※本ページ内の情報は2024年1月時点のものです。

シンクタンクによると、国内メタバース(仮想空間)市場規模は2022年度に前年度比173%の1,377億円、2023年度は同207%の2,851億円、2026年度は大台超えの1兆4000億円と予測。インパクトのある拡張を続けている。

monoAI technology株式会社(2013年設立、神戸市)はネットワークゲームの開発に端を発するIT企業で、現在はXR(クロスリアリティ)をコア事業として勢力的に活動している。

2020年に独自のメタバースプラットフォーム『XR CLOUD』をリリースし、2022年には東証グロース市場に上場。名実ともに有力企業の仲間入りを果たした。

基礎を積み上げながら確実に成長を遂げてきた同社の足跡をたどるべく、創業者である代表取締役社長の本城嘉太郎氏に、起業までの経緯や今後の展望についてうかがった。

ゲームとプログラミングに明け暮れた黎明期

ーー独立・開業するまでのご経験や経緯をお聞かせください。

本城嘉太郎:
学生時代はバイトで稼ぐ生活をしていました。大学にはたいして行かず、自分の中でその意味を見出せずにすぐやめました。その後プログラムの仕事を始めたという感じです。

新聞配達のバイトをしていた私は、配達所の先輩から紹介を受けてプログラムの仕事を始めました。もともと集中力はある方で、3か月勉強したらある程度できるようになりました。新大阪にある従業員が5人ぐらいの会社で半年間働いた結果、そこで学べることは全て得たと感じました。

その後はしばらくフリープログラマーとして車のミッション診断機のプログラムや、CDの検索システムをつくり、何でも屋をしながら腕を磨いていました。

そして鍛えたスキルを武器に、23歳で大手ゲーム会社に就職し、大ヒットホラーゲームの特別版などを制作しました。本当はオンラインゲームをつくりたかったのですが、2001年当時の業界や文化的にまだ技術が足りなかったようです。

「オンラインゲームを本格的につくりたい」と思って起業したのが2005年です。京都を出て東京で法人登記して、3年ほどでついにガラケー初の『フルボイス乙女ゲーム』を完成させました。

その後もソーシャルゲームを制作しながら、次なるステップを虎視眈々と待っている状況でした。

カフェを借り切ったイベントから一気に拓けたXR事業

ーーVR・XR事業はどのようにして始まったのでしょうか?

本城嘉太郎:
何十人が同時対戦するゲームのライブラリ(プログラム部品を複数集めてファイルに収納すること)も得意でしたから、リアルタイム通信のゲームが流行るだろうとモノビットリアルタイム通信エンジン(オンラインゲームを制作するための高機能なソフトウェア)を開発しました。2013年のこの事業がまさに現在のバーチャルプラットフォーム「XR CLOUD」の礎になっています。

2016年は世間でVRの実用版が出だした頃。「これは間違いなくヒットする。ゲーム業界以外でも使える」と確信し、さっそくXR事業を立ち上げました。

あるときカフェを借り切ってVRイベントを開催したところ、かなり好評で5日間で約1000人以上の参加者を集めることができました。そのうち半数が通信会社や自動車メーカーの新規事業の開発担当者で、「VRで何か始めろと言われているが、どうしていいか分からない」人たちでした。

その方々との出会いによって、ゲーム業界以外の多くのクライアントを獲得することができ、その流れからAI事業をかけ合わせて現在の組織を完成させ、XR CLOUD開発の足がかりとなったわけです。

VRがスマホのように身近になるこれからがチャンス

ーーサービス面での課題があればお聞かせください。

本城嘉太郎:
顧客オリジナルのメタバースプラットフォームを独自開発するサービスでは、1件当たり2000万〜5000万円、XRクライドプラットフォームを提供してイベントだけ実施する場合は1件あたり250万円前後というプランもあります。

案件の単価の差が大きく、それにともなって業績が大きく変動しますので、両者の価格の間をとって安定的に収益を上げる仕組みを現在つくっているところです。

ーーメタバース事業の展望はどのようにお考えでしょうか。

本城嘉太郎:
米大手IT会社のゴーグル型端末「VisionPro」が登場したことにより、マニアックだったXRの世界が身近な存在になりつつあります。

パソコンの周辺機器として普及し、スマホのように皆が使用する時代が少し先にきていると考えると、感動的ですよね。
このチャンスをもちろん事業としても活かしていきたいと思います。

ーー最後に、求める人材の具体例はありますか?

本城嘉太郎:
中途採用では、昔からコンシューマーゲーム(家庭用ゲーム機)をつくってきて、その技術をゲームではなくXRや新しいことに使ってみたいという方は大歓迎です。

また、街をはじめ社会的対象物をバーチャル化して人流の分析や、人がどこで何をしたか分析してほしいというニーズが高まっています。そのため、今後はデータアナリストのような人材も必要になるため、VR好きの方に向いていると思っています。

つくる方でなく営業系では、イベント設計やプロデューサーのような経験をお持ちの方にもぜひ力を貸していただきたいと思います。

編集後記

本城社長は好きな言葉として「塞翁が馬」のことわざを挙げ、「何が起きても平常心で、どんと構えているのが一番。突発的なトラブルに見舞われ、気持ちが沈み、諦めて辞めるのは良くない」とコメント。良くても浮かれず悪い時もくじけずにという教訓は、まさに企業活動にも当てはまるだろう。

一方で「私たちは中小企業ですから、つねに苦労の連続です」と意外な発言もあった。
インタビュー終始、落ち着き払った口調の本城社長。苦労をまったく感じさせない冷静沈着な態度こそが、非凡さを生み出す理由かもしれない。

本城嘉太郎(ほんじょう・よしたろう)/1978年神戸市生まれ。サーバエンジニア、大手コンシューマゲーム開発会社を経て、2005年にmonoAIを創業。2013年にモノビットリアルタイム通信エンジンの販売を開始、その後2020年に大規模仮想空間基盤『XR CLOUD』をリリース。2022年にメタバース企業として、日本初の東証グロース市場への上場を果たす。