※本ページ内の情報は2023年12月時点のものです。

低糖質&低塩分を謳った冷凍弁当やデリバリーが大好評の「株式会社おいしいプラス」。

全てのレシピを考案しているシェフであり、代表取締役会長の江﨑新太郎氏に、会社の設立秘話や今後の展開について伺った。

生涯飲食畑――江﨑新太郎の歩み

ーー江﨑会長のご経歴を教えていただけますか。

江﨑新太郎:
僕は中学生の頃から「将来は飲食店を経営したい」と思っていました。母と行ったコーヒー店でかっこいいマスターと出会い、親に内緒でアルバイトを始めたのが僕の原点です。

経営者を目指して大学へ進んだものの、在学中に「自分は作る側の人間だ」と気持ちが変わりました。大学卒業後、赤坂の料亭で10年ほど修行し、独立して青山に店を出しました。

ーー八ヶ岳へ移られた背景についてもお聞かせください。

江﨑新太郎:
東京で甲斐犬を飼い始めてから、甲斐犬のふるさとである山梨に毎週末通っていました。山梨で仕事がしたいと思うようになり、移住して今年で5年目です。

地元の食材を使いたくて地方で出店する人が多いですが、僕は地産地消にこだわらず全国から食材を仕入れています。日本料理は魚が中心なので、海なし県である山梨の人たちに楽しんでいただける自信がありました。

「おいしい」のその先へ――「糖質制限」を広める旅

ーー「おいしいプラス」の設立に至るまでのお話をお聞かせください。

江﨑新太郎:
経緯は現代表取締役社長である伊東との出会いに始まります。僕の料理を気に入った彼に、「糖質制限を謳ったレストランを出してくれ」と頼まれました。僕は以前、北里大学の先生と一緒に本を出版し、糖尿病や糖質制限の料理コースを作ったことがあったため声がかかりました。

店舗を広げるつもりはないと断りましたが、伊東は諦めませんでした。お弁当の監修であれば手伝えるということで、2014年に会社を立ち上げて現在9年目になります。

設立当時は「糖質制限」という言葉が世間に浸透しておらず、最初に出した実店舗は1年で撤退しました。糖質オフのビールがヒットして、糖質制限のメリットが世間に広まると、弊社のビジネスも追い風を受け、利益が少しずつ出始めました。

冷凍弁当で「味」と「健康」を両立

ーー冷凍弁当の販売にも注力されています。

江﨑新太郎:
「食の楽しさ・おいしさがわかるお弁当を作ろう」という思いから、2020年に冷凍弁当のプロダクトを開始しました。糖質は40g以下、塩分は2〜3g以下で、糖尿病の患者さんにも食べていただけるお弁当です。冷蔵弁当も糖質制限はしていますが、ドクターが基準とする、より厳しい数字を目指しました。

私たちは「糖質制限弁当のパイオニア」という自負もあります。糖質制限のお弁当は増えてきましたが、ご飯を抜いているなど物足りないものが多いですよね。「おいしいプラス」では、こんにゃく米を白米に混ぜることで、健康とボリューム感を両立させています。もちろん、味にも自信があります。

ーーターゲットは健康志向の方でしょうか。

江﨑新太郎:
「世の中から肥満や病気を減らす」というのが、私たちの根本的なビジョンです。現在、日本には糖尿病患者が予備軍も含めて6人に1人、世界では10人に1人いるとされています。

高血圧症の方は3人に1人、世界では7人に1人です。さらに、WHOによると18歳以上の成人で肥満にあたる人は約3割というデータもあります。

糖質制限で健康問題を改善するのは、不可能な話ではありません。もちろん、健康状態や年齢層は関係なく、幅広い方に楽しんでいただけるとうれしいです。

大手製薬会社との相互利益の関係を構築

ーーロート製薬様と資本業務提携されたとお伺いしました。

江﨑新太郎:
ロート製薬様と弊社は、「徹底したおいしさと健康を両立することでお客様へ感動を提供し、持続可能な食のあり方を作りたい」という共通意識があります。製薬会社であるにもかかわらず、薬に頼らない健康を目指そうというのは凄いことですよね。

今後は共同ブランドを立ち上げ、新たなフードテック商品も生み出す予定です。自社マーケティングの強化と販売網拡大も可能になっていくでしょう。

ーー貴社としては、どういった状態がゴールだとお考えでしょうか。

江﨑新太郎:
健康志向に限らず「食が楽しくなるもの」であればいいと考えています。

たとえば、味気ない病院食の分野に弊社のお弁当を提供していけたらと思います。安価なものではないので、たまのご褒美というのも良いですよね。

エビデンスを出していけば、難しい医療業界にも入っていけるはずです。まずは、最近医学の世界で注目されている「ケトン体」について相談を進めていこうと思います。

採用の方針と若手に送るエール

ーー若手の方に向けたメッセージをいただけますか。

江﨑新太郎:
弊社では、工場や売り場のスタッフが慢性的に人手不足です。経営戦略を一緒に考える若手社員も必要です。「前へ前へ」という思いのある人をお待ちしています。

業界を問わず共通していることは、「やろうと思えば人はなんでもできる」ということです。一歩を踏み出す勇気だけが必要で、うまくいかなければ方向転換もありなのです。

格好つけてもしょうがないので、素直なことも大切です。若いうちは、「自分のためを思って言ってくれている」という姿勢で、先輩や上司の言うことを素直に聞いて日々の行動に活かすことが、自分のためになるでしょう。

編集後記

ミシュランガイド東京において、7年連続3つ星を獲得してきた江﨑シェフ。「おいしいプラス」が掲げる「世の中から肥満や病気を減らす」という目標は、実現が強く求められる社会的課題だ。料理人として、会長として、大きな夢に挑む彼を支持する人は今後も後を絶たないだろう。

江﨑新太郎(えさき・しんたろう)/1962年東京都生まれ。法政大学を卒業後、東京・赤坂の料亭で修行を始める。1994年、東京・青山に「青山 えさき」を開店。2018年に山梨県の八ヶ岳南麓へ移転し、「八ヶ岳 えさき」を開店。2014年、株式会社おいしいプラスを設立および代表取締役会長に就任。