※本ページ内の情報は2023年10月時点のものです。

菓子卸・流通会社として1965年に大阪で創業した株式会社吉寿屋は、1986年に日本で初めて菓子のフランチャイズ化を進めた斬新な一社。”マジック”ともいえる社員の奨励制度や徹底した効率化により「創業から赤字なし」の優良企業だ。

菓子業界の出荷金額ベース市場規模は、コロナ禍で若干減少したものの、その後は1.3%の微増となり、早くも回復基調。原料高騰という難題に悩まされるが、付加価値商品の開発やインバウンド回復により、今後の浮上が期待されている業界だ。 
  
中でも際立った存在の吉寿屋は、ここへきて勢力をさらに拡大中。今年10月には横浜営業所を立ち上げて関東へ進出し、2府4県に複数の「菓子のテーマパーク」を開業する計画を進めている。

2016年に創業者のDNAを引き継いだ代表取締役社長の神吉一寿氏に、入社時代や好業績の秘訣、直近の事業計画について話を聞いた。

斯業経験のおかげで広く目配りできるようになった

ーー入社後はどんな部署を経験されましたか?

神吉一寿:
大卒後に入社して最初の1年半くらい、2トントラックに乗って荷卸しや積み込みをしました。それから数年は入出荷や倉庫管理で、マネジメントもこの頃から関わるようになりました。

現場に入ったおかげで流通や会社の基礎的なところを学び、何より働く人の気持ちが分かったのは収穫でしたね。

28歳で専務に就任し、15年間は兼任の堺支店長として勤務しました。その後本社に戻って、50歳の時に現会長の後任として社長に就任しました。


ーーいろんな部署で下積みをされて役立ったことは何ですか?

神吉一寿:
例えば、仕入れ部門の大変さというのは、現場で働いてみないと分からないんです。何千アイテムもの商品を欠品しないように発注するのは非常に難しいことです。うまくやってもそれが当たり前で、褒められることは少ない。

かたや営業はといえば、売ればプラスの数字としてはっきり出ますから、評価されやすい面があるでしょう。そうした違いにも気づいてやれて、広い視野で会社を見渡せるようになったのは大きなメリットだと思います。 

従業員や取引先の協力なしに利益は生まれない

ーー長年高い利益率を維持されているようですが、達成するためにどんな工夫をされていますか?

神吉一寿:
「組織は大きい、お金もある、人材もいる」そんな大手企業にはかなりの部分で負けてしまいます。そこで勝負してもかないませんから、大手にはできないこと、中小として私たちにしかできないことをやっています。

特にこだわっているのは関係者への心くばりです。社員はもちろん、アルバイト・パートを含む従業員、取引先のみなさんにもです。

従業員のみなさんには、子供がいる家庭であれば、給料以外に教育補助制度として大学生1人に毎月2万円を支給しています。コロナ禍においては、この金額を半額に変更せざるを得なかったのですが、とても心苦しい気持ちになりました。
その他にも、インフルエンザの予防接種は従業員の同居家族まで含めて、全員分を対象にしています。

また、少し先の話ですが、2028年のロサンゼルスオリンピックには参加を希望する従業員全員約500名で行きたいと思っているんです。楽しみを目標に掲げると仕事が楽しくて、それをモチベーションにして、より高い成果を目指そうとなる訳です。

物流の方に目を向けると、ほとんどのお客さんが弊社の倉庫を見て「人が少ないですね」と驚かれます。本社倉庫の2階はたったの1人か2人ですからね。
物流倉庫といえばリフトや人が走り回っているイメージの中で、私たちの倉庫フロアは平均の半数しか人がいませんから、少なく感じるのは当然でしょう。人件費はおのずと抑えられています。

加えて、取引先の方に気持ちよく働いてもらう努力も欠かせません。
ベンダーのドライバーさんがいつでも利用できるように、センター内に無料のドリンクコーナーを設置しています。最近始めたことではなく、私が入社する前から冷水サーバーを無料開放していました。それだけが理由ではないにしても、ドライバーさんは倉庫の中まで入って一生懸命に荷卸しなどの作業をしてくださっています。

ちょっとしたことかもしれませんが、長い関係の中での気配りから従業員とも取引先とも信頼関係を築いてきた部分もあると思います。このような一つひとつの気配りが今の吉寿屋をつくりあげたといえるでしょう。「手厚い」との評価をいただくこともありますが、まだまだ足りないと思っています。

夢のような「お菓子のテーマパーク」を計画

2023年9月から発売のオリジナル商品 よっしゃもっちもちたい焼き

ーー大規模出店の計画があるとお聞きしましたが、コンセプトを詳しく教えてください。

神吉一寿:
近い将来、広い敷地を利用したお菓子のテーマパークを開く構想があります。

ドラッグストアやディスカウントストアの進出もあり、15坪くらいの1店舗当たりの利益も取りづらくなってきました。同じパターンばかりでは通用しなくなっています。

そういう流れもあり、品数を減らして効率化していくのとは別路線の、圧倒的なアイテム数でお菓子を選ぶ楽しみを演出する、メガ店舗の計画が始まりました。 

大阪でのIRに向けての超大型店について、ディベロッパーとも話を進めている段階です。1000坪クラスの巨大施設になる可能性もありますし、場合によっては1店でなく複数出店になるかもしれません。

駄菓子を中心に品ぞろえし、お菓子そのものの楽しさを全面に出していきたいと思います。その夢のような空間に長時間滞在して「見て楽しい、買い物して楽しい」、そういったコンセプト施設を目指しています。

編集後記

かつては金の延べ棒を配ったほど社員への高待遇で知られる吉寿屋だが、「残念ながらコロナ禍中では子ども手当を半分減らしました」と社長談。それでも大学生1人に毎月1万円で、翌年には元に戻したというから懐が広い。

物流センターを置いて関東で本格的な活動を始める同社。この先どんな展開を見せるか楽しみは尽きない。  

神吉一寿(かみよし・かずとし)/1966年大阪府の生まれ。京都産業大学卒業後、父親が創業した株式会社吉寿屋(よしや)に入社。配送や営業、店長を経験した後に専務取締役、2016年に代表取締役社長に就任。社員の励みになる報酬制度などユニークな経営で、業界トップクラスの利益率を維持している。