お客様や従業員の声が“見える”!?
感情解析技術が生み出す真の企業成長とは


株式会社Emotion Tech 代表取締役 今西 良光

※本ページ内の情報は2017年1月時点のものです。

『Emotion Tech』は、顧客や従業員の感情データを数値化・分析し、収益改善につなげるクラウド型ロイヤルティ向上支援システムだ。感情解析技術を用いて顧客の声をリアルタイムに“見える化”することで、企業はスピーディーかつ的確に顧客満足度を上げる施策を取り、継続的な成長を果たすこともできる。2013年に創業した会社のサービスでありながら、すでに大手企業を始めとする160社以上に導入されている。

今回お話を伺った株式会社Emotion Techの代表取締役、今西良光氏は、日立製作所を経てファーストリテイリングに転身するという異色の経験の持ち主だ。ユニクロで店舗運営をする中でスタッフに言われた一言が、『Emotion Tech』の構築に繋がった。企業が顧客や従業員の感情に真摯に向き合うことにより“正しい成長”が生まれるという今西社長に、今後の展開を伺った。

今西 良光(いまにし よしみつ)/大学卒業後、日立製作所入社。官公庁担当の営業に従事する。組織のマネジメントに関わりたいとファーストリテイリングに転身。ユニクロの店舗運営に携わる中で、組織や経営の課題に気付き、起業を決意。大学院で経営を学んだ上で、株式会社Emotion Tech(旧・株式会社wizpra)を立ち上げる。

組織の課題に気付いた瞬間

-感情解析技術を用いた『Emotion Tech』とは、どのようなものですか?

今西 良光:
導入して頂いた企業のお客様に、スマートフォンやタブレットなどによりアンケートの形で商品やサービス、ブランドについてフィードバックして頂き、NPS(ネットプロモータースコア)という指標を用いて数値化します。NPSは愛着度(ロイヤルティ)を定量化するだけでなく、収益に対して強い相関性を持ちます。よって数値を上げていくとお客様の満足度が上がり、売り上げが上がる、またはコストが下がるという効果が出る。当社ではデータを取得するだけでなく分析し、改善点を提示するなどの経営サポートを行っています。


-日立製作所の営業職からファーストリテイリングへ転身の後、大学院で経営を学ばれました。起業されたきっかけをお教えください。

今西 良光:
日立製作所で働くうちに、自分から人を巻き込んで新しいことをしたいという気持ちが高まりました。しかし日立製作所では、部下を持ち、組織を統率する立場になるまでが長い。ユニクロ(ファーストリテイリング)ならスタッフと一緒になってお店を作っていくという経験が早くにできると思って飛び込み、店舗運営に携わりました。

しかし、いざサービス業の現場に立つと、組織として改善できる余地が非常にあるように感じました。なかなか内部から変えることは難しい、それなら変えられる仕組みを作ろうと起業を思い立ちました。ファーストリテイリングを2年で辞した後、起業の準備期間として大学院で経営を学び、1年後に起業しました。

-どのようなビジネスプランをお持ちだったのでしょうか?

今西 良光:
当初は従業員同士で褒め合うような、いわゆるサンクスカードの機能を持つアプリを打ち出しました。これは、ユニクロの女性スタッフの一言がきっかけです。

僕は、統括する人によって組織の雰囲気が変わることを体験してきたので、自分がマネジメントをする側に立ったら、皆がイキイキと働けるお店を絶対に作ろうという意気込みで転職しました。しかし入社から2-3か月が経ち、昇給させなかったスタッフとのキャリア面談の中で、「今西さんは全然私のことを見ていない」とダイレクトに言われたのです。その人は社内では愛想のいいタイプではありませんでしたが、周囲に接客ぶりを聞くと実は固定ファンがいるくらい接客のすばらしいスタッフだとわかりました。適性に評価できていなかった自分自身に、非常にショックを受けました。

意識を完全に変え、もっとコミュニケーションを取ろうとしましたが、物理的に膨大な業務がある中、なかなか実行できません。自分は、皆のモチベーションを上げつつ売り上げも上げられるような、ごく一部のカリスマ店長ではありませんでした。なら自然に社員の動機づけができるような仕組みを作ろう、と思い立ったのです。サンクスカードの仕組みで、従業員たちの声を視覚化して良いところを共有すれば、サービスクオリティが上がり売り上げも増えると、感覚としてわかっていました。しかし紙の扱いは煩雑になるので、アプリで自動化したのです。

-どのようにして『Emotion Tech』に繋がっていったのでしょうか?

