
岐阜県揖斐郡池田町に本社を置き、お菓子の包装というニッチな業界で成長を続ける株式会社キィポーション。2024年に代表取締役社長に就任した木村義文氏は、同社の売上高を2億円から30億円へと大きく成長させた立役者だ。この偉業をどのように成し遂げたのか。木村社長の経歴や経営哲学、同社の今後の展望などをうかがった。
祖父から続く会社を、年商2億円から30億円へ急成長させた3代目社長
ーー木村社長の経歴をお聞かせください。
木村義文:
キィポーションは、1948年に祖父が創業した食品用乾燥剤の会社を前身としています。私も会社を家業として意識して育ちました。しかし、20代のころは建築業界や不動産業界で会社を興したいという気持ちが強く、大学卒業後は不動産業の一部上場会社に就職しました。
その会社ではトップ営業にまで上り詰めましたが、そんなとき、当時の社長だった父から、厳しい経営状況を改善するために家業に協力してほしいという要請が届きます。そして私は不動産業界で築いたポジションを手放し、家業を守るためにキィポーションに入社したのです。
それからは、父と義理の兄にあたる姉の夫、そして私の3人で会社を切り盛りしてきました。父の強みは機械好きで愛嬌と発想力で顧客からの信頼が厚いところ、兄の強みは走りすぎる私のブレーキ役になり(慎重派)品質重視の営業力があるところ、そして私の強みは、2人の強みを受け継ぎながら決断力と行動力を発揮していけるところと、それぞれ個性が違ったので、お互いの良いところを掛け合わせ、そして足りないところを補い合いながら、会社を成長に導いていったのです。
3人とも必死に働き続けましたが、そんな中でも私は人一倍努力した自負があります。入社してから約10年間は、睡眠時間は1日3時間程度、休日は年に数日程度という状態を続けたほどです。当時はトップ営業の立場を手放したのが悔しくて、一刻でも早く現状を良くしたいという気持ちが強かったですね。
これらの努力が次第に実を結んでいき、入社当時は2億円だった年間売上高は、現在では30億円を記録するまでになりました。
また、2024年には代表取締役社長に就任し、名実ともに会社をけん引する立場になりました。まだ新米社長ではありますが、会社を成長に導いてきた経験を生かして自分なりの信念と哲学をもって経営に取り組んでいます。
ーー会社を成長させるにあたって、特に大切にしたことを教えてください。
木村義文:
現在も弊社の経営方針の中核にある「品質の徹底」という考え方です。この考えを貫いたおかげで、顧客から高い信頼が得られるようになり、毎月の自転車操業状態を脱し、成長軌道に乗ることができました。
また、顧客とのやり取りの中で発見した、私独自の「4つの大原則」も大切にしてきました。4つの大原則とは、仕事における全ての判断を「安全、礼儀、満足、効率」の順番で進めていくというもの。この順番で進めれば、どんな場面でも自然と正しい方向性が見えてきます。
そして、これらの前提にあるのが、前社長時代から守り続けている「とにかくパート社員が一番大事」という考えです。弊社のパート社員は全従業員の約9割を占めており、生産ラインの大部分を担う欠かせない存在です。そんなパート社員が快適かつ幸せに働ける環境を用意出来れば、全体的な生産力向上につながりますし、さらには組織全体の幸福度アップや風通しを良くする働きも見込めるのです。
私の座右の銘は「不易流行」です。先代が大切にしてきたことや弊社にとって大切なことは、しっかりと守り抜き、新たな風を絶えず取り入れていくことです。
会社の急成長を支える、外向きの強みと内向きの強み
ーー貴社独自の強みはどのような点にありますか?
木村義文:
会社の経営状況を一変させるほどの高い品質と、大口の発注にも対応できるキャパシティを兼ね備えていることです。量と品質の両面から支えることで、どんなときでも頼りになる、顧客にとってかけがえのない存在になれます。
また、社員が和気あいあいと仕事を進めることができる風通しの良い社風も、弊社の大きな強みの一つです。かつては社内に派閥が存在していたこともありましたが、会社の団結を妨げる障壁になると思い、派閥のない、お互いを尊重し合える文化へと変えてきました。おかげで今は、社長である私が従業員から気軽に話しかけられるほど、お互いに腹を割って話し合える関係が形作られています。
業界のトップを実現し、やがては地域を活気づける会社へ

ーー人材採用について、現状や今後の方針をお聞かせください。
木村義文:
現在は、新工場を増やす計画を練っている段階で、現場を任せられる管理者や現場スタッフを増やしたいと考えています。現在は、中途採用に重点を置きつつ、年間数人ずつ採用している状況ですが、会社の成長に合わせて、採用する人数を少しずつ増やしていきたいと考えています。
人材に求める条件としては、真面目で誠実な信頼できる方が最優先です。いかなる知識やスキルでも、信頼に勝るものはありませんし、真面目で誠実な方は、仕事の中で自然と成長していく傾向が強いのです。さらに、会社の将来を考えても、このような方が会社の中心に必要なことは間違いありません。
ーー貴社の今後の展望について、中・長期的に達成したい目標を教えてください。
木村義文:
まず中期的な目標として、お菓子の包装というニッチな業界の中でトップに上り詰めることを掲げています。現状はすでに上位層にありますが、「業界1位」というインパクトのある肩書きを得ることで、確固たるポジションを確立したいと考えています。
長期的な目標は、この岐阜県で100年企業になることです。地域の方から「若い世代が働ける場、子供を育てながらでも働ける場」を望む声をよく耳にします。地域を活気付けると言うとおこがましいですが、少しでも地元で産業の中核を担う存在になれたら嬉しいです。
弊社は、どれだけ大きく成長しても、東京都への進出を選択することはありません。いつまでも愛する地元にしっかりと根を張り、地域の皆さんと一緒に成長し続けられる会社であり続けたいと強く思っています。
編集後記
木村社長がキィポーションをここまで成長させられたのは、「お菓子の包装」の「品質の徹底」という考え方を貫くこと、そして、顧客との信頼を「4つの大原則」によってつないだからではないだろうか。この極めて本質的な強みは、地元を支える100年企業という将来の夢の大黒柱になってくれるはずだ。
「私の地元愛は高校卒業から大学、就職までを東京で過ごしたからこそ芽生えた」と語る木村社長。独自の哲学を持って地元の岐阜で頑張るその姿は、今後、中小企業が生み出す可能性の象徴となっていくことだろう。

木村義文/1971年岐阜県生まれ。千葉大学卒業後、一部上場会社に就職。1998年株式会社キィポーション入社。2010年常務取締役。2024年代表取締役社長就任。