※本ページ内の情報は2023年12月時点のものです。

再生医療における市場規模は、2050年には国内で約1.3兆円、世界では約15兆円になると予測されている。

2014年9月、世界で初めてiPS細胞を用いた移植手術が行われたのを皮切りに、患者や医療従事者だけでなく、関連事業者からも高い注目が集まっている。2003年の設立から20周年を迎えた株式会社リプロセル。大学発のiPS細胞技術を持つバイオベンチャー企業として、業界内で高い知名度と実績を誇る。

今回は、代表取締役社長である横山周史氏に、リプロセルの強み、今後の展望についてうかがった。

目指すは医療業界での社会貢献

ーー多くのベンチャー企業が設立される中、なぜ貴社を選んだのでしょうか。

横山周史:
弊社は、2003年に京大の中辻憲夫教授や東大の中内啓光教授が持つ、細胞研究技術を基にして設立された会社です。しかし、会社を立ち上げたものの、事業計画や資金がなく、経営者もいなかったことから、私が参画することになりました。

当時は、ES細胞を利用した医療の研究が盛り上がりを見せていました。医療業界で社会貢献度が高い事業に携わることに魅力を感じたのと、以前勤めていた会社での新規事業のマネジメント経験を活かせると思ったことが入社の理由です。

ーー競合する企業はありますか。

横山周史:
弊社と競合する企業はそれほど多くありません。
再生医療や創薬の分野では、エビデンスが大変重要です。人体への安全性を実証するための研究やデータの蓄積が必要となります。

ところが、製薬会社が行う新薬の研究開発には9年から17年の長い期間と、1品目につき約500億円もの多額の費用がかかります。
そのため、再生医療や創薬の分野では、短期間で出たデータやアイデアでは勝負できない部分があるのです。

弊社は2003年に設立してから20年経ちますが、この20年間の蓄積が、再生医療の分野で開花し、今では業界でもトップにいることができていると思っています。

画期的な探求が拓くビジネスの強み

ーー貴社の強みはどこにあるとお考えでしょうか。

横山周史:
弊社の強みはiPS細胞の高い技術力と、再生医療研究や創薬研究に必要な試薬をトータルで提供できることです。

製薬会社向けの創薬支援の例でいえば、iPS細胞から心筋細胞や神経細胞を作成するために研究者の技術が必要です。高度な技術が必要で、作成に失敗することも多々あります。そのため、研究の一部を外部に委託することがあります。

それを弊社の高い技術力を持った製品でカバーすることで、お客様は社内で一括して研究開発ができるようになります。

iPS細胞の領域では弊社が日本一であると自負しています。

ーー貴社が現在力を入れている分野についてお聞かせください。

横山周史:
弊社は神経系の分野に特に力を入れています。ALS(筋萎縮性側索硬化症)という、手足が動かせず寝たきりになり、呼吸もできなくなる病気があります。その症状を治すための開発と活動に取り組んでいます。

今は病気になってから治療するのが主流ですが、症状が進行しないようにする予防医療の分野にも再生医療のニーズがあります。

先端技術を化粧品へ活用

ーーヒト幹細胞入りの化粧品を見かけますが、使っても大丈夫なのでしょうか。

横山周史:
もちろん、使っても大丈夫です。ヒト幹細胞は人の脂肪からつくられたものです。脂肪細胞を培養した培養液に含まれる良い成分を取り出します。ヒト幹細胞には肌の悩み改善にいろいろな効能があるといわれています。

国内から海外へ向けて、さらなる挑戦と追求

ーー今後、社長が思い描く事業戦略についてお聞かせください。

横山周史:
iPS細胞技術は世界中の患者さんに向けて提供できる技術です。弊社は国内だけでなく海外へも事業展開しており、今後もより多くの市場を獲得したいと思っております。

また、最近はiPS細胞を使ったがん治療法の開発のためのプロジェクトを運営しています。iPS細胞はさまざまな細胞や形に変えられます。弊社はiPS細胞技術を強みとしているので、iPS細胞をより広い分野で利用できるよう加速させることが、究極のゴールです。

編集後記

プラズマディスプレイの部材開発のマネジメントを経て、先端医療の分野へ飛び込んだ横山周史社長。日本が誇る同社のiPS細胞技術の利用を加速し、再生医療市場世界No.1を目指す。株式会社リプロセルの挑戦はこれからも続く。

横山周史(よこやま・ちかふみ)/1968年大阪府生まれ。1996年東京大学大学院卒業。同大学院にて工学博士号取得。1996年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。1997年スリーエムジャパン株式会社入社。プラズマディスプレイの部材開発のプロジェクトマネージャーを務める。2004年株式会社リプロセル入社。2005年同社代表取締役に就任し、現在に至る。