国内では健康意識の高まりで自然食品が注目されて久しいが、海外でも健康志向が高まり、身体に良いとされる日本の食材が注目を集めている。
地元九州や世界の健康食材の販売で成長を続ける九南サービス。その始まりはしいたけ農家だった。価格競争に巻き込まれ、しいたけ産業が衰退する中、代表取締役社長、田中耕太郎氏はオンラインストアを開業。パソコンを触った経験がないところから試行錯誤し、楽天市場のショップ・オブ・ザ・イヤーを受賞(※)するまでに成長。
「ニッポンのおかあちゃんになりたい」をコンセプトに、食べるしあわせ=「しあわせ食」を九州から届けていくという想いをカタチにし、九州の素材や世界のヘルシーなオリジナル食品を製造・販売している。
ビジョンに共感したお客様と“村”を作れば、持続可能なビジネスができると田中社長は語る。オンラインストア「タマチャンショップ」について、田中社長に話をうかがった。
(※)タマチャンショップ公式HPお知らせ
1日の注文が2000件になり、オンラインストアの可能性を知る
ーー東京から地元に戻った経緯をお聞かせください。
田中耕太郎:
20年前ほどから海外の食材が入ってくるようになり、価格競争や携わる人の高齢化で、しいたけ農業が衰退してきました。会長である父から「自分たちの商品を全国に届けて行きたい。これからECの時代がくるから、帰ってこい」と言われ、地元に戻ることにしました。
ーー楽天市場に出店した当初はいかがでしたか。
田中耕太郎:
しいたけの素晴らしさを全国に届けたいという会長の考えを受けて、まずは楽天市場に出店しました。オンラインストアを始めた方から「初月から500万円くらいは売れるだろう」と聞いて、夢があるなと感じました。
しかし、ふたを開けてみれば初月の売上は8万円で、聞いていた話と全然違う。自分の給料すら稼げないところからのスタートでした。幼いころから家業の手伝いをさせられていたので、「絶対に農業はしたくない」という思いでオンラインストアの事業に頑張って取り組みました。
ーーTV番組で商品が取り上げられてからどう変わりましたか?
田中耕太郎:
突然、TV番組で弊社の自然食品にダイエット効果があると取り上げられたのです。それまでは1日に数件程度の注文だったのが、翌日には2000件/日ほどの注文があり、その時初めてオンラインストアの可能性を感じました。
その時は予告なしにTVで急に取り上げられ、しかも土日の放送だったので、急遽休み返上で対応に当たりました。当時は手書きで送り状を書いていたため、家族で交代しながら注文に対応しました。しかし、TV番組での調理法の説明が充分ではなく結果的にキャンセルも相次いでしまい、それらの注文への対応を1、2ヶ月間、ほとんど寝ずに続けました。そのときが1番苦労しましたね。
熱いお客様がタマチャンショップを支えてくれる存在
ーーお客様についてお聞かせください。
田中耕太郎:
健康・美容・ダイエットを目指す方への自然食品を販売するタマチャンショップには、熱心なお客様がいます。楽天には年に一度、ショップ・オブ・ザ・イヤーというお客様が投票する表彰制度があります。中には「タマチャンショップなしでは今の自分の人生はあり得ない」と、うれしいコメントをくれる方もいます。
また、感謝を伝えるためだけに電話をくださるお客様もいます。「私の人生は真っ暗だった。でもお宅の商品を使い始めて前向きになれた」と若い女性のお客様から連絡をいただいたことがありました。僕たちのつくった商品が誰かの人生に関わっているのは、すごいことだと感じています。
“村”ができれば、海外企業の参入があっても負けない
ーー社長がおっしゃる“村”とは、どのようなものでしょうか?
田中耕太郎:
タマチャンショップを始めてから20年間、お客様に支えられてきたという思いがあるため、僕たちとお客様でタマチャンショップのコンセプトが共有できる場所を作りたいと考えました。それが“村”です。“街”ではありません。
“街”にはしがらみがあって、僕たちにはそぐわないと感じます。会社対お客様ではなく、垣根を取り払った場所をつくりたいと思い、僕たちとお客様とのコミュニティサイト(※)を立ち上げ、月に一度オンラインミーティングを実施しています。誰も批判や否定をしない、みんなが前向きに支え合っていける場所をつくりたいと思って運営しています。
(※)タマチャンショップ公式コミュニティサイト:タマリバ
ーー“村”づくりの次なる戦略について、お聞かせください。
田中耕太郎:
“村”づくりを進めれば、海外の企業が参入してきても負けないと考えます。今後大手資本が入ってきて、もし似たような商品が安価で出てきて、競合となった場合でも、お客様と一丸になって進んでいけば海外企業にも負けないでしょう。
タマチャンショップのビジョンに共鳴するお客様と一緒になってものづくりをしたい。自然食品で美と健康を楽しめる文化ができれば、持続可能なビジネスモデルができるのではないかと考えます。
IT企業こそオフラインが重要
ーー貴社では採用や教育も充実していますが、注力されている点についてお聞かせください。
田中耕太郎:
お客様に対して「100%接客する」ことを目指して人材配置に注力しています。
ネット販売を主力にする私たちだからこそ、オフラインの場を大切にするべきだと考えます。
1対1で接客する強みは、オンラインではできないでしょう。動画や画像は、直接的な接客によって触れる人の温かさにはかないません。接客は商品力よりも強いブランディングのひとつになるため、店舗の人員は減らさず、お客様に100%接客できる体制をつくっています。
ーー採用については、いかがでしょうか?
田中耕太郎:
ありがたいことに、半数くらいはもともとタマチャンショップのお客様だった人が、スタッフになっています。タマチャンショップが好きで東京から福岡へ移住して、店長になった人もいます。僕たちの商品が好きで働きたいスタッフがいてくれるなんて、ありがたいことです。
編集後記
パソコンを触った経験がなくても、現状を変えたい気持ちからオンラインストアを立ちあげた田中社長。
自分の給料も稼げなかったところから試行錯誤を繰り返し、20年間、社長として九南サービスを牽引してきた。「ビジョンを発信し、お客様を巻き込むことが、持続可能なビジネス戦略である」と語る。これからの九南サービスから目が離せない。
田中耕太郎(たなか・こうたろう)/1983年宮崎県生まれ。2004年より、家業である有限会社九南サービスの事業の一環として、インターネット通販「自然の都 タマチャンショップ」をスタート。2023年11月に同社の代表取締役社長に就任。現在は株式会社自然の都の代表取締役も兼任。