株式会社リビングスタイル
代表取締役 井上 俊宏

井上 俊宏(いのうえ としひろ)/大学卒業後、日立製作所に入社。システムの研究所に勤めるも、机上でコーディングをし続ける開発に向いていないと、外資系ITベンチャーのベリサインに転ずる。システムの中核を学びたいとカスタマーサービスを担当したのち、マーケティング、営業を経験。在職中には、経営スキルを体系的に身に付けるためビジネス・ブレークスルー大学大学院へ通い、MBA資格を取得。卒業研究として立案した新規事業計画が、株式会社リビングスタイルの起業へと繋がった。

本ページ内の情報は2016年11月当時のものです。

株式会社リビングスタイルは、Web3D技術を利用したインテリアのレイアウトシミュレーションを提供するサービスプロバイダ。高精細なiPad版3Dシミュレーターは、間取りの作成からアイテムの配置、ウォークスルーまでインテリアシミュレーションのすべての作業を、簡単な画面タップ操作だけで直感的に行うことができる。パソコンのように設置場所にとらわれることなく機動的な接客が可能となるiPad版システムは、いまや20ブランド以上のインテリアショップやメーカーが導入。CADなどの専門的な知識を必要とせず利用できるため、多くのオンラインショップでも採用されている。

インテリア業界に大きな変化をもたらしたリビングスタイルは、AR(拡張現実)技術を活用し、さらなる革新を生み出した。スマートフォン用VR(仮想現実)ソリューションにより、3Dシミュレーターで作成したインテリアコーディネートを、現実空間に原寸大で表示することを可能にしたのだ。

“インテリアの試着”を実現可能にするサービスを創出した同社代表取締役の井上俊宏氏は、なぜシステムを開発するに至ったのか。井上氏の現状を見つめる姿勢から、ビジネスを飛躍させるヒントを掴む。

実体験から生まれた3Dシュミレーションサービス

当初は起業意識をお持ちでなかったと伺いました。株式会社リビングスタイルを立ち上げるきっかけはどのようなものでしたか?

井上 俊宏:
サービスが生まれるきっかけとしては、私が2000年くらいに自由設計できるマンションを購入したことです。週末ごとに設計士のもとに打ち合わせに行くのですが、図面が出来上がるのはまた次の週。インターネットを使えばもっとスムーズにやり取りができると思いました。さらに2次元の図面を3Dで立ち上げることができるのではないか、それもCADのようなアプリケーションなしで、Webだけで行えるのではないかと構想しました。

サービスは浮かびましたが、起業するつもりは全くありませんでした。しかし様々な経験をするため、外資系ITベンチャーのベリサインに勤めながらビジネススクール(ビジネス・ブレークスルー大学大学院)に通って体系的にビジネスを学びました。その卒業研究として立案したビジネスモデルを大前さん(学長の大前研一氏)がご覧になり、起業するならやってみればいいとおっしゃった。それでもどこかの会社がやってくれるのではと思っていました。スクール卒業とともにベリサインも退職しましたが、誰もこのサービスをやらない。ならばと、半年の充電期間を経て、2007年に起業しました。

今までにないサービスだったのですね。

井上 俊宏:
ありそうでなかったですね。インテリアショップ向けの3Dシミュレーションサービスですが、もともと家具は工業製品ではないため3Dデータがありません。そのため、当社のスタッフがお店に伺い、家具を写真に撮って一つ一つ3Dに起こすという作業から始めました。実際に販売されている家具データをシミュレーションに利用するため、現実に即した家具選びが検討できるのです。

シミュレーターの分野では、現在インテリア業界でのシェアのほとんどを握っておられます。ここに至るまで、特に創業当初にはどのような困難がありましたか?

井上 俊宏:
まだ世の中にないシステムだったため、どのくらいの効果があるのかがショップ側にもわかりません。どのように効果を理解してもらうか、あるいはチャレンジしてもらうかが大変でしたね。
自分自身ビジネスとして成り立つかは不透明だったため、人を採用せず、自分一人で営業をしました。Webサイトでインテリアショップの代表番号を調べて電話をかけることから始めたのです。当初はしんどかったですね。しかし「このようなシステムがあるので、ご意見を伺わせてください」と言うと8割くらいの会社からアポが取れました。“3D”や“インターネット”は当時から気になるキーワードだったのでしょう。

他の追随を許さない顧客基盤とブランドを横断したデータベース

社長が感じている御社の強みはどのようなものですか?

井上 俊宏:
当社は、シミュレーター開発のノウハウと実績を多く持っておりますので、需要があれば当社に声をかけてくださいます。しかし、3DもARも所詮は技術。胡坐をかいていれば、いつか誰かにとって代わられるでしょう。私が思う当社の強みは、利用してくださっている25ものブランド数と、100万点に上る3Dデータ。これにより、複数のブランドを横断してシュミレーションできる家具データを提供できます。この圧倒的な顧客基盤とデータベースをどうビジネスに生かすかは重要ですね。

人はむやみに増やさず、まずは仕組みを整え、プラットフォームになることを目指す。

短期・中長期的な目標についてはいかがでしょうか?

