※本ページ内の情報は2023年12月時点のものです。


「世界の美味しさを届けたい」という思いから、世界各地の冷凍農産物の輸入販売を中心に事業を続けてきた富士通商株式会社。

中﨑秀剛氏は、「出戻り」という立場から代表取締役社長に就任して6カ月余りだ。波乱とも言えるこれまでのキャリアや、今後の経営ビジョンについてうかがった。

私のキャリアジャーニー「営業職を辞めて司法試験、再入社後に中国赴任」

ーー2023年4月、社長にご就任されました。これまでの経緯を教えていただけますか。

中﨑 秀剛:
私は1998年に「富士通商」へ入社後、営業職につきました。その後、弁護士を目指すため2007年に一度退社しています。司法試験に向けて、ロースクールで就学しましたが、その夢は達成できませんでした。

司法試験の失敗を先代社長に報告した際に、再入社を持ちかけていただき、2011年にいわゆる「出戻り」として、あらためて富士通商の社員となりました。

再入社後に中国・青島にある現地法人に赴任し、2017年までの7年間同法人の総経理を務めました。いま思えば、この中国駐在が、経営者を目指すようになったターニングポイントとなったような気がします。

ーー経営者を志すに至った体験などがあればお聞かせください。

中﨑 秀剛:
「出戻り」した際には再び営業をやるものだと思っていたのですが、はからずも会社からは「中国で自由にやってきなさい」ということでした。

中国では、現地法人の中国人社員だけでなく、多くの中国人ビジネスマンと過ごしていました。中国の若者は、基本的に経営者や経営層になるか、なれないのであれば自分で起業する、といった意識を持っています。そういった意識を持ったコミュニティに身を置いていたことは大きいですね。

ーー中国ではどのような仕事をされていたのでしょうか。

中﨑 秀剛:
「日本のおいしいスイーツを中国に広めたい」という初代社長の声から、日本の冷凍スイーツを上海中心に展開しようとしたことを皮切りに、納豆などの日本食の輸出、青島にある学校や病院、事業所向けの給食事業、Eコマースなど、最終的にはモノにならなかったのですが、いろいろな新規事業に挑戦させてもらいました。

中でも、いいところまでもって行けた事業としては、日本のきめ細かい管理やサービスのノウハウを導入した現地でのレストラン事業がありました。これは、日本企業が中国現地で中華料理店、しかも完全なローカルフードのレストランを開いたこと、また同レストランのトップ経営者である私ですら予約が取れないこともあるぐらいの人気店となったことで、中国のメディアや日本のジェトロからも取材が来ました。

中国での仕事の環境が、私を当たり前のように経営者を目指させるようにしたのだと思います。

そして、弊社は初代社長と先代の社長(現会長)のお二人が共同で創業した会社ですが、その創業者のお二人から「次の代はお前に任せようと思っている」とのお話をいただいたとき、私は経営者となる覚悟を決めました。

未来に向けた会社としての使命と市場認知への意欲

ーー社長にご就任されてから意識されている企業の使命はございますか。

中﨑 秀剛:
まず、「冷凍野菜業界の未来はまだまだ可能性を秘めている」というのが私の事業環境認識です。

弊社創業のきっかけは初代・2代目社長のお二人が当時在籍していた商社が倒産し、冷凍野菜の部門をお2人が引き継いだことなのですが、その1983年当時はちょうど冷凍野菜の黎明期でした。おかげさまで、冷凍野菜のニーズが増え、冷凍技術も発展してきたという市場の拡大という流れにも乗って、弊社の今日の成長を迎えることができました。

弊社の使命ということでいえば、冷凍野菜は食糧問題における多くの社会課題を解決する道しるべにもなれると思っています。冷凍野菜は、使用する時期や場所を問わないため、野菜の時間的、場所的な需給バランスを整え、フードロスなどの食糧問題を解決し環境破壊を和らげる道しるべになれることを示しているでしょう。

