展示会・イベント会場などをデザインする「空間づくり」に携わるディスプレイ業界は、コロナ禍のトンネルを抜け、再び多くの人々の新たなコミュニケーションを生み出している。

活況な同業界において、展示会・イベントの企画立案から設計、製作、施工、そして運営管理までワンストップで行っているのが株式会社昭栄美術だ。国内トップクラスのディスプレイ総合企業として、国内外の企業などから注目を集めている。

年間3000件を超える展示会やイベントなどを手掛ける中、先進的な技術を駆使した独自の製品も展開する小林社長に、自社の強みや経営者としての理念、社員への思いなどを伺った。

すべての業務プロセスを内製化

-貴社の事業の「強み」は、どんなところでしょうか。

小林社長:
当社の業務は、展示会やイベントなどの会場をつくることですが、企画立案・設計・施工・運営管理まで、一貫して手掛けていることが最大の特徴です。業界内ではアウトソーシングの手法を取り入れている会社が多い中、私たちはすべてのプロセスで内製化を果たしているので、お客様に安定した品質・サービスを提供できるのが強みですね。

単発のアルバイトスタッフやトラックの運転手たちも自社で確保しているため、製作物の資材の輸送もスムーズです。あらゆるプロセスで無駄を省き、業務を効率化・最適化することが可能な体制を構築しています。

売り手と買い手、社会に加え、地球にも貢献

-経営者として、最も大切にしている哲学は何でしょうか。

小林社長:
一般的な会社では、「売り手」と「買い手」が満足するだけでなく、「社会貢献」もできることが良い商売だという「三方よし」の考え方を大切にしていると思います。私はそれにさらにプラスして、「地球にも貢献する」という「四方よし」のビジネスを目指しています。

たとえば、通常は処分してしまう廃木材を3Dプリンターの素材として有効活用することで、持続可能な環境づくりに貢献しています。これは、企画から運営まですべて自社で手掛ける体制を構築しているからこそ可能なことだと言えるでしょう。

さらに、展示会・イベントなどの会場で活用した製作物は、メンテナンスをして再利用しています。当社は千葉県市川市に8200坪もの面積を誇る「SHOEIベイスタジオ」を製作拠点としているので、大量の製作物をストックしておくことが可能です。

互いに助け合い、常に笑顔でいられる集団

-貴社の組織体制、社内文化には、どのような特徴がありますか。

小林社長:
全社員が同じ方向に向かって一致団結しています。「製販一体」体制により、社員間の関係性は部署を越えて非常に良く、何か問題が起こったとしても皆で解決する文化が定着しています。仕事が大変なときでも互いに笑顔を交わし、逆境に立たされたときほど、それを楽しんで乗り越えようとする社員たちは私の誇りです。

先代の時代は縦割りで、部署ごとに競い合うことが多かったのですが、今は互いに協力して助け合うことを大切にする風土が根付いています。社内の人間関係もフラットで、フレンドリーな雰囲気ですね。そのような企業風土が定着したのは大変嬉しいことで、私自身も社員とは常に笑顔で接するよう意識しています

国内初、ファブリックのサインシステムを導入

-貴社が国内トップクラスのディスプレイ総合企業へと成長した理由について、どのようにお考えでしょうか。

小林社長:
「製販一体」の導入など、業界に先駆けた各種の取り組みが功を奏したのだと思います。その1つとして、壁一面に貼ったファブリック(生地)にグラフィックを直接印刷し、しわも継ぎ目もなく1枚できれいに仕上げる当社独自の「テンションファブリック(商標登録)」が挙げられます。

ファブリックを壁に貼る際、通常は熟練した職人が必要になりますが、当社は誰でも簡単に貼れるローコストの方法を導入しています。私たちは、欧州の最先端のディスプレイ業界を隔年で視察に訪れ、最新のトレンドを把握しています。このシステムも、視察を通して学んだ技術です。

当時の日本では、アクリルのボードに描いたディスプレイが主で、ファブリックを取り入れたのは弊社だけでした。欧州の同業界での人手不足の状況を見て、日本でも近い将来、熟練職人が不足することを予測して、いち早く行動に移しました。

また、アクリルに比べて環境に優しい素材であることも、ファブリックの導入を決断した要因です。珍しいので案内や広告としての訴求効果も高いですね。

評価制度を見直して高い意欲を引き出す

-社内の制度や組織運営などを改革した経験はありますか。

小林社長:
社長になる前、デザイナーが所属するクリエイティブ部の課長を任されたことがありました。私自身はデザイナーの経験がなかったのですが、デザイナーの業務に対する評価方法を明確にして、評価制度の運用を透明化しました。その結果、メンバーはそれまで以上に意欲を持って仕事をしてくれるようになりました。

営業部長を務めたときには、評価制度の見直しを行いました。それまでは売上の数字しか反映されていなかったため、努力や成果、行動を加味して、会社の理念に沿った制度に変更しました。

