住宅メーカーは近年、慢性的な人手不足や資材高騰に悩まされ、コロナ禍においては一時30%の受注減となるなど逆境に立たされている。
現在は回復期にあるも、シンクタンクによると人口減少をはじめとした構造変化で、新設住宅着工戸数は2021年度の87万戸から2040年度には49万戸まで落ち込むとの予測もある。
競争激化がさらに進むと予想される建設業界の中で、埼玉県の住宅メーカーである株式会社大貴は、先代からボクシングのスポンサー活動にも力を入れるというユニークな一面を持つ。
地域密着型の営業だけでなく、新時代にマッチした会社づくりを目指す代表取締役社長 福田貴大氏をクローズアップし、3年目の挑戦と展望について聞いた。
大企業の薬剤師から中小企業の社長へ
――社長に就任されたいきさつについてお聞かせください。
福田貴大:
弊社に入社するまでは、自分の手に職をつけて働きたいと考えていたので、学校卒業後は薬剤師として社会人人生をスタートさせました。ですから、後を継ぐことは特に考えていませんでした。
ところが、2020年に私が新型コロナウイルスにかかったり、大手企業にいた弟が入社したりと、さまざまなことが動き始めて流れが変わっていったのです。
一番大きな変化は、会長である父の下でオーナー権のない社長として長く働いていた社員が独立したことです。弊社のような中小企業では、事業承継もすぐにはうまくいかず、これらをきっかけに考えた抜いた末、「会社と父を助けよう」と家業を手伝う決断をしました。
――入社してから周囲の反応を含め、どのようなご苦労がありましたか?
福田貴大:
私の場合、入社と同時に社長に就任したので、余計にプレッシャーを感じましたね。私が小学生時代から弊社に在籍している年上の社員もいますから。
それに、前職の薬剤師時代には従業員が数千名いる大企業で働いていましたので、OJTがしっかりしていたのですが、弊社のような中小企業にはそういった教育の仕組みは全くありませんでした。そのため、前社長に1年間伴走してもらいつつ自分なりに調べて、業務内容を整理し、理解を深めていきました。
私としては「会社と父親を助ける」という気持ちで入社をしたものの、
新入りでいきなり社長ですから、どうしても周囲の目は気になってしまう。
「やることをやるしかない」という強い決意で決算書を見て研究したり、経営について必死に勉強したりしましたね。
大手に負けないために地域の信頼を築く
――ハウスメーカーとしての今後の営業戦略について教えてください。
福田貴大:
現在、弊社は業者間での受注の割合が80%を占めています。残りが個人のお客様向けで、10%が自社建て売り、10%が注文住宅の販売です。
今後は、業者同士のつながりは引き続き大切にしながらも、完工後、直にお客様の喜ぶ顔が見られるという点がつくる側のやりがいにもつながるので、個人向け注文住宅の受注割合を増やしていきたいと考えています。
そのためには、地元での知名度と信頼度を上げていく必要がある。
価格に大きな差がなければ、人はどうしても有名な方を選びますからね。
今はSNSの時代ですが、バスの広告やロードサイドの看板を見て弊社を知ってくださる方もいて、意外と昔ながらの広告方法が有効だったりもします。
また、PRだけではなく、身の回りの小さなことから誠実に対応していくことも重要です。例えば、現場での整理整頓やごみの即日回収にはかなり気を使っています。建物の周りが汚ければ、中もそうなるのは目に見えていますし、近隣の方にも不快な思いをさせてはいけない。社員には「建てている最中から建てた後のことを考えよう」というポリシーと、キチンと清掃するような教育を徹底しています。
先日も、川口市内で注文住宅を建てたお客様から「最高にいい家です」と褒めていただけました。そういった言葉をかけていただくことが、私を含め、弊社社員のモチベーションアップにつながっています。
これからも大手に負けないように誠実な仕事をして、地道に新しい顧客を増やしていきたいと思います。
時代にフィットする人事・教育体制で人材確保へ
――建築業界は特に人手不足と言われていますが、対応策はありますか?
福田貴大:
以前は新しく人を入れてもすぐに辞めてしまいました。
先ほどもお伝えしたとおり、教育制度が整っていなかったことが原因だと思っています。
社内の体制を整えつつ、即戦力ではなくとも長く続けてくれそうな方を探そうと切り替えたところ、
ボクサーである弟の顔が広いこともあり、紹介で人が集まるようになりました。
大手企業を辞めてまで入社してくれた方もいて本当に助かりましたね。
働き方についても、たくさん稼ぎたい人にはたくさん働いてもらい、プライベートを重視したい人には両立できるような働き方を提示するなど、柔軟に対応していくつもりです。
今後は、新しい時代にフィットする経営を目指して、極端にいえば、誰が社長になっても会社として揺るがない教育制度を整えます。根本的な人事制度の改革も並行して進めていきたいですね。
編集後記
終始、理論派のテイストが存分にうかがえる談話だったが、終盤には「近い将来、ゼロから新事業をスタートアップしたい」と野心的ともいえるコメントが聞けた。
穏やかな口調ながらも、経営者としての開拓精神に満ちた福田社長の手腕に注目だ。
福田貴大(ふくだ・たかひろ)/1992年埼玉県生まれ、薬学部卒。調剤薬局で薬剤師として勤務したのち、建築不動産業を営む株式会社大貴に28歳で代表取締役として入社。会長の代から続くプロボクシングのスポンサー事業にも注力している。