※本ページ内の情報は2025年2月時点のものです。

世界のワイン市場は、生産地の多様化やサステナビリティへの関心の高まり、消費者の嗜好の変化など、大きな転換期を迎えている。そんな中、30年以上にわたり日本のワイン文化を牽引し、ワインに込められた物語を大切にしながら消費者に届けている企業がある。

サッポロビールのグループ企業として、4,500種を超える世界各国のワインを取り扱う株式会社恵比寿ワインマートだ。2024年4月に代表取締役社長に就任した五十嵐祐介氏に、ワインへの情熱と企業としての未来像をうかがった。

ワインに魅せられた男のキャリアパス

ーー五十嵐社長のキャリアをお聞かせください。

五十嵐祐介:
1996年に早稲田大学を卒業後、サッポロビール株式会社に入社しました。当初、ビールを中心にワインやソフトドリンクの営業を担当し、その過程でワインビジネスへの強い関心が芽生え、「現地でワインづくりを学び、プロフェッショナルな知識や技術を得たい」という思いから、会社の休職制度を活用して1年間フランスへ留学しました。

現地のソムリエ専門学校で半年間学び、その後は各地のワイン生産者を訪ねて経験を深めました。帰国後は、サッポロビールのワイン事業部で輸入ワインのマーケティングを担当した後、イタリアの食品メーカー「バリラ」の日本市場向けマーケティング、エノテカ株式会社での仕入れ責任者、株式会社フィラディスでのBtoC事業立ち上げなど、一貫してワイン業界に携わってきました。

そして、2023年にサッポロビールに復帰し、恵比寿ワインマートの専務取締役を経て、2024年4月に社長に就任し現在に至ります。

最高品質へのこだわりと信頼の継承

ーー貴社の事業の特徴を教えてください。

五十嵐祐介:
弊社は恵比寿ガーデンプレイス内に「ワインマーケットパーティー」と「ラヴィネ」の2店舗を展開し、それぞれ2,000〜2,500種類、合計で4,500〜5,000種類のワインを取りそろえています。国内最大級の品ぞろえを誇り、お客様に幅広い選択肢を提供できる点が大きな特徴です。

ワインは、スタッフが年に数回、現地の生産者を直接訪問して仕入れています。単なる商品購入にとどまらず、生産者との対話を通じて彼らの思いや技術を深く理解し、信頼されるパートナーシップの構築を目指して活動しています。

ーー他社と差別化している点や強みについてお聞かせください。

五十嵐祐介:
最大の強みは、全スタッフがソムリエ資格を持つプロフェッショナル集団であることです。豊富な知識と経験を活かし、お客様一人ひとりに最適なワインを提案できる体制を整え、生産者とも専門的な対話ができることで、より良い商品の発掘にもつなげています。

弊社では「楽しくつなげる」というビジョンを掲げていますが、これは、専務時代に社員全員で話し合って生まれたビジョンで、生産者が大切に育てたワインを、適切にお客様のテーブルへ届けることが私たちの使命です。さらに、生産者を日本に招き、お客様と直接交流する場を設けて、ワインの魅力を肌で感じていただくイベントなどを開催しています。

ワインの魅力は「終わりなき探求」

ーー五十嵐社長にとって、ワインの魅力とは何ですか?

五十嵐祐介:
「永遠に極めることができない」という点ですね。世界中に数え切れないほどの種類があり、生産国も増え続けています。同じワインでも、ヴィンテージが変わると味わいも異なり、新しい発見の連続です。

ワイン業界に携わり30年が経ちますが、まだほんの一部しか知ることができていないと感じています。この無限の可能性が、私にとっての魅力であり、仕事として追求し続けたい理由でもあります。

ーー今後、どのような事業展開を考えていますか。

五十嵐祐介:
弊社は多店舗展開ではなく、既存店舗の専門性をさらに深める方針を掲げています。一方で、BtoB事業の拡大にも注力し、取扱品目や生産国のバリエーションを広げることで、飲食店や法人への提案力を強化したいと考えています。

EC事業においては、店舗とは異なるラインアップの開発を進め、オンラインでもワインを楽しめる体験を提供したいですね。さらには、SNSを積極的に活用して新たな顧客層にアプローチするとともに、ワインの文化的な魅力を広く発信し続けることを目指していきたいと考えています。

ーー最後に、経営者としてのビジョンをお聞かせください。

五十嵐祐介:
私が最も重視するのは、次世代のリーダー育成です。プロパー社員が役員や社長へと成長できる環境を整え、持続的に発展する企業を目指しています。また、これからの世代に「ワインの面白さ」を伝え、共感の輪を広げていくことも重要視しています。ワインは単なるアルコール飲料ではなく、文化やアートに近い存在であるため、多様な楽しみ方を提案しながら、より多くの方に愛される企業を目指していきたいと思っています。

編集後記

取材を通じて特に印象的だったのは、五十嵐祐介社長の「終わりなき探求心」だ。フランス留学で得た経験と長年にわたるワイン業界での実績を経て、株式会社恵比寿ワインマートのトップに就任した経歴から、ワインへの深い造詣が伝わってくる。

特筆すべきは、国内最大級の品ぞろえを誇りながらも、「量」ではなく「質」にこだわる経営姿勢だ。全スタッフがソムリエ資格を持つプロフェッショナルとして、一本一本のワインに込められた物語を大切にしている。ECやSNSを活用した新たな挑戦に着手しつつ、次世代リーダーの育成に力を入れる五十嵐社長の取り組みは、日本のワイン文化の新たな章を切り開いていくだろう。

五十嵐祐介/1973年、東京都・神田生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。1996年にサッポロビール株式会社に新卒入社。営業職を経験後、1年間休職しフランス留学を経て、ワイン事業部門に配属。輸入ワインのマーケティングに7年間従事した後、2009年に退職。イタリア系食品メーカーの日本駐在員や、ワイン専門商社2社を経て2023年、サッポロビールに復帰。株式会社恵比寿ワインマートの専務取締役として出向。2024年、同社代表取締役社長に就任。