売上を増やそうと思えば、単に安売りをすれば良いだけかもしれませんが、それは会社の理念に沿ったやり方ではありません。多くのお客様に必要とされるには人間性を磨いていくことが重要だと確信し、一般職から管理職まで一律だった行動目標を職位ごとに分けて明文化しました。

例え数字が上がらなくても、一生懸命に取り組んだプロセスを含めて評価されなければなりません。会社は社員のためにあるべきなので、社員を育てられる会社にしたいと思っています。

-求める社員の人物像を教えてください。

小林社長:
挨拶や協調性を大切にし、人の心を豊かにする振る舞い方ができる人物を求めています。仕事の成果ばかりを追求すると、多くの人は売上などの数字ありきで行動しがちです。しかし、「人としての心」を何よりも大切にし、お客様や仲間の思いにもしっかりと向き合ってこそ、数字が上がってくるのだと思います。

社員と家族を幸せにする健康経営に注力

-貴社ならではの福利厚生など、ユニークな取り組みはありますか。

小林社長:
「ディスプレイ業を通じ社会に貢献し、存在価値のある企業として発展し、社員のしあわせが得られる会社を目指す」という当社の基本理念を具現化するため、健康経営に力を入れています。

社員の健康増進を意識し、製作部では朝食の無償提供を行い、「勤務間インターバル制度」では、終業から始業までの間に一定時間以上の休憩を設けて、睡眠時間や生活時間を十分確保できるよう配慮しています。

また、社員を支えてくださっているご家族も大切にしたいという思いから、45歳以上の配偶者の健康診断費用も補助の対象です。

その他、運動や食事、睡眠に関する健康動画の配信や、体力年齢測定、昼休み中の仮眠による「パワーナップ制度」のほか、運動器具や健康器具などを常設した健康推進ルームを開放しています。

社員の年間休日数は年120日間で、男性社員の育児休暇取得率は100%です。ワーク・ライフバランスの実現に向けたフレックスタイム制や裁量労働制、在宅勤務制度も整えるなど、仕事とプライベートの両立を全面的に支援しています。

-貴社に入社した場合、どのような働きがいを感じ、どのように成長できますか。

小林社長:
営業部では企画立案からイベント後のアフターフォローまで、一貫して関わることが可能です。お客様のご要望をヒアリングし、チームで力を合わせて課題解決に向けて取り組みます。プロジェクトリーダーになれば、全体を管理しながら、成果へと繋げる責任ある仕事に携わることができます。

営業部のメンバーからは「営業部ではありながらも、自らあらゆる感覚を使って空間をデザインし、カタチにできる」「お客様の課題を細かくヒアリングして、解決するディスプレイを作り上げたときの達成感は格別」など、やりがいを感じている声を耳にします。

現状は代理店経由の案件の割合が多いのですが、直接受注による新規イベントなどの獲得にも力を入れています。今後は企画提案から事後施策まで、お客様と一緒になって課題解決を図る、働きがいのある業務がさらに増えていくでしょう。

製作部ではデザイナーが作った図面をもとに、現場に出て製作物の造作の立ち上げを指揮します。短期間でディスプレイを作り上げたときはもちろん、来場者の皆様が楽しんでくださっている姿を直接見ると、働きがいを感じられます。特にBtoCのイベントなどは、自分たちが作り上げたディスプレイがメディアに取り上げられて話題になることもあり、これはなかなか他では体験できないことだと思います。

自分の手を動かしながらディスプレイに関する幅広い知識・技術を身につけられるほか、社内の資格取得支援制度を活用し、キャリアをステップアップできることも魅力ですね。

最後に

-貴社で働きたいと考えている方に伝えたいことがありましたら、ぜひお聞かせください。

小林社長:
私たちの仕事の原点には、常に「人の思い」があります。当社が創出しているのは、人の思いがこもった「物語」の始まりです。それはいずれ世の中の常識や、国境さえ越えて世界を変えていく可能性もあると考えています。

先ほどお伝えした営業部での企画立案からイベント後のアフターフォローまで、一貫して対応できる体制も、その考え方のもとです。
お客様に心を寄せて自らの手と頭を惜しみなく使い、無限のイメージを有限のスペースで表現・製作をしてほしいと考えています。

その姿を留めているのは一瞬だけかもしれません。しかし、だからこそ1つずつの仕事に意味や意図を込め、お客様の思いにしっかり応えていかなければなりません。

お客様との共創を通じ、「世の中そして人々にとって明るい未来を創る仕事」に挑戦したいという方とお会いできることを、心から楽しみにしています!

編集後記

「製販一体」のビジネスモデルを実践する中で、地球への貢献も意識した「四方よし」の経営哲学を打ち出す小林社長。最先端のディスプレイ技術を積極的に取り入れながら、温もりのある「人の思い」を大切にする姿勢に共感した。展示会・イベントなどが、のきなみ中止されたコロナ禍のトンネルから抜け出したディスプレイ業界において、どんな「世の中にまだ存在していないビジネス」が生まれてくるのか、楽しみだ。