微細加工技術は、現代の精密な製造分野において不可欠だ。この技術は、電気自動車や医療機器、デジタル機器など多岐にわたる分野で必要とされ、高い精度と品質が要求されている。
微細精密加工の領域に参入する企業も増え、大手や中国の企業などが参入し、競争が激しくなってきている。技術の進歩も著しく、微細な部品の製造技術は年々向上。より、精密微細化のレベルも高くなっており、今や日本企業がこの分野でリードしているとも言われている。
高精度な微細加工は、ミクロン台の誤差に収まる精度の高さ、卓越した技術力と徹底的なこだわりが必要だ。熟練の技術者らが高度な機械を駆使し、微細加工機メーカーとしてトップの座を築き上げてきたのが、碌々スマートテクノロジー株式会社だ。
技術者たちを「マシニングアーティスト」と呼び、その高い技術と情熱を称賛し、加工技術の推進に取り組んできた代表取締役会長、海藤満氏。「失敗を恐れないイノベーティブな人が新しいものを生む」と語る海藤会長に、その理念を聞いた。
リーマン・ショックを機に「微細加工機」メーカーに
ーー事業内容についてお聞かせいただけますか?
海藤 満:
我々は創立120年を迎えた古い会社です。
創業当時は横浜港などで、船のメンテナンス用の機械を海外から仕入れて供給していましたが、決まったものを売るのではなく顧客の要望にあった機械を供給したいと考え、当時の富士通のNC部門(現:ファナック株式会社)と共同でNC加工機を開発しました。
しかし、我々のような小さな会社は、ニッチトップ戦略を展開しないと生き残れないと思い、1996年に「微細加工機」を開発したのです。
転身したのは、リーマン・ショックがきっかけです。絶好調だった売り上げが約3分の1に減ってしまったので、生き残りをかけて、一気に注力しました。現在は会社の売上の80%ぐらいが微細加工機です。
ーー微細加工機とはどのようなものですか?
海藤 満:
我々が勝手に作ったジャンルですけど、碌々スマートテクノロジーで作った「微細加工機」の定義は二つです。
1つは超精密形状加工。形状がプラスマイナス1ミクロン以下の精度を出せる機械。もう1つは高品位加工。鏡面加工でピカピカにするとか、欠けのないエッジで仕上げるとか。
また、製品に穴を開けるときには下にバリっていうクズみたいなものが必ずできるんですけど、それがない穴。そういう高品位加工と超精密加工が合わさったものを微細加工と定義しています。
台湾でのビジネス成功と微細加工機の開発が転機
ーーどのようなきっかけで社長になったのでしょうか?
海藤 満:
96年から企画室長をやっていた当時、碌々はプリント基板のボードの穴あけと外形加工をする産業機械を売っていました。
僕は当時の三代目社長から、台湾でプリント基板のマーケット開拓を指示されて、台湾で市場調査したのですが、あるスペックの機械が売れるのがわかった。そして、台湾仕様のプリント基板を作ったら、それが売れたんです。
一方で、 プリント基板の技術が、日本から賃金の安い台湾に流れていく兆候も見えていたので、社長には「今までにない加工機を開発しなさい」とも言われていました。そのとき、僕はウォークマンに注目していて、微細加工機が作りたかった。
携帯するものが小さいと、その金属を加工する工具もうんと小さくしなきゃいけない。切削する機械の回転数も高速にする必要がある。ということで、94年からサンプルを作り続け、2年で1号機が完成。そこから3年ほどかけて売れ始めました。
プリント基板製造の技術販売がうまくいって営業本部長になり、全体を見る立場になったときにリーマン・ショックが起きたんです。同時に、弊社は同族会社として、社長は代々受け継がれてきたのですが、四代目社長になるはずだった息子さんがどうしてもやりたいことがあるというので跡継ぎがいなくなり、僕が社長に就任させていただくことになりました。
ニッチトップ戦略でグローバル化し、オンリーワンになる
ーー新規取引先の開拓について、今どのように考えていますか?
