アッヴィ合同会社は、米国に本社を置く研究開発型のバイオ医薬品企業の日本法人だ。
創業から10年間で従業員数や売上を飛躍的に伸ばして急成長している。
ジェームス・フェリシアーノ氏は日本語が堪能で、「日本で社長になりたい」という目標をかなえた人物だ。社長に就任するまでの経緯や事業の強み、採用活動、今後の展望などについて話をうかがった。
語学力を武器に切り開いた社長への道のり
ーー貴社の社長に就任されるまでの経緯を教えてください。
ジェームス・フェリシアーノ:
アメリカの大学院を卒業した後に来日し、岐阜県で英会話教師をしていました。約5、6年間続けましたが、「もっと日本語を勉強したい」と思い、その後、日本語能力試験の1級を受けて無事に合格しました。そのおかげで、日本の大手精密機器メーカーに入社することができました。
ある時、アメリカの経営層との会議の場で、ある役員から「ジェームスは語学力も優れているので、今後ビジネスで活躍するためにはMBAを取得したほうが良い」とアドバイスされました。その後退職してMBAを取得し、製薬業界に入ることになりました。
製薬会社では、多くの社長たちと関わる機会があり、その中で経営のトップに立つことに憧れを抱き、「日本で社長になりたい」と思うようになりました。それからは社長になるための経験を積み、製薬会社の代表取締役社長を経て、2015年にアッヴィ合同会社の社長に就任しました。
1800人の社員が一丸となって同じ目的に向かう“3Cマインドセット”
ーー社長に就任後に売上が急成長していますが、どのようなことに取り組みましたか?
ジェームス・フェリシアーノ:
10年前の弊社は、主力製品が2つしかなく、将来性や成長戦略がまだ十分ではありませんでした。
しかし、私は日本のマーケットに可能性を感じていたので、グローバル企業の日本本社で働く代表として、アメリカの親会社に向けて「日本市場のポテンシャルや投資の必要性」を訴えました。それが功を奏し、親会社からの投資を得て、日本のビジネスの急成長につなげることができました。
ーー事業を進める上で大切にしていることは何ですか?
ジェームス・フェリシアーノ:
社員全員が同じ目的に向かって進むことを大切にしています。そのために私は、2015年に弊社に入社してすぐに5カ年計画を立て、ビジョンやゴール、優先事項を明確にして、社員と共有し、共にゴールを目指すことを確認しました。
全員が一丸となって同じ方向に進めたおかげで、当時掲げた5カ年計画を前倒しで達成しました。
ーー仕事上で心がけることとして、社員に伝えていることはありますか?
ジェームス・フェリシアーノ:
「コミュニケート」「コラボレート」「セレブレイト」(Communicate, Collaborate, Celebrate)の“3Cマインドセット”を大切にするよう伝えています。
よりよい仕事を行うには周囲の人達との連携が欠かせないので、「しっかりと話し合うこと」「力を合わせること」「相手を思いやること」を大切にしており、私たちの合言葉のようになっています。
弊社には現在1800人以上の社員が在籍していますが、この3Cは社内に浸透し、全員が認識・実践しています。毎月新入社員に対する入社オリエンテーションの場でも、私が直接この3Cマインドセットの大切さを伝えるようにしています。
トップクラスの臨床試験数で業界を牽引
ーー貴社の事業の強みは何でしょうか?
ジェームス・フェリシアーノ:
弊社がスタートした2013年は臨床試験数が14件だったのに対し、2023年には90件を超えるまでに成長しました。この臨床試験数は業界でもトップクラスであり、豊富なパイプライン(新薬候補)は他社と差別化できる強みのひとつです。
また、既存製品の最大化、パイプラインの加速、社員のエンゲージメント(働きがい)の向上、社会貢献活動や環境への取り組みなど、さまざまな企業活動を通じて、少しずつ知名度を上げることができ、今日の成長につなげられたのだと思います。
優秀な人財の確保とエンゲージメント向上の2軸を大切に
ーー貴社の採用活動の状況について教えてください。
ジェームス・フェリシアーノ:
弊社では中途採用で入社した社員がほとんどです。複数の人財会社に協力をお願いしていますが、多くの優秀な人財から応募がきます。社員が信頼する人を紹介してくれる「リファラル採用」は成功する確率が特に高いですね。
また、弊社は社員のエンゲージメントが非常に高いので、離職率も業界平均を遥かに下回っています。
ーーエンゲージメント向上のために取り組んでいることは何ですか?
ジェームス・フェリシアーノ:
豊富なキャリアパスを用意しています。会社を成長させるためには、社員一人ひとりの成長が不可欠です。その成長のために、柔軟にキャリアが構築できる環境をつくっています。
弊社は現在も成長中で、いろいろな事業が拡大しており、目指せるキャリアパスが多いことは強みだと思っています。
日本でベストカンパニーになることを目標に
ーー今後の展望を教えてください。
ジェームス・フェリシアーノ:
これからの10年は、次の世代にバトンタッチする時期だと思っています。
若手の優秀な「人財」を育成し、私が担っているマネジメントの部分も含めて、いずれアッヴィを担う次世代の後継者を育てることが私の重要な任務だと思っています。
海外の社員が日本で働くことはありますが、その逆はあまりないので、経験値や刺激を高めるためにも、日本の社員がもっとグローバルで活躍する機会を増やしていきたいと思います。
また、2021年からスタートした「Road to the Best」という5カ年計画では、2025年までに「日本でベストカンパニーになる」ことを目指しています。そのために、「働きがいの追求」「ビジネスの成功」「社会とのつながり」を掲げています。この3本柱に沿って、組織の強化や事業の発展に尽力していきたいと考えています。
編集後記
社長に就任してから現在に至るまで、ビジネスの成長、臨床試験数の急伸や社員数の増加など、多くの功績をけん引してきたフェリシアーノ社長。
「2025年には、日本でベストカンパニーになる」という目標を掲げ、事業と組織の拡大に精力的に取り組んでいる。
さらなる発展に向けて挑戦を続けるアッヴィ合同会社から、今後も目が離せない。
ジェームス・フェリシアーノ(James C. Feliciano)/1993年、ミシガン大学日本学科修士課程修了。1999年、キヤノン株式会社に入社、新製品開発に従事。2002年、コーネル大学にてMBA取得。同年、米国ワイス社(現:ファイザー株式会社)に入社、アジア太平洋地域の業務に従事。2009年、ファイザー株式会社に入社、ワクチン事業統括部長。2013年、メルクセローノ株式会社(現:メルクバイオファーマ株式会社)に入社し、代表取締役社長に就任。2015年、アッヴィ合同会社に入社し、社長に就任(現職)。