※本ページ内の情報は2023年11月時点のものです。

ピザ生地やナンなどを製造する食品事業と、外食・中食・宅配事業を行うデルソーレ株式会社。コロナ禍で外食事業は多少業績に影響が出たものの、食品事業やテイクアウト商品は堅調に推移している。

これまで長きに亘り食品業界に精通したカリスマ経営陣がトップダウンで会社をけん引してきたが、2023年に新しく大河原泰氏が代表取締役社長に就任。新社長として企業にもたらしたいと考えている改革や、企業の未来像などについて伺った。

ヨーロッパで長く過ごした後、日本の食品業界へ

ーー社長は海外での生活が長いんですよね。

大河原泰:
父の駐在に伴い中学3年〜高校3年生まではイギリスで過ごし、大学卒業後は総合商社に入社しました。トータルで33年間の勤務でしたが、内約16年間はドイツ駐在でしたね。

商社時代には徹底した現場主体の訓練を受けました。私はもともと現場が好きなのですが、そこで身につけた現場主義が、今の仕事でも活きている感覚があります。

前職を早期退職し弊社に入社した当時は叔父叔母の大河原毅・愛子夫婦と前任社長の3人が代表取締役でした。私は2023年6月の総会並びに役員会を経て、常務から代表取締役社長に就任しました。今後はCEOである代表の叔父とがっちりタッグを組んで経営に臨みます。

カリスマ経営陣の後を継ぐ難しさ

ーー就任後、まだ日が浅いとのことですが、すでにご苦労されている点はありますでしょうか。

大河原泰:
弊社はもともと経営陣にとてもカリスマ性があり、基本的にトップダウンで成長してきた会社だと思います。弊社は来年お陰様で60周年を迎えるのですが、叔母が1964年に初めて日本に冷凍ピザを持ってきた会社の社長、叔父は外食産業トップの経験が長く、この2人が長きに亘り弊社の司令塔だったわけです。

一方、私はと言えば外から入ってきた新参者で、創業者でもなければカリスマ性も乏しい。これまでの経営陣と同じように振る舞ってもきっと無理があると考えていたので、どのようにしたら自分らしい経営ができるのかが最大の課題でした。今も試行錯誤を繰り返しながら日々色々とチャレンジしています。

手作り工程を入れることでおいしさをさらに引き出す

ーー貴社ならではの強み、こだわりを教えてください。

大河原泰:
食品加工については常温と冷蔵チルド、冷凍の三温度帯がありますが、弊社がいちばん得意としている分野はこの60周年で技術力を磨き上げたチルド分野です。

弊社は決して業界大手ではないですが、その分この規模ならではの強みも沢山あります。他社が余りやらないことが出来ます。例えば、ナンについては工場での製造工程で、人による手のばし工程があることが特長です。

全部を機械で自動的に作ることも無論できますが、一見非効率なこの手作りの工程が入ることで繊維が壊れず、全て機械で製造する商品とはおいしさなり食感がかなり変わってくるんです。

おいしさを徹底的に追求し、そこから生まれた工法なり製法が、弊社の強みの一つになっています。たとえ手間でも付加価値をつけることを惜しまない。召し上がって頂いた全ての方においしさで幸せになっていただき、それで世界をつなぐ。これがカンパニー理念でもあります。

好調なテイクアウトの事業

ーー食品を加工して販売するメーカーとしての側面以外に、外食・中食産業も展開されていらっしゃいますね。

大河原泰:
外食については、新型コロナウイルスの影響が続いている一方で、テイクアウト事業は伸びています。

例えば「おめで鯛焼き本舗」に関しては直営に加えフランチャイズ展開にも力を入れているのですが、なかでも、弊社オリジナル商品の一つである‘お好み鯛焼き‘は、テレビでもご紹介していただき、一躍有名になりました。

それらの鯛焼きを食べてほのぼのとした気持ちになっていただこうとスタートした「ほのぼの運動」という社会貢献活動にも2006年から力を入れています。それらは弊社のSDGs/CSR活動の一環でもあり、これまで東日本復興支援などの種々社会貢献活動なども行ってきています。