海藤 満:
今、我々の主要なお客様は半導体と電子機器のメーカーが主ですが、微細加工を生かせる市場はいくつも出てきています。
1つは医療機器。人工骨やインプラントなど体の中に入る部品や、オペレーション手術ロボットは小型化すればするほど、身体に負荷がかからなくなるんです。
たとえば、胃カメラはどんどん進化して、チューブがどんどん細くなってるんですよ。細いとスーッと身体に入っちゃうんですよね。今、胃カメラは監視だけではなく、患部の切り取り、手術や検査までできつつありますが、そうするとC C Dカメラも、マイクロL E Dも、そのための金型が全部微細化する。そこで、いよいよ僕らの微細加工機が必要になってくる。
電気自動車にも注目しています。高級車は電動シートを使っていますが、エンジンがかかっている時は気にならないのに、シーンとしているときは音がうるさい。摩擦音が原因なんですけど、軋みが発生している部分を鏡面にするとスルッと音がなくなることがわかり、そこに微細加工機が使われるようになった。
あとは美容業界です。ヒアルロン酸マイクロニードルパッチという器具がある。ヒアルロン酸を数ミクロンの針状に成形して、パッチで張り付けると肌の中にヒアルロン酸が浸透して、効き目が倍増するんですよ。それが韓国から流行り出しているんですよね。
そのほかにも、加工するのが大変な、たとえばガラスやセラミックス。それを機械加工できるようにするのが、僕らが今後やらなければいけないことなんですね。そうすれば、他業界のメーカーにも全く違うソリューションが提供できるようになるはずです。
得意分野を深掘りすればするほど大手が入って来られないから、オンリーワンになれる。グローバル化も重要ですね。日本で確立された技術は2年ぐらい経つと台湾やマレーシア、タイやシンガポールなどに流れていって、そのタイムラグで市場ができるんです。ニッチトップ戦略をグローバルに展開し、そこのオンリーワンになりさえすれば、100年企業になれるっていうのが僕のロジックです。
失敗を恐れないイノベーティブな人材を
ーー求めている人物像はありますか?
海藤 満:
失敗を恐れないで、ものづくりに対するモチベーションの高い人ですね。できればアーティスティックな人。感性が鋭い人。「無」から「有」を作れるチャレンジ精神がある人を求めています。
今作ってるものを作り続けていくだけじゃ、大手と対峙すると負けるので。社長も最大15年ぐらいで世代交代すべきと考えているんですが、自分の成功体験を引きずると世の中の動きや変化にどうしてもついていけなくなるから。新しい発想の若い人たちに、活躍してほしいと考えています。
あと困っていることを解決して「ありがとう」って言われることに、モチベーションが持てる人材が欲しいんです。微細加工なんで、イノベーティブな開発をしていかなければならない。
ただ、イノベーションはニューコンビネーションが大切で、Aという技術とBという技術を掛け合わせて、新しい技術を生み出さないといけない。発明家でなくても、そういったイノベーティブな人が欲しいです。
編集後記
120年以上もの歴史を持つ企業で、台湾におけるプリント基板の成功に始まり、微細加工機の開発に携わり、その事業を成長させた海藤会長。
微細加工機は、今後の医療機器、電気自動車、美容分野など幅広い用途への展開が見込まれていると語る。
グローバル化とオンリーワンの地位確立を目指し、常に新しいモノづくりを続ける碌々スマートテクノロジー株式会社。イノベーションとチャレンジ精神を重視し、微細加工機の未来に期待を寄せている。
海藤会長の情熱は、日本のモノづくりと進化に多大な影響を与え続けるだろう。
海藤 満(かいとう・みつる)/1954年、新潟県生まれ。青山学院大学経済学部経済学科卒業後、碌々スマートテクノロジー株式会社入社。微細加工機を企画し、碌々産業の主力事業に育てあげた。営業本部長のときリーマン・ショックが起こり、それを機に微細加工機メーカーへと転身。2023年に代表取締役会長に就任し、同年、経営哲学や企業の発展性、日本社会への貢献度を評価するNDマーケティング大賞を受賞した。