1994年に創業し、2024年で30周年を迎えた株式会社カイセイ。福岡県古賀市の福岡食品加工団地を拠点に、煮蛸をチルド・冷凍加工している企業だ。販売エリアは九州一帯から沖縄、中国地方にわたる。代表取締役の中嶋伸昭氏に、創業の経緯や事業の強み、今後の展望についてうかがった。
家業で得た水産業界の知見を活かし、タコ専門の加工業者を設立
――創業からこれまでの経緯をお話しいただけますか?
中嶋伸昭:
先祖代々の家業として、魚の小売り・加工などの水産業に携わってきました。40歳の頃に仕事仲間と話し合い、独立してタコ専門の加工工場を立ち上げたのが創業のきっかけです。弊社が大事にしてきたことは「人とのつながり」です。昔からのお取引先を大切にしてきたからこそ、原料が高騰して経営が困難な状況でも助け合うことができました。
2022年以降に円安が加速し、日本市場はドルに対して厳しい状況に置かれるようになりました。しかし、人間の生活において重要な衣食住の中でも、私たちが担う「食」は不可欠なものです。お客様のために値上げを最小限に抑え、会社も無理をしない範囲で、とにかく商売が破綻しないように努力してきました。
――事業内容について教えてください。
中嶋伸昭:
ボイルした真ダコをチルド・冷凍加工し、九州・四国エリアの量販店に卸しています。販路はスーパーマーケットやドラッグストア、生活協同組合(生協)をはじめ、自社ECサイトやふるさと納税、海外、直売会と幅広く、地域のお土産品としてサービスエリアにも展開しています。
近年は、袋を開けたらすぐに食べられるワンパック商品も好評です。業務用だけでなく、BtoCの領域に力を入れたことで経営が安定するようになりました。
主に西アフリカにあるモロッコやモーリタニアといった海外や、国内ですと九州で仕入れをしています。真ダコの特徴としては、海外産は日本産と比べて柔らかく、日本産は歯ごたえがあります。
日本で大きいサイズのタコは海外輸出へ、規格外(切物)は直売会で提供
――海外や直売会など、販路を拡大したきっかけもうかがえればと思います。
中嶋伸昭:
ヨーロッパで加工されたタコは寿司ネタに合わない食感なのです。そのため、海外の日本食レストランは日本の加工品を好み、弊社も月に数トン輸出しています。海外ではサイズ違いのタコも需要があるということも、輸出を始めた大きな理由です。
日本の店舗では見栄えの良さが重視されるため、少し足が切れているだけで売り場に出せず、サイズも統一しなければなりません。毎月、最終水曜日に本社で開催している直売会は、切物(セカンド品・2級品)のタコを有効活用するために始めたイベントです。一般のお店には卸せないけれども、十分においしく食べられる製品を販売していて、中には宮崎県など遠方から買いに来てくださる方もいます。
毎年5月に開催され、2万~3万人が来場する古賀モノづくり博「食の祭典」にも参画しています。お客様に喜んでいただけるので、直売の機会は積極的に広げてきました。
「人とのつながり」と新商品を生み出す「アイデア力」を強みに
――会社の強みを教えていただけますか。
中嶋伸昭:
「人とのつながりを大事にする」という精神は、弊社の一番の強みです。かつて九州にあった数十社の水産会社が撤退する中で、弊社が生き残った理由のひとつだと思います。
商品開発においては、お客様のご意見を参考にしていることや、社員のアイデア力の高さが強みであると言えます。別会社で魚の加工業を担い、飲食店を経営していた自身の経験も活かせているでしょう。
――どのような商品を扱っていますか。
中嶋伸昭:
近年は手軽においしく食べられる商品が好評です。福岡県は「ごまさば」が有名なので、ごま醤油でタコを味わう商品をつくったところ大人気となりました。バジルソースを使った「たこのバジル風味」はパスタとからめるなど、ちょっとしたアレンジを楽しめます。
福岡県宗像市の離島、大島とコラボレーションした商品もつくりました。アカモクという海藻と真タコを梅酢で和えた「(宗像大島)たこもく」や、大島のタコを使った「明太たこもく」は主に地元の道の駅で販売されています。
チャレンジ精神と遊び心でファンを獲得――社員が楽しめる会社を目指して
――今後の展望をお聞かせください。
中嶋伸昭:
パック製品の需要がさらに増すと予想されるので、社内でアイデアを出し合いながら商品開発をしていきます。現在はボイルダコをチルドの状態で販売していますが、冷凍・真空加工した商品も量販店向けに提供していく予定です。
一風変わった商品が人気を得たり、インターネット販売や直売会が成功したり、「固定観念を持たない方針」が会社を良い方向に導いていると思っています。冷凍加工した重さ2kgの特大丸ダコを、遊び心で魚市場に飾ったらすぐに売れたこともあります。
購入してくださったお客様は、数ヶ月に1度ハワイから福岡に遊びに来られる方です。今では毎回大量に注文してくださるリピーター様となりました。これからも新しいことや面白いことにチャレンジする気持ちを忘れず、社員みんなが楽しく働ける会社であり続けたいですね。
編集後記
一般消費者や取引先、仲間への配慮を心がけてきた株式会社カイセイ。会社の利益だけを追求することなく、社員に過度の負担をかけない。この絶妙な経営バランスは社長の努力があってこそ保たれていると言えるだろう。手軽に使えてアレンジもしやすいワンパック商品など、企画に込められた思いやりに魅力を感じた人も多いはずだ。
中嶋伸昭/1954年生まれ、福岡県出身。家業が水産業であることから、幼少期より長浜市場に通い、目利き力を磨く。1994年に独立し、株式会社カイセイを創設。2009年、代表取締役に就任。現在も自ら市場へ足を運び、仕入れに携わっている。