※本ページ内の情報は2023年11月時点のものです。

公開からわずか2ヶ月で1億人を超えるユーザーが利用したChatGPT。

これら生成AIをビジネスの場面でも活用して生産性を上げることが、企業に求められている。一方で、国内では生成AIの活用にまだまだ二の足を踏んでいる企業が少なくない。

このような状況の中、「誰もが特別な意識をすることなくAIの恩恵を受けられる豊かな社会」を目指して、独自の日本語LLM(大規模言語モデル)を開発・サービス化し、日々、生成AIのビジネス普及を推進する会社がある。

AI inside 株式会社 代表取締役社長CEOの渡久地択氏に、AIとの関わり方や今後の展望をうかがった。

高校3年生で起業を決意した理由

ーー起業した経緯を教えてください。

渡久地択:
人類や社会に最もインパクトを与える活動に人生を賭けたいという強い想いがあり、これを実現するためには、自分で起業する以外の選択肢がありませんでした。

起業するにあたって、「何から取り掛かればよいかわからない」「先が見えない」などの不安はもちろんありました。これを払拭するために、今後社会がどのように変わっていくのか、200年先の世の中を見据えた未来年表をつくりました。

この年表から逆算し、いま取り組むべき最も社会貢献度の高い分野は宇宙とAIであると結論づけました。AIのほうが始めるのにお金がかからないと考え、高校3年生の卒業前に独学でプログラミングやAIについて学び、起業しました。

当時、AIで生計を立てている会社がほとんどなく、勝ち筋が見えたことも、AIを選んだ理由の一つです。

ーー年表はすぐに作成できたのでしょうか?

渡久地択:
最初は年表の書き方が分からずに、作成までに時間がかかりました。ただ、過去100年分の歴史を重点的に調べ、整理し、紐解いていくうちにコツを掴み、未来の年表も書けるようになりました。

ーー年表を作成できるのは知識が豊富だからこその部分もあると思います。どのくらい本を読んでいらっしゃいましたか?

渡久地択:
上場準備をしていた頃など、余裕が無かった年でも、年間700冊ほどは読んでいましたね。長期休みはずっと読書をしていました。小学校の校長をしていた祖父の影響で、幼少期から読書習慣があり、それを継続したことで知識が蓄えられたのだと思います。

子どもの頃は「毎週土曜の午前中に本を読む」と決められていました。祖父に読みたい本を伝えると、必ず翌週までに用意してくれました。

また、父がデザイナーだったので、小さい頃は絵をずっと描いていました。読書ではインプットを、絵ではアウトプットを繰り返したことで、ものをつくることが好きになりました。

ーー自分の軸をぶらさずに進めるコツはありますか?

渡久地択:
よく言われますが、軸を意識しながら動いているわけではありません。未来年表に沿って行動しているだけです。これまで年表の書き直しや追記はしておらず、概ね計画どおりに進んでいます。この年表に書いてあることは私のやりたいことでもあります。他の選択肢があまりないため、ぶれないと感じていただけるのかもしれません。

「売上アップにつながる」AI活用へのアプローチ

ーーAIの使い方が分からない方が多く、導入が難しいと考えるビジネスパーソンについて、どのように考えていますか?

渡久地択:
この前データを見て驚いたのですが、当社がビジネスパーソン1,161名を対象に実施した調査によると、2023年7月時点では、「生成AIを知っている」という回答が全体の55.5%と半数程度でした。また、継続利用者はわずか7.8%に留まっています。(※)やってみようとしていない、勉強しようとしていないところが問題だと感じています。
※2023.09.26「生成AI、ビジネス継続利用者はわずか7.8%、活用障壁は使い勝手や信頼性に関する項目が上位を占め、サービス導入時はセキュリティを最重視」

背景には、現在の教育の問題が、大きく影響しているのではないかと考えています。「まずやってみる人」は、どこでも少し軽視されがちです。周りの目を気にして行動を起こせないという、同調圧力の影響かもしれません。この同調圧力を跳ね除ける意思や文化を醸成する教育が必要と感じています。

ーー企業のAI活用では、どのような課題があるのでしょうか?