井上 俊宏:
社員を2倍・3倍と増やすつもりはありません。我々はプラットフォームになりたい。その上に立ち、動いてくれるプレーヤーは必要です。一つ一つのモデルに対して事業企画をしていくBtoBの営業となるので、大人数よりも数名がそれぞれの業界にコミットしながら事業開発していく仕組みを作りたいですね。

インテリアを買うのは引越しした時くらいという方が多い現在、当社は住友不動産や三井不動産、東急不動産などとも提携しました。マンション販売時に配る図面集などを介してアプリを導入して頂くのです。不動産会社に費用負担は発生しません。そのため、しっかりとコミュニケーションを取って営業が出来れば導入してもらえる可能性が高まります。

このような、どうやったらアプリを使ってもらえるのかを考えるには、人数がいればいいというものではありません。むやみに人を増やさず、仕組みを整えるつもりです。

また、シミュレーターを利用したお客様は、インテリアについてきっと誰かに相談したくなるのではないでしょうか。そのため、インテリアコーディネートサービスを始めます。コーディネーターも自社でそろえるのではなく、地方の人材や女性を活用したオンラインサービスで行います。

インテリアを揃えることで訪れる、新しいビジネスチャンス

現在、課題として考えられていることはございますか?

井上 俊宏:
現在の事業は順調ですが、私がやるべきことは新しいサービスを作り、業界の人にそれを認知してもらうことです。いずれは我々のシミュレーションの世界に住宅設備も取り込みたいと思います。新しいソファやテーブルが決まれば、古い床の色を変えてみたい、キッチンの場所を変えて部屋を広く使いたい、などとインテリアとは違った世界が見えてくるでしょう。

創業時はリフォームまで行うには3D技術が追い付かず家具から手がけましたが、今はリフォームも視野に入れています。衣食住の“住”にフォーカスして、部屋の中のすべてを手がけていくつもりです。今、ショップが開催するインテリアやリフォームの相談会も、参加するのに少しハードルが高いような気がしています。これをネットで提供できれば、これまで躊躇されていた方や遠隔地であったため参加できなかった方など、より多くの方に気軽に利用していただけるようになるのではないでしょうか。

必要なのは、現実を見つめつつ前進していく力

ここ1年で社員数が増え、現在30名程と伺いました。社内で活躍されている方に共通する点や、社員に対して仕事上心得てほしいことはありますか?

井上 俊宏:
活躍していると感じるのは、現状をきちっと把握しつつ、しっかりと受け入れて次のステップを踏める人です。現在はこうだが、こう直していこうと前に転がしていける人は強い。当社の社員はみんなやってくれていますが、現状に不平不満を言い続けるだけの人は伸びません。前に進めていくことを心がけてほしい。

そして、個人としても成長してほしいと思います。スキルだけでなく、人間関係や立ち居振る舞いといったことでも、個人のレベルを上げていかないといけない。ビジネスのスピードはどんどん速くなっています。スキルも必要ですが、それだけではいずれ立ち行かなくなる。総合的に活躍するには、人としてどうあるかも大事だと思います。

社長が採用面接で見られているポイントについてお聞かせください。

井上 俊宏:
まずは明るさですね。受け答えの中で、前向きなのか、一生懸命なのか、明るいのかを判断します。実はあまり人を見る目がないと言われているのですが(笑)。しかし1時間の面接で判断できるのはそれくらいではないでしょうか。

社長がそばにいてほしいと思う人材をスキル面から教えてください。

井上 俊宏:
自分より優れたスキルを持つ人です。そして現在、そのスキルを持ったCFO、CTO、COOがファイナンス、システム、営業をそれぞれ担当してくれています。皆の役割に関しては、各々に預けています。

人材マネジメントについてはいかがでしょうか?

井上 俊宏:
急に人が増えたので、現在制度を整備しているところです。ただ、自分の性格上マイクロマネジメントはできないので、ある程度大きく任せてしまう。その中で新しいものを生んでくれたらいいと思います。社員たちも、新しいものを自分たちで考えてくれています。なるべく任せていますが、社員に聞いたらワンマンだというかもしれない(笑)。ベンチャーにはスピード感が大切なので、遅くならないように程度の問題はありますね。

編集後記

自らのマンション購入時の経験から、住空間における3Dサービスを考え出した井上氏。現状を改善しようとする姿勢が、今までにないサービスを生み出し、インテリア業界における圧倒的な地位を確立させた。インテリアから始まったテクノロジーとの融合は、今後すべての“住”につながっていくのではないだろうか。