※本ページ内の情報は2023年11月時点のものです。

“驚喜というサプライズプレゼント”を未来の人々に贈ることを使命とする、株式会社未来ガ驚喜研究所。デザイナーズブランドのセレクトショップや名作のみを集めたギャラリーなど、ファッションの1.5次流通という新たなコンセプトでの挑戦を続けている。

「社員一人ひとりが当事者意識を持ち、主体的に挑戦する環境でなければこの会社に未来はない」と語る代表取締役社長の齋藤賢吾氏だが、その考えの背景には学生時代の経験から得た価値観があった。

高校中退や内定辞退など「レールに乗らない人生だった」と語る齋藤氏に、同社の社名にも関係する企業理念や経営の軸、今後の展望などを聞いた。

レールに乗らない人生で気づいた「当事者意識」の大切さ

――創業の経緯ときっかけについて教えていただけますか。

齋藤賢吾:
高校を1カ月で中退し、その日から私の人生は大きく変わりましたね。中退した翌日から朝になっても親は起こしにこないし、友人から連絡もこない。この何もなく一日が終わる体験を通して、「今までの人生は塗り絵だったんだな」と。

人生は真っ白なキャンバスで、自分から動かないと何も起きないことに気づいて、そこから自分の人生に当事者意識を持つようになりました。

とにかく自由に3年間を過ごした後、19歳の時にどうしても勉強したいと思い、高卒認定試験に合格して大学に入学しました。就職活動の時期になって、周りに合わせて活動をしてみるもやりたいことは見つかりませんでした。だったらせめて理念に共感できる会社にいこうと思ったんです。200〜300社くらいの理念を調べたんですけど、1つもワクワクせず、結局嘘をついて内定をもらいました。

けれども、そこで「あれ?またレールに乗るのか?」って思ったら、入社式当日に駅とは反対の方向に歩いていて、結局内定した会社の入社式には行きませんでした。そこから「ワクワクする理念の会社がないなら、自分でつくろう」と決意。これが、起業した経緯です。

――「ワクワクする理念の会社」を探していたとのことですが、未来ガ驚喜研究所にもその理念は反映されているのでしょうか。

齋藤賢吾:
社名の未来ガ驚喜研究所には“未来の人々を驚かせて喜ばせることを研究し続けて、実行する会社”という「ワクワクすること」に通じる理念が込められています。

「ワクワクすること」はどのような事業を行うにしても全員が共感できる理念ですし、会社の事業が変わっても、この理念だけは変えてはいけないと思ったので、その思いを社名にも反映させました。

会社の存続には全員が当事者意識を持つことが重要ですし、そのためには全社員が共感できる理念が必要だと私は考えています。

社員をバカンス休暇で絶対に旅行させる理由

――社員の当事者意識を大切にされていますが、具体的に社内で取り組まれていることはありますか。

齋藤賢吾:
当事者意識を持たせる取り組みの1つが、バカンス休暇です。社員にバカンス用の費用を渡して旅行をしてもらうのですが、その際に旅行のプレゼンテーションもしてもらいます。

たとえば日曜日にただずっと家にいても、何も起こらないですよね。つまり遊びというのは、自分で考えて努力しないと良い結果が出ないのです。そういった点では遊びも仕事も同じなので、まずは遊びでPDCAを回す経験をして、それを仕事でも同じ思考にさせようと思って始めました。

あとは、社長の私が会議に出席しないことで、社員たちが気兼ねなく意見を言える環境をつくりました。社長の存在が会社の成長においてボトルネックになっているのかを調べたくて始めたのですが、実際に私が会議に出なくなってから売上はかなり上がりましたよ。

「やること」と「やらないこと」を徹底する

――アパレル事業を始めるうえで、なぜ二次流通のセレクトショップを選んだのかをお聞きしたいです。

齋藤賢吾:
理由の1つは、一次流通は規制が多いからです。たとえば一次流通だと、たとえ仕入れたいブランドの商品を見つけても、すでに卸先が決まっていて仕入れられないことが多いんです。

良いブランドほど卸先をよく考えているので、1つの県に1店舗しか卸さないブランドも珍しくありません。それだと「セレクトショップ」とは言っているものの全く自由にセレクトできないので、それなら自由にセレクトできる二次流通のお店を始めようと思いました。

一次流通のようにしっかりと質の高い商品をセレクトすること、そして、一次流通ではセレクトできない商品もセレクトすること、他のことは一切やらず、この2つを徹底してやり続けました。僕らは絶対に真似されない領域にいきたいと考えていましたので。


――経営を行う際に、社長として何か意識されていることはありますか。

齋藤賢吾:
私は「経営はトカゲの尻尾」だと思っています。人間に捕まったトカゲが尻尾を切られても、それが一度だけなら生きていられますよね。しかし、何度も捕まって尻尾を切られて、それが心臓部分まで来たら死んでしまう。それは、経営も同じだと意識して臨んでいます。

あとは、失敗したらすぐに謝ること、社員に負けないビジョンを打ち出すことを意識しています。社長の重要な役割は、誰も思いつかないビジョンを描くこと。そのために常にインプットを繰り返しています。

ECを通して顧客との信頼構築をより強固にしたい

――今後はECも強化していきたいと伺いました。どのように強化するのか、将来像があれば教えていただけますか。

齋藤賢吾:
弊社ではスタッフに「お客様全員と友達になりなさい」と伝えています。初めて会った店員に「その服似合いますよ」と言われても信用できませんが、仲の良い友人に「その服似合うよ」と言われたら信用できますよね。

エンゲージメントが高ければ高いほど信憑性と納得感が得られるので、そのためにはお客様と友達になることが必要。このお客様との信頼構築は、対面販売に関してはすでにできていると思っています。

今後は自社の店舗がない地域のお客様ともしっかりと信頼関係を築いて、本当にお客様に合う商品を提供したい。そのためにもECの強化が必要ですし、対面販売でやっていることをECでもやっていきたいですね。

編集後記

高校中退や就職活動時の葛藤など、自身の経験をもとに株式会社未来ガ驚喜研究所を立ち上げた齋藤社長。今は「ウェルビーイング経営」の実践にも力を入れており「社員が当事者意識を持って生きて、納得感のあるキャリアを積んでもらうことが私の次の事業」と話した。

リユース業界において、他にはない自分たちだけの価値をつくり出してきた未来ガ驚喜研究所。齋藤社長の心の中には、私たちがまだ想像もつかないワクワクする未来が詰まっているのであろう。

齋藤賢吾(さいとう・けんご)/1979年生まれ。千葉県出身。駒澤大学を卒業後、2006年に未来ガ驚喜研究所を設立し、デザイナーズブランドの新品と中古を融合させて提案するセレクトショップ「RINKAN」をスタート。その後は、デザイナーズの過去の名作のみを集めた「Archive Store」や、希少性の高い時計のみを集めた専門店「ASKWATCH」、真贋鑑定サービス「SEES BY RINKAN」をローンチ。現在は慶応大学環境情報学部に再入学し、「ウェルビーイング」の研究にも注力している。