※本ページ内の情報は2024年1月時点のものです。

経済成長が著しい東南アジアは、人口が多く、若年層も多い。消費の多様化やデジタル化により、さらに発展していくと期待されている。

いち早くこの市場に目をつけたのが、AnyMind Group株式会社の代表取締役CEO、十河宏輔氏だ。

同社は商品開発から生産、EC、物流、マーケティングまでをワンストップで支援するプラットフォームを、世界15ヶ国・地域22拠点で提供するテクノロジーカンパニーだ。

「ネット広告やeコマースなど、王道のビジネスをしているだけです」と語る十河社長だが、起業から7年という短期間での成長には目を見張るものがある。

創業期から現在まで、どのような軌跡をたどったのか十河宏輔社長にうかがった。

営業から最年少役員へ。そして、東南アジアを舞台に起業を果たす

ーー起業に至るまでのストーリーをお聞かせください。

十河宏輔:
私の父方と母方の祖父がともに起業家だったこともあり、幼少期から起業家になりたいと夢見ていました。高校時代になると、堀江氏や三木谷氏、孫氏などのインターネット第1世代の起業家たちが、メディアに登場していました。彼らの影響もあり、ネット関連のビジネスをしたいと思い、素人でも簡単にできるヤフーオークションで出品を始めました。この経験を通じて、ネット販売の基礎を学べたと思います。

2010年、サイバーエージェントグループだった株式会社マイクロアドに新卒入社しました。インターネット広告が急速に普及し、新たなビジネスモデルとして注目を集めていた黎明期において、同社は広告システムを手がけていました。

ネットビジネスにおいて、広告は王道のビジネスモデルです。ネット広告の知識やスキルは不可欠であり、本格的に学んでおこうと考えたのです。同社には6年在籍しました。

営業からスタートし、入社3ヶ月目には全社MVPを受賞しました。そこから1年目には新規事業の立ち上げを経験し、2年目の後半からは、海外拠点の立ち上げとマネジメントを担当しました。

最初はベトナム法人の社長として事業の立ち上げを成功させました。その経験を活かして、フィリピン、シンガポール、マレーシア、タイといった複数拠点の立ち上げとマネジメントを統括しました。この間に現地法人の社長として、さまざまな経営の経験を積むことができました。この成果が評価され、最年少で幹部に、さらに最短で役員に就任しました。

その後、「インターネットのグローバルビジネスにおいて、なくてはならない存在となるような会社をつくりたい」「アジアを代表するような会社をつくりたい」という思いから、独立しました。

ーー起業当初からアジア全域を視野にいれた理由を教えてください。

十河宏輔:
前職で6ヶ国の拠点を統括した経験を通じて、東南アジア市場の魅力を強く実感したからです。東南アジアは人口6.7億人を超える巨大市場で、平均年齢が若いことが特徴です。例えばインドネシアでは、平均年齢が28歳程度です。そのため、今後のビジネスの構造はデジタルやインターネット中心になっていくだろうと考えました。

当時、東南アジアには楽天やソフトバンクのようなIT企業がありませんでした。それならば、ネットビジネスのインフラとなるような会社を立ち上げられるのではと考え、2016年4月、AdAsia Holdings(アドアジアホールディングス、現AnyMind Group)をシンガポールで創業しました。シンガポールは、地理的な利便性と優遇された税制、スタートアップを支援する環境など、さまざまなメリットを有するアジアの拠点として、多くの企業に選ばれています。

スピード感を持ってコロナ禍を乗り越える

ーー創業してからのご苦労をお聞かせください。

十河宏輔:
忘れもしません、コロナ禍下の2020年4月7日、現在のオフィスに引っ越したその日に緊急事態宣言が発令されました。日本での事業が急成長していたので、300人が入れるスペースを借りましたが、ほとんど誰も出社できず、大きな固定費だけが発生する状況になりました。

コロナ禍を乗り越えるために、これまでの「成長を重視した経営」から「生産性を意識した経営」へ舵を切りました。弊社の特長は組織が大きくなっても、変化に迅速に対応できるところです。

