会議や行楽、おもてなしの場など、何かとお世話になることが多い弁当。名古屋市に本社を構える株式会社松浦商店は、大正時代から弁当で地域の食を支えてきた100年企業だ。
代表取締役社長の松浦浩人氏は「名古屋のお弁当会社」ということに誇りを持っており、弁当を通じて「名古屋のおいしさ」を広めたいという。そこで、松浦商店のこれまでの歩みと、これからのビジョンなどを松浦社長に聞いた。
大正時代から続く会社の維持とアップデートに取り組む4代目社長
ーー松浦社長の経歴をお聞かせください。
松浦浩人:
弊社は1922(大正11)年の創業から代々家族が経営してきた会社で、私は4代目にあたります。私は幼いころから弊社の弁当に触れて育ってきたので、会社を継ぐことはごく自然なことでした。
私のキャリアは老舗日本料理店の居酒屋部門から始まりました。店長候補として2年間修行に励み、店舗管理から調理、ホールまで携わります。ときには叱責を受けながら、飲食業、そして社会人としての基礎を学びました。弊社に入社したのは2008年です。しばらくは父の下で働き、2022年に後を継いで社長に就任し、今に至っています。
ーー社長就任後、最初に取り組んだことは何ですか?
松浦浩人:
古くから続く運営体制の変革に取り組んでいます。個人商店の延長のような以前の体制から、組織として動ける体制へと移行しました。長く続いてきた体制だっただけに、移行には大きなエネルギーを要しました。
それでも変革を決意したのは、会社を長く存続させるためです。この変革により、今までは各々が必要に応じて動けば対応できたことでも、今後は組織単位の素早い対応が求められる場面が増えるでしょう。
長い取り組みになると思いますが、私の武器である継続力を活かして人材の最適化に取り組んでいきます。私は約20年にわたって週3日以上のランニングを続けてきた人間なので、焦らずコツコツと最善を尽くすことの大切さは十分に理解しているつもりです。
老舗のノウハウと職人の技術で名古屋の「おいしいもの」を届ける
ーー貴社の事業内容を教えてください。
松浦浩人:
駅弁や仕出し弁当などを取り扱う、弁当事業を行っています。弊社は江戸時代の鮮魚店がルーツで、そこから明治時代に始めた料亭を経て大正時代に弁当事業をスタートし、現在の事業形態へとたどり着きました。
弊社のコンセプトは地元名古屋で「老舗のノウハウと職人の技術でおいしいものを作ること」です。事業範囲を名古屋とその周辺に限定し、名古屋の「おいしいもの」の魅力をしっかり届けることを大切にしています。
ほかには学校給食事業やベーカリー事業を行っているほか、子会社で惣菜の販売店を展開しています。給食事業は多くの子どもたちが触れるものなので、彼らが大人になったときに「あの給食、おいしかったよね」と思い出して、弊社の弁当を食べてくれたらうれしいですね。
ーー貴社独自の強みは何でしょうか?
松浦浩人:
ほとんどの料理を手づくりしていることです。だし巻き玉子は一本ずつ焼いていますし、魚を串に刺したり焼いたりするのも人の手で行っています。最近は効率を重視して機械で調理する企業も多いのですが、「丁寧さ」や「つくり手の愛」などは、手づくりからしか伝わらない良さではないでしょうか。
また、事業の面では、駅弁事業で安定した売り上げを出せている点が強みです。弁当業界において数が出にくい1,000円前後の価格帯の駅弁をコンスタントに売ることができ、弊社の安定した売上につながっています。
長い歴史と自由な社風が共存する、チャレンジの土壌が整った会社
ーー今後、会社の成長のために取り組んでいきたいことは何ですか?
松浦浩人:
弊社のコンセプトという軸を発展させる、自社ブランディングに取り組んでいきたいと思います。すでに2022年の100周年を契機にこれをスタートさせており、弊社の伝統を継承していることを示したシンボルマークも作成しました。
「お客様理解」と「原点回帰」の双方としっかり向き合いながら、弊社の歴史という土壌からどのような価値を生み出し、それを形にしていけるか。「名古屋らしさ」を感じられる、今までよりもパワーアップした商品づくりに取り組んでいければと思います。
また、弊社は社団法人日本鉄道構内営業中央会が制定した、安心・信頼の証である「駅弁マーク」を持っている駅弁の老舗メーカーでもあります。この点を生かして、海外のお客様に弊社の弁当に触れてもらえる取り組みもしていきたいですね。
組織の取り組みとしては、私が常にいなくても問題なく機能する体制を実現したいと考えています。そのために、自律的に動けるように社員たちを育成し、落ち着いてバトンを渡せる環境の構築を目指します。
ーー最後に、読者に向けて貴社の魅力をアピールしていただけますでしょうか?
松浦浩人:
弊社の魅力は、中小企業ならではの自由度が、高いことにあります。自分の意見が業務に反映されやすいので、仕事を通じてチャレンジを形にしたい方に、弊社の環境は向いているでしょう。
過去には職員のアイデアで、サッカーチーム「名古屋グランパス」のマスコットキャラクターであるグランパスくんを模したチョコバナナをつくったこともあります。少し不格好でしたが、手づくり感を中心に大きな反響があり、「奇抜すぎで賞」という賞までいただきました。
私は、「面白そうなものはつくってみる」という精神で日々、過ごしています。失敗を恐れずに、アイデアを形にして初めて見える景色だってあるはずです。
また、いろいろなイベントを食で応援しているので、食べることが好きな方はもちろんイベントを応援したい方にも弊社は向いているのではないでしょうか。弁当という形で社会を元気にするお手伝いがしたい方は、ぜひお声がけください。
編集後記
長い歴史をもちつつ、斬新な考えを形にできる会社は、貴重な存在だ。揺るがないコンセプトから生み出されるフレッシュな発想が、名古屋市の食をどのように進化させていくのか。「これから紡がれる歴史」に注目が集まる。
松浦浩人/1983年、愛知県生まれ。老舗の日本料理店に入社し、2年弱の修業期間を経て、2008年に松浦商店へ入社。100周年を迎える2022年に、代表取締役社長に就任。駅弁屋だからできることをモットーに新事業等にも力を入れている。