織文化に変革をもたらした。社員一人ひとりが「仕事の達成感」を実感できる会社を目指し、挑戦を続ける同氏に、その軌跡とものづくりへの熱い思いを聞いた。
IT業界の熱気と製造業の現実。転身で得た新たな視点
ーー鈴木社長のこれまでの経歴をお聞かせください。
鈴木聡:
新卒でIT商社に入社しました。売上も従業員も倍々ゲームのように増えていく勢いのある会社で、会社が拡大に向かうエネルギーを体感できたことは、経営や組織の変化を学ぶ上で非常に良い経験となりました。
何より、そこでは人が心から達成感を感じた時の顔を知ることができました。ガッツポーズをしてしまうほどの喜びを、今の会社の従業員にも味わってほしい。その思いが、私の経営の原点にあります。
ーーそこから、家業である製造業へ入られたきっかけは何だったのですか。
鈴木聡:
子どもが生まれたことが直接のきっかけです。それまで東京で生活していましたが、ふと地元に帰ることを意識し始め、父に相談したことが始まりでした。しかし、いざ入社してみると、前職の経験がすぐには通用しないと痛感しましたね。製造業特有の縦割りの文化や、従来のやり方を変える難しさは私がいたIT業界と真逆で、当初は大きなギャップに戸惑いました。
強みは「コーディネート力」。信頼で築く独自のビジネスモデル
ーー貴社の事業内容を教えてください。
鈴木聡:
弊社は、食品容器から学童向け教材まで、さまざまなプラスチック製品をOEMで製造しています。その根幹を支えるのが、協力会社との連携を前提とした「コーディネート力」です。
プラスチック成形は製品サイズで設備が異なるため、1社で全てを賄うのは困難です。そこで私たちは、自社でできない加工を多くの協力会社にお願いする体制を長年かけて築いてきたのです。単に仕事を依頼するだけでなく、時には弊社の営業が協力会社の品質管理や生産管理まで担います。彼らは技術的な知見を持ち、案件ごとに最適なチームを編成することができます。この、人が中心の調整能力こそが、会社の宝であり、他社にはない付加価値だと自負しています。
ーーその強みは、現代のビジネス環境においてどのような価値を持ちますか。
鈴木聡:
近年、プラスチック業界では後継者問題などで事業者数が減少しており、発注元の企業にとっては事業継続計画(BCP)が大きな課題です。依頼先が突然廃業してしまった、というような事態は珍しくありません。そうした時に、私たちにご相談いただければ、仕事を継続するための最適な企業の組み合わせを提案できます。お客様が次の依頼先を探す手間を、弊社が肩代わりできます。これは社会的な課題解決にも繋がる、大きな武器になると考えています。
対話が生んだ一体感。全員で目指す新しい景色

ーー入社後に感じた組織の課題には、どのように向き合いましたか。
鈴木聡:
会社の雰囲気を変えたい一心で、新しいことへの抵抗感を和らげ、一体感を醸成するために、いくつかの改革に着手しました。たとえば、女性パート従業員の社員登用や、仕事の主体を中堅社員へシフトさせ、ベテランにはマネジメントを意識してもらうこと。そして何より、年に一度、全従業員に会社の方針を直接説明する場を設け、会社の現在地と目指す方向を共有するようにしたのです。
ーー社員の皆さんとのコミュニケーションで、特に大切にしていることは何ですか。
鈴木聡:
当たり前のことですが、一人ひとりと向き合うことです。入社当時、まず最初に取り組んだのは、全員の顔と名前を覚えて自分から挨拶することでした。各作業ラインに一緒に入って会話したり、パートさんも含めた全員と面談したりもしましたね。4年前からは従業員アンケートも導入し、その結果を公開して翌年の改善策を共に考えています。こうした地道な対話の積み重ねが、組織の空気を少しずつ変えてくれたのだと感じています。
誇りを持てる仕事を未来へ。「2030年ビジョン」と自社ブランドの挑戦
ーー会社の未来像として掲げる「2030年ビジョン」に込めた思いをお聞かせください。
鈴木聡:
「社会、人々に喜んでもらえるようなモノづくりを行うメーカーになる」というのが私たちのビジョンです。OEMが中心だと、自分たちの仕事がどう役立っているか実感しにくいのです。だからこそ、従業員が「これは自分たちがつくったんだ」と誇りを持てる会社にしたいと考えました。そのための具体的な挑戦が、自社製品ブランドの立ち上げです。
ーー自社ブランドでは、どのような価値を発信していきたいですか。
鈴木聡:
プラスチックのイメージをポジティブなものに変えたいという強い思いがあります。「ゴミ」や「使い捨て」といったイメージが先行しがちですが、本来は日本の成長を支えた素晴らしい素材です。問題は素材ではなく、使い方にあります。
そのことを、長く大切に使える製品を通じて示したいのです。このプロジェクトは、デザインから全従業員を巻き込んで進めています。ものづくりの楽しさも苦労も全員で分かち合うことで、自分たちの仕事に自信と誇りを持てるでしょう。また、その過程に大きな意義があると考えています。
ものづくりは面白い。未経験から未来のプロフェッショナルへ

ーーこれからの会社を担う若い世代に、働くことを通じて何を得てほしいですか。
鈴木聡:
何よりも、製造業という仕事の面白さと奥深さを知ってほしいですね。採用にあたってスキルは問いません。未経験からでも活躍できるよう、会社が責任を持って育てます。ものづくりは、デザイン、数学、化学、設計と、あらゆる要素が詰まった本当に奥が深い世界。それを習得した時の達成感は格別ですし、その経験はどんな仕事にも通じる人間的な成長に繋がります。華やかな業界に負けない、甚至それ以上のやりがいがここにはある。この面白さを分かち合える仲間を、一人でも多く増やしていきたいですね。
編集後記
IT業界での成功体験を糧に、伝統的な製造業の世界に飛び込んだ鈴木社長。当初は文化の違いに戸惑いながらも、社員一人ひとりとの対話を重ね、組織に新しい風を吹き込んだ。その原動力は、社員に「仕事の達成感」を味わってほしいという純粋で力強い思いだ。協力会社との連携という独自の強みを磨きつつ、自社ブランドでプラスチックの価値向上に挑む姿は、ものづくりの未来を明るく照らしている。同社での経験は、単なるスキル習得以上に、働くことの本質的な喜びにつながるだろう。

鈴木聡/1980年、京都府出身。2003年に株式会社ソフトクリエイト(現 株式会社ソフトクリエイトホールディングス)に入社し、ECサイト構築パッケージシステムの営業に従事。2017年に大同硝子興業株式会社へ入社。2022年に同社代表取締役社長に就任。