コロナ・ショックで最も打撃を受けたのが飲食業界だ。外食自粛ムードのなかで、閉店や廃業を余儀なくされた飲食店は多い。
そのような厳しい環境のなか、全国の有名ラーメン店と提携した冷凍ラーメンブランドの『ヌードルツアーズ』が爆発的に売上を伸ばした。手がけたのは株式会社丸山製麺だ。
同社はラーメン、うどん、そばなどの業務用製麺の老舗だが、なぜ新規事業を開発し、成功できたのか。取締役の丸山晃司氏に、躍進の秘密と今後の展望を聞いた。
「社長になる」30歳で家業に戻ると決意
ーーどのような環境で育ったのかお聞かせください。
丸山晃司:
私は、創業者の祖父が社長の時に、現在の社長の長男として生まれました。製麺工場の上階が住まいで、従業員や取引先を含め、周囲から3代目として扱われました。父から家業を継ぐように言われたことはありませんが、このような環境で育ったので子どもの頃から将来の夢は社長でした。大学在学中に「30歳で家業に戻る」と決め、そのために成長できる環境を選び、前職のIT企業に就職しました。
ーーなぜ製麺と関係がないIT業界に就職したのですか?
丸山晃司:
製粉会社などの取引先で修業するのが典型的な選択ですが、大企業で活躍できるのは30代からだと思います。「外で働くのは30歳まで」と決めていたので、その期間で自分が意思決定できる機会がたくさんあり、成長できる会社を探しました。
正直に言うと、どこの業界でも良いと思っていました。どんな職場だろうと、自分がどれだけ力を発揮できるかが勝負です。若手が事業開発で活躍している会社を選んだ結果が、IT業界だったというわけです。
IT業界で学んだ新規事業開発のための考え方
ーー前職では、どのようなことを学びましたか?
丸山晃司:
広告営業でキャリアを始め、2年目から新規事業開発に携わり、4年目で管理職になりました。
前職では新規事業にあたって意識すべき3つのことを学びました。
まず、成長領域に特化することです。上りと下りのエスカレーターでは、同じように歩いても全然結果が違うように、事業や市場を選ぶときは、伸びている領域に絞ったほうが成長のスピードも早くなります。
次に、新規事業をたくさん手がけることです。芽が出そうなら育てて、うまくいかなかったらやめれば良い。
そして、70点の事業でもまずリリースすることが大事です。新規事業は「初」でなければ意味がありません。そのためには、素早く始めて試行錯誤しながら100点を目指せば良いという考えです。
方針の違いで対立するも、コロナ危機で製麺にコミット
ーー丸山製麺に入社後はどのような仕事内容を経験しましたか?
丸山晃司:
最初は製麺業界の知識がまったくなかったため、工場に勤務しながら勉強しました。それから経営に少しずつ携わり、メッセージアプリを導入したり、紙の帳票を電子化するなどのDXや業績の見える化に取り組みました。
その後、弊社を取り巻くマーケット環境を理解した時に、製麺という1つの事業だけでは長い目で見ると確実に売上は低下すると感じました。「事業展開しないと将来的に成長できない」と主張しましたが、社長の方針は違いました。当時は、既存事業が順調だったので、会社としては新規事業をする必要がないと判断したのです。
このまま丸山製麺で働くのは難しいかもしれないと思った私は、もう1つ自分の会社を設立し、そこでスタートアップのマーケ支援や事業開発などを行っていました。
ーーその後は、設立した会社と丸山製麺の2つを兼任してきたのですか?
丸山晃司:
コロナ禍をきっかけに、家業の丸山製麺に完全コミットするようになりました。
コロナ禍になり、卸し先のお店が軒並み休業。売上の8割が落ち、雇用調整助成金もまだ調整中の頃だったので、こちらが先行的に赤字を持つことになってしまったのです。
情勢も落ち着かず、このままではキャッシュアウトして会社が潰れてしまうという危機感を抱いたため、丸山製麺を存続させることに全力で取り組むことを決めました。
『ヌードルツアーズ』誕生秘話
ーーなぜ冷凍自販機事業を始めたのですか?