渡久地択:
AIを使った効率化やコストダウンは、日本の得意分野のひとつだと考えています。一方、グロースにつながるAIの活用方法を考えることが苦手な企業が多いと感じています。このため、私たちは効率化だけでなく収益増大を実現するためのお客様の潜在課題を発見し、解決することに注力しています。具体的には、全社を俯瞰し判断を下す立場である経営層にコンサルティングアプローチを行い、生成AI・予測AI・認識AIなどのAIテクノロジーを複合利用した高付加価値なソリューションを提案しています。そのための知識や実績を備えたメンバーで構成した専門チーム「InsideX」も組成しました。AIを活用したビジネスモデルの変革を伴走支援します。

AIと人間の協働、そして宇宙の可能性を探る

ーー今後の展望について教えてください。

渡久地択:
「人間とAIの関わり方」は、まだ誰も答えを持っていない一大テーマです。私は、人間の想像力とAIの想像力のどちらが優れているのかを競うのではなく、両者の強みを活かした相乗効果をどう高めるのかを追求することが重要だと考えます。

この考えを具現化したサービスとして、AIエージェント「Heylix」を開発し提供を開始しました。「Heylix」を利用すれば、このプラットフォーム上で生成されたAIである“Buddy”が、人間のパートナーとしてさまざまな業務を支援してくれます。“Buddy”はユーザー間で共有することもできるため、より多くの人が簡単にAIと協働し新たな価値を生み出すことが可能です。「Heylix」の提供を通じて、AIと人間が協働することが常識となる社会の実現を目指します。

また、現在では多くの企業がAIと関わるようになっていますが、これと同様に、10年もすれば、ほとんどの企業は宇宙と関わると考えています。宇宙開発はロマンだけでなく、世界規模の社会課題である資源不足や人口爆発などを解決するために重要な取り組みです。当社でも、東北大学 吉田和哉研究室と月面・宇宙など極限環境で稼働する「高耐久・高性能・省エネルギーな次世代型AI」の共同研究を行うなど、宇宙産業の発展に貢献する取り組みを進めています。

これらの取り組みの推進に不可欠なテクノロジーとして、Autonomous AI(自律型AI)の研究も進めています。課題設定から解決方法、その実現のために必要なデータの収集・学習まで、全て自らで判断し行動を起こせるAIです。ここでもAIが人間の仕事を奪うのではなく、人間がつくったものと自律型AIがつくったものが相互に学習し、共に成長していく未来を想像しています。そういった社会をつくりあげていきたいです。

新時代のビジネスで必要なマインドセット

ーー全社的な人材育成についてのお考えをお聞かせください。

渡久地択:
圧倒的なスピード、セクショナリズム(派閥主義や縄張り意識)がないこと、勤勉さの3点が大切だと考えています。この3つのポイントを、企業文化として定着させたいです。

考えて悩むよりも、まずはスピード感をもってチャレンジした方がいいと思います。行動が無駄にならないように、常に勉強することも重要といえます。さらに、社内外問わず様々なバックグラウンドを持つ方々とのコミュニケーションを通じて、新しいアイデアや提案を受け入れ視野を広げる。そうした柔軟性を持つことも大切でしょう。

これらの要素は私たちだけに求められるものではなく、AIをはじめとしたさまざまなテクノロジーの進歩が加速する新時代のビジネスにおいて、必要なマインドセットだと考えています。

編集後記

現在、人類の進化により、ChatGPTをはじめとしたAIに関するビジネスは広がっている。

「新たなAIテクノロジーを開発するだけでなく、それを誰もが意識せず使えるようサービス化することで、人間の可能性を解放したい。AIと人類の進化をうまく融合させて、ビジネスとして推進することを目指している」と渡久地CEOは語る。

AIの進歩とともに進んでいく、AI inside 株式会社の成長から目が離せない。

渡久地択(とぐち・たく)/1984年4月29日生まれ。2004年より人工知能の研究開発をはじめる。以来10年以上にわたって継続的な人工知能の研究開発だけでなく、ビジネス化や資金力強化を行い、2015年にAI inside 株式会社を創業。多数の技術特許を発明している。