※本ページ内の情報は2023年11月時点のものです。

体に良いものとして、昔から日本の食卓に馴染みのある梅干し。
バブル崩壊とともに健康志向が高まり、梅干し業界のマーケットも拡大したが、近年は食品の減塩化が求められている。

そのような状況下で、塩分わずか1.5%の減塩梅干しや、機能性表示食品であるクエン酸が豊富な梅干しなどの商品開発を先駆的に手掛けているのが株式会社トノハタだ。

また、国内梅干し業界では初となる中国での現地生産にも成功している。
業界初に取り組み続けている同社の代表取締役である殿畑雅敏氏にその思いを聞いた。

大学卒業後に家業を継ぐ

ーー事業を受け継がれたときの心境をお聞かせください。

殿畑雅敏:
物心が付いた頃から、ご先祖様のお墓を守り続けていくのが第一に大切なこと、そしてその地域に居を構えるのが当たり前であると教えられてきました。

その影響から、学校を卒業するくらいのタイミングで家業を継ぐだろうと当然のように思っていましたね。

ーー若くして家業を継ぎ、苦労されたことはありますでしょうか?

殿畑雅敏:
私が25歳のとき、先代である父が大病を患ってしまい、社長のポジションを任せられました。父の入院先が遠方だったため、仕事の相談がなかなかできない状況でしたが、とにかくがむしゃらに働いていました。

社会経験も少ない中、決断力が必要なポジションを任された状態だったため、さまざまな失敗をしたり壁にぶつかったりしましたね。眠れない日々もありました。

しかし、私に愛情を注いでくれたご先祖様たちが、私自身を成長させてくれるために与えてくれた試練で、私に足りない部分を気付かせてくれているのだと。きちんと向き合い、努力することで必ず乗り越えられると信じてきました。

このような考え方に至ったのは、両親からの教えのおかげです。

一方で、若いときから会社の物事に決定を下す経験をさせてもらっていたのは、いまではありがたいことだと思っています。このときの経験が、平成6年に社長へと就任してから現在に至るまでの会社経営において活かされ続けています。

梅干しで人々の暮らしへ「価値」を提供したい

ーー商品開発への思いを教えてください。

殿畑雅敏:
基本軸は弊社の使命である「より安全で、より地球に優しく、より喜ばれる商品とサービスの提供」です。梅という素材で「価値」を提供できる会社であり続けたいです。ここでいう「価値」とは、「人々の暮らしに変化や向上をもたらすこと」と定義しています。

「より安全」については、ISO9001の取り組みを発展させ2019年にFSSC22000の認証取得へと進化させています。

「より地球に優しく」については、2009年環境省のカーボンオフ・セット認証制度(現在はカーボンオフセット協会)を日本で3番目に認証を取得し、2023年現在でも認証を継続し続けています。

「より喜ばれる商品とサービスの提供」についてですが、梅干を食べていただける動機は「好き」の他には「体に良さそう」が主ですので、弊社は梅干がいかに体に良いのか、健康効果があるのかを明らかにしていく取り組みを行っています。

具体的には、業界4社で約20年以上前から大学に寄付講座を設置して、病理学的基礎研究を行い、効果効能のエビデンスをつくり続けています。

梅干し業界で先駆的な役割を果たし続けてきた

ーー梅干しは差別化するのが難しいと思うのですが、貴社が2011年に販売された「アイス梅」のような独創的な商品を開発された過程について教えてください。

殿畑雅敏:
アイス梅に関しては、「梅干しを凍らせたら面白いんじゃないか」と思ったのがきっかけです。また、東日本大震災が起きてしまい、電力の使用制限が求められました。暑い夏に少しでも涼しく感じていただければという思いで開発した商品です。

アイス梅のような商品の開発過程はイレギュラーですね。基本的には、お客様のお困り事を解決するような商品の開発をおこなっています。

梅干しの場合、お客様が悩んでいるのは塩分の高さ。毎日食べていただけるように、梅干し業界に先駆けて、塩分削減へと取り組み続けています。その結果、塩分を従来より50%以上落とした、塩分わずか1.5%の商品を展開しています。

ーーそのほかにも先駆的に取り組まれていることはありますか?

殿畑雅敏:
梅干しは柔らかく、丁寧に扱う必要があるため、人の手が必要とされる商品で、労働集約型産業です。それを装置産業へと変えていきたいと考えています。装置産業への変革は、業界としては先駆的な取り組みです。生産性を高めて組織規模を拡大するために、5〜6年前から進めているところです。

そのほかの業界初の取り組みとしては、2001年に実現された中国での現地生産です。当時は中国の人件費が低かったため、そこで生産を行うことで、収益向上へとつなげました。

先駆的に何かに挑戦するときには、必ずリスクが伴います。決断力が必要ですが、達成できると大きな喜びにつながります。弊社はこのように、新しいことに挑戦するのが好きな会社でもあります。

「学問」は自活するためにも大切なこと

ーー経営者になるのが宿命、あるいは経営者を目指している若い世代へ、メッセージをお願いします。

殿畑雅敏:
ある方に教えてもらった福沢諭吉の「学問のすすめ」の要約ですが、人生の目標は自活して生きていくことで、それには学問が大切との内容です。人は学ぶことによって知識を得、そこに経験が加わると知恵が生まれます。この知恵によって人生のいろいろな場面で柔軟に対応して自活して生きていくことができます。故に学問(学ぶこと)が人生で最も大切になります。

若い世代の方々は、それぞれ興味の方向性が異なると思います。ご自身が興味がある分野を学ばれると、見えてくるものがあるでしょう。さまざまなアイデアも浮かんでくるかと思います。それらを精査して向き合ってほしいですね。

編集後記

家業を継ぐ宿命のもと、若くして社長に就任した殿畑社長。
梅干し業界の先駆者として、さまざまな取り組みに挑戦し続けている。

少し冗談を交えながら話す中でも、先代の教えと家業を守りつつ、業界をリードしていくのだという熱量を感じる。梅干しを通じて、これからどのような価値を人々に届けていくのか。今後の取り組みに期待が高まる。

殿畑 雅敏(とのはた・まさとし)/1960年8月29日生まれ。和歌山県出身。1984年3月に早稲田大学理工学部数学科を卒業後、家業である殿畑商店に入社。梅干し業界の先駆者として、中国での現地生産や装置産業への参入などに取り組んでいる。塩分を削減した「減塩梅干 塩分わずか1.5%」や「アイス梅」などの商品も充実している。