人を中心とした企業の採用と管理

ーー人材の採用についても伺えればと思います。

大河原泰:
フードビジネスのプロ集団として、各人が誇りを持って日々業務に励んでいます。弊社の考えに共感していただける方、おいしさで世界を繋ぎたい、色々な事にチャレンジしたいという意欲がある方には是非来ていただきたいと考えています。国籍も学歴も問いません。

ーー人材教育・育成で意識されている点についても教えてください。

良い部分は伸ばし、足りない部分は補い合うことで切磋琢磨して高みを目指せる組織を目指しています。また、どんな小さなことでもいいので成功体験を積み、自信に繋げられるよう、社員をサポートできればと考えています。

弊社は人に重きを置くピープルカンパニーです。例えばですが、経営陣自らが社員一人一人と面談し、直接対話を行う場が今尚年に一回はあります。全員と対話し、皆の声を生で聞くようにしています。

また、私がまだ役員だった頃はコロナ禍ということもあり、工場と本社で月1回ほどの工場長会議はオンラインにて行われていました。

私は本社から出る側の立場ではありましたが、それでは現場の状況が、皆の表情も見えず肌感覚で今一つ良くわからないという考えから、会議ごとに持ち回りで各工場を一人で訪問し、現場から会議に参加しました。画面の向こうは本社です。

その方が良く見える事も多々ありました。そういった行動をとることにより、現場との信頼関係を構築する事にも時間を費やしてきました。

或いは以前の組織は縦割りの傾向が強かったのですが、お客様へ常にレベルの高いサービスを提供し続けるためにも、組織の見えざる垣根を取っ払い、横串を通す活動にも重きを置き今に至ります。

原点に立ち返った商品開発の強化と世界進出

ーー今後の注力分野について教えてください。

大河原泰:
先ずは土台なりインフラを徹底的に強化しようと思っています。製品においてもです。例えば、最近では食がテレビに露出する番組が増えた様に思います。そこでは、芸能人、有名人の皆様がピザを食べられるシーンもあります。その後ピザのご評価をされるのですが、このトマトおいしい!とかチーズが最高!など生地に乗っている具材についてコメントをされているケースが多いようです。

しかし、殆ど誰も生地についてのコメントはされない。このサクサク感が良い!とかもっちり感が最高!とか言われない。斯様なシーンを見ると、私としては「生地屋の意地を見せようではないか。皆に生地もご評価されたい!」という熱意が湧いてきます。

ここ数年は、生地の配合から発酵まで、再度徹底研究を行っています。温度帯を問わず「この生地おいしい!」といったコメントがテレビ越しに聞くことが叶えばと思って皆で日々尽力しています。

また、今後はデルソーレの商品を、海を越えて展開していきたいとも考えています。日本の胃袋の数は人口減少に伴い年々減っていますが、人口の数を見れば東南アジアや中東、アフリカなどを考えるとまだまだ弊社の味を広げていきたい先は世界に数多くあります。

将来的には、例えばナンの本場インドで「この日本発のデルソーレのナンがおいしい」といった話題も作ることができればうれしいですね。

気になったら飛び込んでみることも大切

ーー最後に、若い世代に向けてメッセージをお願いします。

大河原泰:
私は常に現場にヒントがあると思っているので、就活などに際して興味がある会社が出てきたらありとあらゆる手法で情報を集めて、直接見に行くことを勧めます。

その上で、会社の人に接して、感じるものがあったら飛び込んでみる。例えば弊社に来ていただければ、感じていただけるものがあると信じています。そして製品も実際に食べていただいて、おいしいと思って貰った上でご一緒に仕事が出来れば嬉しいとも思います。

編集後記

一人では険しい山道も、全員で力を合わせれば、頂を目指せるはず。一人一人の力を引き出すために、新社長は社員教育にも力を入れている。「おいしさを追求するためならば手間を惜しまない」というデルソーレの味を、更に深く味わっていきたい。

大河原泰(おおかわら・やすし)/1962年神奈川県生まれ、中高時代はイギリスで生活。慶応義塾大学卒業後、三菱商事に入社、計16年にわたるドイツ駐在を経て2019年に退職後、株式会社デルソーレに入社、製造・開発部門管掌役員、戦略企画管掌役員等を経て2023年6月末に代表取締役社長COOに就任。