冷凍野菜の普及によって社会課題に対峙する使命を、弊社の企業理念とすると、その社会課題をより大きく解決していくためには、市場において会社に存在感があることが重要です。「冷凍野菜といえば富士通商」というシンプルな認識が市場の中で、お客様をはじめ取引先、関係者の中で形成されるに至れば、より社会課題解決を促進することになります。

目標とする中期での売上規模について

ーー数値的な目標も掲げておられるのでしょうか。

中﨑 秀剛:
2030年までの売上目標は280億円ですが、社内に発信したことはありません。これは、経営者によっていろいろな考え方があるかと思いますが、私自身は弊社の企業文化の中で社員への旗印として、売上金額を目標として立てることは意味が無いと思っているからです。

ではなぜ、売上目標280億円という売上目標を提示するのか。一般の社員には提示していませんが、経営幹部には2030年までの達成目標として認識してもらっています。

大きくは二つの理由があります。

1つ目の理由は、弊社の使命達成のため、「冷凍野菜といえば富士通商」という認識を市場で形成していかなければならない、という点です。

業界に影響力を与えるには数十パーセントのシェアを要しますが、弊社の使命達成のために一般認知を目指すならば、6.8%という数字が一つのブレイクスルーになるという考え方があるそうです。

この6.8%という数字にあてはめ、冷凍野菜全体の量はここ数年来と同様に今後も横ばいであるとすると、7.5万トンが目安となり、これを現在の平均販売単価で掛け算すると、売上目標として掲示した280億円になります。

つまり、より良い形で使命を果たしうる目標として売上280億円という数字が導かれるわけです。

もう1つの理由は、売上目標数字の目安を持っておかないと、いろいろな経営判断ができない、という点です。

社員の補充や育成といった人材の充足、資金面での手当て、組織体制の構築、システム化を含めた業務フローの見直しなど、売上増に応じた仕事増に対応できる運営基盤を計画的に整備していかなければなりません。この判断が出来なければ、社員をいたずらに疲弊させてしまいます。

そういった理由で、経営幹部とは売上金額の目標値を共有しています。

カリスマ創業者から受け取ったバトン――社内改革を考える

ーー社内の状況について、強みや今後の課題はございますか。

中﨑 秀剛:
今日までの弊社の強みは、カリスマ的な創業者による強力なトップダウンと、社員の内発的なモチベーションが絶妙なバランスにあることです。ただ、これを引き継いだ私には創業者のようなカリスマ性はありません。

今後は、視座の高いリーダー的人材を育成し増やし、社員の内発的なモチベーションをしっかりと受け取れる体制を作ることで、よいパワーバランスを保つことが課題だと考えています。

これまで経営層は創業者のお二人のみでしたが、今組織改革として、執行役員会を置き、各部門にリーダー制をとっているのは、個のカリスマ性では組織を牽引できない私が、リーダーたちの力を結集した経営主体をもって、社員の内発的モチベーションをしっかりと受け取り、弊社の強みを次世代型で維持するために他なりません。

そして、予測困難な環境の中で、変化を受け入れ変化に対応する力をつけるには、日々の仕事の経験を積み重ねるだけでなく、外部からの気づきや刺激を取り込むことが重要であり、それこそが勉強だと考えています。そういった経験と勉強をしっかりできる人、自発的に自己変革ができる人が執行役員やリーダーに適しているのでしょう。

もちろん、執行役員やリーダーとは、私の考えを会社のビジョンという形で共有していく必要がありますし、これからの課題になりますが、ビジョンの言語化も含めてビジョンの共有浸透を進めていきます。

編集後記

不透明な世界情勢による食料の供給不安など、環境の変化がめまぐるしい現代において、さらなる市場拡大を計画している中﨑社長。

「カリスマ性があった」と語られる2人の創業者から、会社を託されるほどの人物には、やはり組織や人を動かす熱意と信念が満ちていた。

中﨑秀剛(なかざき・しゅうご)/1971年大阪府生まれ。1998年に入社し、2007年に就学のため退社。2011年に再入社したあと、同社の中国現地法人総経理、東京営業所長を経て、2023年4月に同社代表取締役社長に就任。