丸山晃司:
最初から冷凍の自販機をやろうと思ったのではありません。成長しそうな事業をたくさんつくりました。通販やサブスクリプションなど、思いつくことは何でも試しました。そのなかで、たまたまヒットしたのが『ヌードルツアーズ』でした。
知人が冷凍ギョーザの無人販売で成功している話をヒントに、私はまだ誰も手がけていない冷凍ラーメンを始めました。前職で学んだ通り、成長領域に特化して新規事業を複数つくるなかで、日本初の業態のリリースを成し遂げたのです。
――『ヌードルツアーズ』リリース後は順調でしたか?
丸山晃司:
最初はどういうシチュエーションで売れるかまったくわかりませんでした。たとえば、ラーメン好きが多いと予想される繁華街に設置しましたが、思うように売れませんでした。飲んだり遊んだりしてから帰宅する人は調理しないことが多いからです。
住宅街の駅前駐輪場の横は売れました。自転車で帰宅して食べるのにちょうど良い距離に設置できたからでしょう。このように、成功と失敗を積み重ねながらニーズに合わせて最適化し、「有名店のラーメンを家でも手軽に食べられる」というコンセプトで自販機事業を成功させることができました。現在では200か所以上に設置数を拡大しています。
ーーヌードルツアーズを含め、事業全体が成功した要因は何ですか?
丸山晃司:
既存の経営資源を活用したことです。コロナ禍で配達ドライバーの稼働率が20%に下がっていたので、活用できていない80%を新規事業に振り分けました。
大きな設備投資を行わなくても、製麺機械、冷凍庫といった既存のリソースを使って、新規事業を展開することが可能な状態でした。
また、従来の「麺を卸す」業態から、逆に「ラーメン屋からスープを買う」という他社と異なるアプローチを行うことで、新規取引先を増やすことができました。
ラーメン屋からスープを買わせてもらう中で、ラーメン屋の悩みを聞いたりどういったことを考えているかを知り、それを事業に反映させるといった動きを行っています。
弊社が得意とする社員食堂や立ち食いそば店に麺を卸す事業に加え、スープを仕入れたことが、ラーメン専門店の市場への足がかりにもなったわけです。
目指すは、本格の味をどこでも手軽に味わえる世界
ーー今後は、どのように事業を展開していきたいですか?
丸山晃司:
無人化・省人化の領域に冷凍ラーメンの価値があると思っています。具体的には、電子レンジで加熱するだけで調理が完結するレンジアップの新商品、『レンジdeヌードルツアーズ』を開発しました。
たとえば、ビジネスホテルに自販機があれば、宿泊客は外に行かずに本格ラーメンを食べられます。ホテル側も従業員の手を煩わせることがないし、賞味期限が長いので在庫リスクもありません。
そのほか、「お酒の締め」のニーズがあるバーなどに対しても営業しています。「有名店のラーメンを家でも手軽に食べられる」というコンセプトで自販機事業を成功させましたが、これからは「家だけでなくどこでも」というニーズに対応します。
ーー就職希望の若者に向けてメッセージをお願いします。
丸山晃司:
仕事は楽しいものです。困難なことがあっても立ち向かっていけば必ずチャンスはあります。変化をポジティブにとらえる人と一緒に、業界をアップデートするために新しいものをつくりたいと思っています。
学生インターン、新卒、中途、副業など、さまざまな立場の人が弊社では活躍しています。自発的に挑戦する人の応募をお待ちしています。
編集後記
企業の継続は事業承継が鍵を握ると言っても過言ではない。特に重要なのは、次世代の経営者が時代の変化に対応できるかどうかだ。IT企業で新時代の事業開発の本質をつかんだ3代目が、コロナ禍という危機を乗り越えた。次の時代を切り開く株式会社丸山製麺に今後も注目していきたい。
丸山晃司/1987年、東京都生まれ。2011年早稲田大学卒業後、サイバーエージェントグループの株式会社ECナビ(現株式会社CARTA HOLDINGS)入社。2014年に子会社の株式会社Zucksに異動。2018年家業の株式会社丸山製麺に入社、取締役に就任。既存顧客への営業担当、新規事業領域なども兼務。2021年冷凍ラーメンブランド『ヌードルツアーズ』のヒットにより創業以来のピンチを救う。