※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

タマランチ株式会社は、社内食堂の委託業務や給食弁当の製造販売などを手がける会社だ。代表取締役社長の柏又直樹氏は、自身の製造や営業の経験を通じて、事業を拡大し続けることこそが企業のあるべき姿だと確信し、その理念を実現すべくるために多くの取り組みを行ってきた。

経営に対する強い思いの背景には、現会長との出会いが柏又氏の人生を大きく変えたという事実があるという。今回は、柏又氏が次世代に向けて求める労働や経営への姿勢について話をうかがった。

事業の発展と待遇の改善に積極的な姿勢で社長職に上り詰める

ーーどのような経緯でこの業界を選んだのか教えてください。

柏又直樹:
私は最初、老舗のせんべい屋に就職し、営業を担当していました。しかし、給与面に将来の不安を感じ、転職を考え始めていた時に、古くからの知人に「今より良い給与で働ける会社がある」と誘われ、19歳で弁当業界に転職しました。

転職後は営業成績が振るわず悔しい思いをする日々が続きました。その経験から「より良い弁当をつくるにはどうすればいいか」と考えるようになり、最終的にはメニュー作成から調理、営業まで幅広く手がけるようになり、さまざま様々な業務に関わるようになったのです。

その努力が実り、入社当初1日800食だった事業規模を3年で1,400食にまで拡大することができました。しかし、そのタイミングで社長から「これ以上増やすと大変になる」と拡大を止められてしまったのです。私は幼少期、裕福な家庭ではなかったため、社長の生活に憧れを抱き、「自分もこうなりたい」と努力してきました。それだけに、現状維持を選ぶ社長の姿勢に強い違和感を覚え、最終的に退職を決意したのです。

その後、起業を考えましたが、資金調達に苦戦し諦めかけていた頃、タマランチの創業者である先代社長から声をかけていただきました。話をうかがう中で、当時のタマランチが1日2,800食という前職の約2倍の事業を展開していると知り、「ここでどんな仕事ができるのか挑戦してみたい」という思いから入社を決意したのです。

入社後、事業規模の拡大とともに昇給もあり、やりがいのある職場へと変わっていきましたね。やがて先代は会長職に退き、私が社長職を引き継ぐことになったのです。支店を増やし、1日9,000食まで事業を拡大しましたが、そのタイミングで会長が亡くなられました。私が入社した頃、会社の時価総額は3億円弱でしたが、社長になる頃には約9億円にまで成長を遂げたのです。

拡大路線は社員のため、将来的な独立を見据えた事業戦略

ーー社内の教育制度や次世代の育成に対する考えをお聞かせください。

柏又直樹:
特定の教育制度は設けていません。しかし、昭和生まれの価値観のままでは、現代のスピード感についていくのは難しく、私自身も試行錯誤しながら対応している状況です。経営に対する強い思いの背景には、先代との出会いが私の人生を大きく変えたという事実があります。学歴もなく、無一文だった私にとって、先代との出会いは感謝しかない貴重なものでした。

また、以前の職場で社長に業務拡大を止められた経験から、「これで満足」と妥協してはいけないと常に心がけています。私は、常に事業を拡大し、社員たちが活躍できるステージをつくり続けることが何より重要だと考えています。

そのステージで力を発揮した社員たちが、いずれは自ら社長として組織を率い、他社との競争に勝ち、自分たちで新たなステージを切り開いてほしいと願っています。私自身、引退を考えることもありますが、未だに社長を続けているのは、次の世代を十分に育て上げられていないと感じているからです。それが今の私の課題でもあります。

ーー今後の成長のために考えている新事業について教えてください。

柏又直樹:
新型コロナウイルスの影響で閉鎖した工場を活用し、新たにベーカリー部門を立ち上げました。この工場では焼きたてのパンを製造しており、直売所を通じて地元の方々に週2回のペースで販売しています。また、直売所だけでなく、大学の食堂や売店、さらには幼稚園の給食向けにもパンを提供しています。

今後は販路をさらに広げ、販売店の数を増やすだけでなく、デリバリー事業への進出も視野に入れています。店舗での販売は、広告を出しても来店してもらえるかどうかが未知数で、待ちの姿勢になりがちです。それに対し、デリバリーは営業先で直接提案し、説得して購入いただけるため、私としてはこちらの方が「自分の好み」に合っていると思っています。

次世代に願うのは全力で目標に向かって取り組むバイタリティ

ーー顧客との長期的な関係を築くために、どのような工夫をされているのかお聞かせください。

柏又直樹:
どれだけ美味しいお弁当をつくっても、いずれ飽きが来るのは避けられません。そこで、弊社のお弁当をいかに長く食べ続けていただけるかが、最も重要な課題だと考えています。理想は契約をずっと継続していただくことですが、顧客側からすれば、時には他社のお弁当を試してみたいと思うのも当然のことです。

創業以来、弊社と長く契約していただいている顧客もいらっしゃいますが、仮に一度他社に切り替えたとしても、再び弊社を選んでいただける関係を築くことが目標です。そのため、メニューの多様性を追求し、飽きのこない提案を心がけています。

また、毎日食べるお米の炊き方には特にこだわりがあり、これは先代の時代から受け継がれてきた大切なポリシーです。このような努力を積み重ねることで、顧客に選ばれる存在であり続けたいと考えています。

ーー最後に、経営幹部や後継者の育成に関して、現在の課題や理想像についてお聞かせください。

柏又直樹:
一人ひとりが活躍できるステージを提供することを目標に掲げ、勉強会や会議を通じて指導を行っています。現状ではまだ十分な成果が得られていないと感じています。私のように、がむしゃらに取り組み頭角を現すような人物が少なく、従業員という枠を超えた主体的な行動をする人材が育ち切れていない印象です。

私は、若くして強い向上心や野心を持った人物に集まってほしいと考えています。物事の捉え方や行動次第で人生は大きく変わると思います。だからこそ「やらなければ損」という意識で、努力を惜しまず挑戦する姿勢を求めています。

弊社の社員にも、自分の力をセーブして妥協しているように見える場面が少なくありません。それを打破し、自分の力を最大限に発揮してもらうことが必要だと感じています。その努力の目的が家族のためであれ、お客様のためであれ、部下や会社のためであれ、全てにおいて共通して重要なのは、自ら全力で取り組むことだと考えています。

編集後記

指示されたことだけを遂行するのではなく、現状を打開して発展と拡大のために全力を尽くしてきた柏又氏の姿勢は、いずれ経営者になることを目指している人にとって見習うべき点が多い。インタビューでは次世代の育成が課題だと話していたが、柏又氏の経歴や今の姿勢を見て感銘を受ける人が増えれば、近い将来に実を結ぶはずだ。柏又氏の後継者となる人材が現れる日も、遠い未来ではないのかもしれない。

柏又直樹/1968年東京都出身。高校卒業後、弁当製造会社にて3年間の勤務期間を経て1992年にタマランチ株式会社に入社。2003年に同社代表取締役社長に就任。現在グループ5社の代表を兼任し社業に注力している。