※本ページ内の情報は2024年11月時点のものです。

株式会社魚宗フーズは、1971年から続く岡山県の惣菜・弁当販売会社である。2000年代には経営が危うくなったこともあったが、現在では350名以上の従業員を抱え、安定した業績を上げている。代表取締役社長の山本雅史氏に、経営を回復させた秘訣でもある理念などについて話をうかがった。

社長就任後の試練ーー意識の立て直しと安全への徹底した取り組み

ーー経営者として苦労した経験を聞かせてください。

山本雅史:
2001年に弊社最大の取引先が倒産し、大きな打撃を受けました。立て直しを図ろうと努力しましたが、周囲の取引先にも見切られて、出荷停止措置まで受けてしまいました。

調べた結果、原因は第三者機関の評点が低いことだと分かりました。そこで、売上だけでなく自己資本比率もバランスよく上げ、第三者からの評価が良くなるように意識して立て直しを図りました。

初めは従業員に数字のことを伝えて頑張ってもらい、努力が実り始めたものの、再び業績が落ちてしまいました。「単に数字を追うのではなく、共通の理念を持つことが必要だ」と気付いたのは、V字回復を遂げるために周囲の意見を聞いている中でのことでした。

ーー現在、運営上で特に気をつけていることは何ですか?

山本雅史:
食品を販売しているだけに、美味しいものを提供することを前提にして、安心安全には非常に気を遣っています。社内のルールも厳しく、少しの違反も許しません。

マニュアルがあっても人間が行う以上、少しでも油断すれば甘えが出てきてしまいます。私がいつも従業員に伝えていることは、見て見ぬふりをせず、お互いに注意し合うということです。社内で懸念されることがあれば、「社長に直接伝えるように」と日頃から伝えています。

ECサイトの始動、そして念願の社員旅行を達成

ーー2021年に始動したECサイトについて教えてください。

山本雅史:
ECサイトでは主に冷凍魚惣菜を取り扱っています。地元の名店と契約し、レシピを教えていただいて、そのとおりにつくっている商品もあります。食材や調味料もできるだけ岡山産のものを取り入れる方針です。「地元の食材を地元の方に楽しんでいただきたい」という気持ちが、ECサイト販売でも実店舗でも最も大切なところだと考えています。

ECサイト:「ククスト

魚宗フーズが提供するお寿司セット
魚宗フーズが提供するこだわりの惣菜セット

ーー2024年には初めて社員旅行を実施したと聞きました。

山本雅史:
以前から、社員旅行を望む声は上がっていました。しかし、弊社は24時間365日稼働なので、実施は難しいと考えていました。2025年に設立50周年を迎えるにあたり、改めて「念願の社員旅行を行いたい」と考えるようになり、「どのようにすれば実行できるか」と模索しながら2年がかりで計画し、実施することができました。

旅行は、行き先別に3班に分けて、全従業員が無料で参加できるようにしました。希望者を募ったところ、正社員だけでなく、週1日だけのパートの方や、技能実習生、特定技能外国人の従業員も参加してくれました。大阪USJコースでは、G20大阪サミットが行われた会場で食事をする場面もありました。珍しい行き先が選べたこともあり、参加した従業員も皆喜んでいましたね。

惣菜を支える「心」を育む「魚宗フーズフィロソフィ」

ーー人材育成について、どのように考えていますか。

山本雅史:
惣菜業は、どれだけ高額な設備を導入しても、最終的には手作業が必要です。だからこそ、惣菜の惣の字のように、「物」をつくる根底には「心」がなければ成り立ちません。従業員の人間力や人間性を高めた先の延長線上に仕事があると考えて、特に人材育成には力を入れていますね。

ーー人間力、人間性がある人とは、どのような人ですか?

山本雅史:
弊社には「魚宗フーズフィロソフィ」という哲学があります。この哲学では、あきらめない姿勢、優しい利他の心、謙虚で努力家であることなどが挙げられています。これが、何か悪いことや揉めごとが起きたときに従業員が立ち返る場所となっています。

弊社では、工場でも店舗でも、毎日の朝礼や会議、イベントを始める際に、全員で「魚宗フーズフィロソフィ」を読み上げます。今では従業員が自主的に行っており、社員旅行でも朝に集まった際に、「おはようございます。では魚宗フーズフィロソフィの唱和をします」と言っているのを聞いて、私のほうが驚き、嬉しくなりましたね。

ーー立て直しから今までを振り返って、人生で大切なことは何だと思いますか?

山本雅史:
世の中では、お金や土地などの目に見える資産に目が行きがちですが、私は知識という資産を土台に置くピラミッド型の考え方を持っており、従業員にも伝えています。頂点にある有形資産を手に入れるためには、まずはしっかりとした土台が必要なのです。

有形資産の下に、まずは知識という資産があります。その下に、「意識資産」と「常識資産」があります。

「意識資産」とは、弊社のフィロソフィにも通じる、根本的な意識の部分を指します。一方、「常識資産」とは、時間を守ったり返信をきちんと返すなど、社会人としての基本的な行動に関する部分です。この意識資産と常識資産こそ、私が大切にしたいと考えている心や人間性の部分なのです。経験を積む中で、これらの資産が育まれなければ、お金を得ようと努力しても数年で行き詰まります。そのため、日頃から大切にしている考え方です。

編集後記

1時間ほどのインタビューの中で、現在の事業や苦労したことなど、さまざまな話をうかがったが、どの話題においても、最後には必ず「魚宗フーズフィロソフィ」に返ってくるのが印象的であった。それだけ「魚宗フーズフィロソフィ」には山本雅史社長の人生の教訓が詰まっているのだろう。

それにしても、これほど哲学の徹底に力を入れている企業も珍しい。しっかりとした「心」の土台が築かれているからこそ、株式会社魚宗フーズは今後も安心・安全な惣菜を提供し続けるに違いない。

山本雅史/1964年生まれ。1987年に近畿大学理工学部を卒業後、1995年に商社に入社。2006年代表取締役に就任。