緊急事態宣言後1ヶ月以内には方針変更をしたことを全社に伝え、「コスト削減プロジェクト」などモードを切り替え、スピード感を持って乗り越えていきました。

グローバル展開を武器に、D2C事業で市場シェアを拡大

ーー貴社の強みを教えてください。

十河宏輔:
弊社はグローバル展開を前提としたプロダクト開発と、世界15ヶ国へのビジネス展開により、東南アジアやその他のアジア諸国を中心として確実に成長を続けています。

すでに収益の半分以上は、今後間違いなく成長が見込まれるそれらの地域から生まれています。日本以外でも利益を得ていることが強みであり、弊社の競争力を高めていくと考えています。

また、ビジネスをグローバルに展開していることにより、1つの国だけでなく、アジア全域でマーケティングやeコマースのサポートを提供することができます。この点もクライアントから高く評価されていると思います。

これは一例ですが、韓国のコスメブランドが東南アジアや日本に進出した際に、弊社のプロダクトを提供しました。このように他の国から海外展開する時にも活用いただいています。

ーー今後の中期的な展望を教えてください。

十河宏輔:
引き続き、プロダクトの強化と開発を継続し、市場の成長に貢献しながら、安定的に成長していきたいと考えています。

特に、D2C(Direct to Consumer)・ECの領域では、EC市場の急成長に伴い、多くの企業が販売高を伸ばしています。弊社は、ECソリューションとマーケティング支援の両面から、アジア全域の企業を支援できる唯一無二の存在を目指しています。弊社の強みを活かして、確実に市場シェアを拡大していきたいと思っています。

また、たとえばインドネシアで契約をしたクライアントに対して「他の国でもどうですか?」というような“クロスボーダー戦略”を提案しています。この戦略は近年特に注力しています。

そのためにも現地各国で、顧客ニーズを的確に捉え、迅速かつ効率的にサービスを提供できるオペレーション体制を構築することが不可欠だと考えています。

事業においては、D2C事業の深化を最優先事項と捉えています。そして組織面では、1,500名以上を超える規模となったことから、各国の経営チームの強化が必要です。短期・中期的には、各国のローカルマネジメントチームの強化に注力していきたいと思います。

データベースを構築し、インフルエンサーマーケティングを成功に収める

ーーマーケティング手法について、貴社独自のものがあるとお聞きしました。

十河宏輔:
インフルエンサーやSNSを活用したマーケティング手法が急速に普及し始めた頃に、「AnyTag」というインフルエンサーマーケティングプラットフォームを立ち上げました。いまや61万人以上のインフルエンサーが登録しています。

このシステムは、インフルエンサーのフォロワー数や投稿頻度、ターゲット層など、さまざまな情報を収集し、データに基づいて企業と最適なインフルエンサーをマッチングするという点で、非常にユニークなものとなっています。この点を評価され、大手企業や大手広告代理店からの支持を得て、順調に事業を拡大することができました。

データが蓄積されることで、当社のプロダクトの精度が高まり、企業の顧客獲得も容易になります。これにより、プロダクトの開発と営業活動が、相乗効果を発揮しています。

また、昨今のインフルエンサーマーケティングはルールが明確化されて透明性や効果が向上し、安心して取り組める環境が整いつつあり、さらに市場が拡大していくと考えます。

編集後記

東南アジアで「ネットビジネスのインフラ企業」を目指して起業し、またたく間に世界15ヶ国までビジネスを展開させた十河社長の姿に、強いリーダーシップを見た。

あらゆるビジネスをデジタル化することを掲げ、さまざまなプラットフォームを提供している同社の勢いには多大なる可能性を感じた。

十河社長の挑戦に、これからも注目していきたい。

十河宏輔(そごう・こうすけ)/1987年香川県生まれ。2016年シンガポールにてAnyMind Group(旧AdAsia Holdings Pte. Ltd.)を創業。EC/D2C・マーケティング・生産管理・物流を一気通貫で支援する事業を世界15ヶ国・地域22拠点で展開。9つの自社開発プラットフォームと各領域のプロフェッショナルチームにより、デジタルビジネス領域における統合的なサポートを提供している。