※本ページ内の情報は2024年6月時点のものです。

「カステラ一番、電話は二番、三時のおやつは文明堂」というフレーズは誰もが聞いたことがあるだろう。このフレーズの生みの親である株式会社文明堂東京は菓子の老舗企業で、そのルーツは100年以上昔にまでさかのぼる。

変わらないおいしさを提供し続けている、文明堂のカステラ。代表取締役社長の宮﨑進司氏は、そんなカステラを「人と人をつなぐお菓子」と考えているという。

時代は変わっても人は人とのつながりを喜ぶもの。その喜びをカステラでどう届けているのか、カステラ作りに込めた思いを宮﨑社長にうかがった。

時代を超えて愛されるカステラは「人と人をつなげるお菓子」

ーー貴社の事業内容を教えてください。

宮﨑進司:
文明堂東京の主な事業内容はカステラをはじめとする焼き菓子の製造です。カステラを中心に、右手に和菓子、左手に洋菓子を作っています。どら焼きの「三笠山」や、丁寧に層を重ねていく「バームクーヘン」などもご好評いただいております。

また、弊社にはカステラを始めとした焼き菓子で幸せを作り、人と人をつないでいくというミッションがあります。これは、西洋の菓子を元に日本で独自に発展したことによって、西洋から東洋までをつなげてきた歴史を持つカステラだからこそ実現できることだと思っています。

手作業にこだわる緻密な焼きの技術

ーー貴社の組織や商品の強みを教えてください。

宮﨑進司:
カステラの食感を高品質に保つ、焼きの技術が高いことです。

カステラの食感を保つには、焼いている間の温度コントロールが大切です。なかでも、焼いている間にいったん取り出して生地を混ぜる「中混ぜ」という工程が重要で、この工程がうまくいかないと生地がでこぼこになってしまいます。

この品質を保つために、弊社は「中混ぜ」の工程を人の手で行うことにこだわっています。最近は菓子製造の世界でも機械化が進んでいますが、最適な焼き加減を実現するための技術や知識を継承していくには、この工程を人の手で行うことが欠かせません。

電機メーカー勤務から突然、老舗の社長に

ーー社長就任までの経歴を教えていただけますでしょうか。

宮﨑進司:
私はもともと電機メーカーの会社員として働いていましたが、結婚を機に、妻の家業である新宿文明堂(現文明堂東京)に入社しました。

実際に入社してみると、私は代表取締役社長に就任することになっていました。株主総会に向かう車の中で突然、社長就任を告げられたときは、本当に驚きました。とはいえ、社長に就任したからには会社を導かねばなりません。人前に出るのは苦手でしたが、話し方教室に通ったり、社内の理解を得られるように働きかけたりすることで、なんとか社長の職務を全うしようと努力していました。

大切なのは社員たちと手を取り合って進むこと

ーー社長に就任してから特に大変だったエピソードを教えてください。

宮﨑進司:
社長に就任してすぐに取り組んだ、暖簾分け別会社であった日本橋文明堂との経営統合です。ここで役に立ったのは、前職での統合プロジェクトの経験です。基本的な流れの理解はもちろんですが、統合時に社員がどういう気持ちになるのかをわかっていたことが大きいですね。認識を一つひとつすり合わせて、丁寧に進めました。

そしてこの経験から、社員たちと一丸となって互いの得意分野をかけ合わせていけば、組織として大きな力が発揮できるという学びを得ました。

組織において大切なのは、社員と対立することなく、手を取り合って進むことです。社員との信頼関係こそが、組織を前に進める原動力になるのです。

変化を受け入れてチャンスに変える

ーー経営者として大事にしていることは何ですか?

宮﨑進司:
何事もしなやかに楽しむことです。会社を経営していると、ときには外的要因により、変化を強いられることがあります。その変化を改善のチャンスと考えて、会社に良い変化をもたらすことを心がけています。

例えば最近では、新型コロナウイルスの流行による変化が挙げられます。実店舗の営業時間の短縮や業務のリモートワーク化など、多くの変化を強いられましたが、それらの変化を活かして組織の変革に取り組みました。

このときも社員たちは力になってくれました。一大事だと理解していたので、変革には協力的でした。このときの努力の甲斐あって、コロナ禍が明けてからは業績も順調で、コロナ以前を上回るまでになりました。

カステラでもっと日常を幸せに

V!CASTELLA

ーー今後の展望をお聞かせください。

宮﨑進司:
今後は、カステラをもっと日常でも食べてもらえるように尽力していきたいと思っています。すでに若者向けパッケージの開発やコーヒーチェーン店での販売などに取り組んでおり、成果も出始めています。皆さんの日常をカステラがつなぐような景色が作れたら、うれしいですね。

また、別方面の取り組みとして、スポーツのための補食用カステラ開発にも取り組んでいます。これは、カステラを圧縮してバーにしたもので、すでに某スポーツの日本代表チームやプロ野球の選手たちにもご愛用いただいています。

これからは贈答品というイメージにとらわれず、カステラが人々を幸せにできる可能性を引き出していきたいですね。

ーーどのような人と一緒に働きたいですか?

宮﨑進司:
弊社が大切にしている「幸せの追求」に共感してくれる方です。この考えは社内においても同様で、参加してくれた社員たちには幸せになってほしいと考えています。

この考えを実現するには、社員同士で認め合い・高め合い・笑い合える関係の構築が重要です。特に互いを認め合うことは、個々の違いを理解することにもつながります。

互いの違いを認め合えれば、組織内における対立も減ります。一人ひとり価値観の差があるのが当たり前です。互いの差を認め、良い点を活かし合って働きたい方の参加をお待ちしております。

編集後記

「大切な人を笑顔にしたい。幸せにしたい。そんな、誰かを想う人々を、私たちも想いながら、創意工夫をこらしていく」。宮﨑社長は、まさに理念の実現の探求者といえる人物だ。時代は変わっても人間の根源的な幸せは変わらないもの。これからも文明堂東京が丹精込めて作ったお菓子たちが、私たちの日常を彩ってくれるだろう。

宮﨑進司/1975年生まれ。一橋大学卒業後、三菱電機株式会社で営業職を経験。株式会社日立製作所との半導体部門統合プロジェクトに従事し、2003年に統合新会社である株式会社ルネサス テクノロジ(現・ルネサス エレクトロニクス株式会社)に転籍。2005年、義父の経営する株式会社文明堂新宿店に入社し、社長に就任。2010年には株式会社文明堂日本橋店と合併し、株式会社文明堂東京を設立して、代表取締役社長に就任した。