今西 良光:
サービスの主旨に共感してくださる方は多いのですが、売り上げやコストの明確な変化といった投資対効果を示すことが出来ず売れませんでした。そして経営者から言われたのが、社内コミュニケーションも重要だが、まずお客様の声を可視化したいということ。お客様により良いサービスを提供したいという経営する側のニーズが、営業するうちにわかりました。これもユニクロでの経験からになりますが、社内のメンバーに褒められることも嬉しいですが、お客様から名指しで良い評価を頂いた時のスタッフの喜びようは段違いなのです。店長が皆の前で発表したりすれば、店舗全体が盛り上がる。結果として皆がイキイキするのです。

お客様の声の見える化は、経営者のニーズも満たし、自分の目指していたこととも繋がる。そこに至ってさらに投資対効果を定量化して顧客に示すことができるNPSと出会い、『Emotion Tech』が生まれました。2013年3月に創業し、右往左往しながら2014年8月に『Emotion Tech』をメインに切り替え、2016年12月には社名をサービスと統一しました。

国内トップクラスのデータ量と解析力

Emotion Techにストックされているロイヤリティデータ量は国内トップクラスと力強く語る今西社長。

-他社と比較した、御社の強みを教えてください。

今西 良光:
蓄積されたデータ量と、独自に開発した統計解析フレームが強みです。当社は感情解析に特化して160社以上の会社のニーズを聞きながら、お客様から得た情報をどのように扱えばより良いサービスが提供できるかを分析する練度を上げてきました。NPSで感情をとらえるアプローチは他社にもありますが、データの料理の仕方や顧客に応じた調味料の入れ方、秘伝のレシピはおそらく今は世界中探しても当社だけの技術です。

そして今後はいかに多くのデータが貯められるかが価値になります。サービスを評価して頂き、さらに他社からもご依頼頂ければ、より多くのデータが得られます。そうして集めたビッグデータを解析することで、導き出した改善点に対する打ち手をレコメンドすることができる。当社にストックされているロイヤルティデータの量は、国内でもトップクラスだと思います。


-今後の展開はどのように考えていらっしゃいますか?

今西 良光:
感情データをさらに追及していきたいです。目の前のお客様がどのようなポイントに満足して頂いているかはとても重要な点です。感情を捉える手法は、アンケート以外にもたくさんあります。顔の表情や来店時の動線といった、人が発する情報をキャッチすることによってデータの精度を上げていきたい。こういった部分は必ずしも我々単独でやらなくても、他のソリューションとの連携が可能でしょう。

短期的には、2019年の上場を目指しています。現在は上場後に本格化するであろう連携に向けて、どのようなインプットがすぐれたアウトプットに繋がるかを研究する準備期間だと考えています。統計的に突き詰めていけば、企業収益を上げるためのゴールは我々のシステムで8割くらいの割合で正しく導き出せるはずです。

感情解析技術の汎用化を目指して

-現在、課題とされているのはどのようなことでしょうか。

今西 良光:
汎用的な形でデータを使うには、データを貯めなくてはいけません。さらに多くのクライアントに使って頂き、上場企業の大半に導入されるまでに広めたいです。

そして、アウトプットのオートメーション化です。顧客ロイヤルティを向上させるための打ち手がプロダクトに組み込まれているところが我々独自の強みですが、現在は専門の分析チームがさまざまな統計解析ツールを用いながらクライアントごとに提示しています。同じように適切な打ち手を、どうやって自動的に導き出せるようにするか。超えなくてはいけない課題です。


-そのために必要な人材についてはいかがでしょうか?

今西 良光:
2017年に注力するのは、やはり課題を解決するための技術開発ができる人材の採用です。統計、IT、店舗運営…さまざまな知識やスペックを1人で完璧に備えていなくても、複数人で補完し合うことができるでしょう。しかし、それらの要素を持ち合わせていることは必須となるので、スペックとしては高い方が必要です。


-最後に、社長の夢をお聞かせください。

今西 良光:
“すべての人がイキイキと働ける社会を創る”ことが当社のミッションです。それは夢の第一段階として絶対に実現したい。その延長線上として、人の心を見える化することでポジティブな改善策を見つける『Emotion Tech』を、世の中すべての人々がイキイキと生きていけるようにするインフラやツールに昇華させていきたいですね。

編集後記

人のやる気を生み出すような組織を創りたいという今西社長の思いは成長を続け、ついには感情を視覚化して企業の成長の道標とする『Emotion Tech』を生み出した。それは、自分を適正に評価していないと訴えたスタッフの言葉や、多忙な現場の実態、顧客満足を望む経営者の声といった経験をその都度胸に刻み、システムに反映させてきた成果だ。今西社長が目指すように、最適な運営手法を自動的に導き出せれば、現場は経験に頼らずとも効率的に動けるようになり、顧客のロイヤルティ向上にもさらにつながる。“すべての人が”輝ける社会の実現を目指して、Emotion Techは着実に進み続けている。