※本ページ内の情報は2025年3月時点のものです。

時代や情勢の変化により、これまで必要とされてきた商品やサービスの需要が急激に変わることは珍しくない。「菓子・スイーツ」という嗜好品の分野も例外ではなく、ただ味にこだわるだけでは多様化するニーズに応えるのは難しい。

株式会社ガトー・ド・ボワイヤージュの代表取締役会長兼CEOである吉田三喜雄氏は、伝統と革新を融合させながら、「世の中に必要とされる菓子づくり」を追求し続けている。その挑戦がどのように日本の食文化を進化させるのか、設立から現在、そして未来への展望を語っていただいた。

外交官志望の通訳から菓子会社の代表への転身

ーー株式会社ガトー・ド・ボワイヤージュを設立した経緯をお聞かせください。

吉田三喜雄:
私はもともと、外交官として日本の外交を変えたいという夢を抱いていました。しかし、当時は学生運動が活発で大学が閉鎖状態だったため、フランス留学を決意したのです。パリ大学言語学研究所を卒業後、通訳の仕事をしていましたが、父が亡くなったことをきっかけに菓子業界に携わることになりました。

当時、父は東京風月堂の専務を務めており、その後を継ぐ形で兄とともに新会社を立ち上げて事業を手伝うことになったのです。その後、株式会社ブールミッシュを設立し、第二ブランドとして株式会社ガトー・ド・ボワイヤージュを立ち上げた、という経緯になります。

世の中に求められる菓子を追求

ーー貴社が手がける「防災スイーツ」について教えてください。

吉田三喜雄:
弊社の「防災スイーツ」は、災害時の備蓄食料として開発された、5年間の保存が可能なお菓子です。私は「世の中に必要とされるものを作らなければならない」と常に教えられてきました。お菓子という嗜好品が必要とされ続けるためには何か付加価値が必要だと考え、防災をテーマにした製品をつくることにしたのです。

ある災害の際に弊社の菓子を被災地に届けたところ、「アレルギーが原因で子どもが食べられない」といった声がありました。被災地では医療体制も整っておらず、アレルギー反応が命に関わる可能性もあります。この経験から、「誰もが安心して食べられるお菓子を作らなければならない」との思いを強くしました。また、子どもたちが好むチョコ味のお菓子を届けたいという思いもあり、アレルゲンフリーのチョコガレットの開発に至ったのです。

ーー貴社の菓子づくりで特に大切にしている点は何ですか?

吉田三喜雄:
弊社では「生産者の顔が見える」ことを重視しています。農薬不使用や完熟した農作物を厳選し、それを原材料として使用することで、高品質の菓子を提供しています。生産者の方々から「自分たちの作物を広めてくれて嬉しい」という感謝の言葉をいただきますが、私たちも「あなたたちの作物のおかげで菓子づくりができている」と返し、信頼関係を築いているのです。

また、「安心・安全」にも強いこだわりがあります。お菓子は子どもが食べる機会が多いため、「自分の子どもや孫にも食べさせられるもの」をつくることを基本としています。たとえば、国産小麦100%の「白金鶴」、優しい甘味の「和三盆」、甘さを追求した苺「オーシャンベリー」など、厳選素材を使い、安心・安全でありながらも美味しさを追求した菓子づくりを次世代に引き継ぐことを目指しているのです。

そのほか動物性食材不使用の「ビーガン商品」や、宗教の壁の無い「ハラール認証商品」も製造しており海外からの問い合わせが増えてます。

夢は海外に日本の食を届ける未来

ーーこれからの展望について教えてください。

吉田三喜雄:
私の最大の夢は、日本の食糧自給率を向上させ、高品質な日本産の菓子を海外へ輸出して外貨を稼ぎ、日本の一次産業を守る取り組みにつなげていくことです。弊社では、生産者の方々と私たちのビジョンを共有し、無農薬への切り替えを依頼するなど、ともに取り組む姿勢を大切にしています。この活動には、大手小売業の経営者からも賛同をいただいています。

弊社の方針は「ただ美味しいだけの菓子を作らない」ことです。防災スイーツをはじめ、原材料に徹底的にこだわった製品をつくることで、社会に必要とされる菓子会社であり続けることを目指しています。

また、横浜という街の「温故知新」の精神は、私の考え方とも重なる部分があります。心掛けているのは、ただ新しいことだけを追求するのではなく、長く愛され続けるものの価値を見直し、基本を大切にするものづくりです。海外産の原材料だけでは食の安心・安全は守れません。生産者の顔が見える国産品を仕入れることで、地域経済に貢献し、最終的には外貨を稼ぐ手段へと発展させたいと考えています。

編集後記

吉田三喜雄氏の菓子づくりに対する情熱と視点は、単なる美味しさの追求だけにとどまらない。「防災スイーツ」という革新は、社会の課題に真正面から向き合い、人々の安心と笑顔を支えるものだ。さらに、生産者との深い信頼関係を築きながら、持続可能な産業の実現にも挑戦している。その姿勢は、SDGsの枠を超えて、次世代へ託す希望を形にしているといえるだろう。必要とされる価値を提供するという使命感を胸に、吉田氏とその会社が描く未来には、確かな温かみと力強さがある。

吉田三喜雄/1949年神奈川県生まれ。大阪外国語大学フランス語学科(2007年に大阪大学と統合して廃止)を経て1974年パリ大学言語学研究所を卒業。1982年、株式会社ブールミッシュを設立して取締役に就任。1999年、洋菓子製造会社ブールミッシュ・ジャポンを設立して代表取締役に就任。その後2015年に洋菓子製造販売会社ガトー・ド・ボワイヤージュを設立して代表取締役兼CEOに就任する。