水処理関連産業の市場規模は世界で約110兆円といわれ、開発途上国エリアの東南アジア、中東、北アフリカでは年間10%以上の高い成長が見込まれている。今後とも環境方面での市場開拓がますます期待されているセクターだ。
もうすぐ創業60周年を迎える株式会社トーケミ(大阪市)は、水処理ろ材やケミカルポンプの製造販売を手がけている。
今年4月に代表取締役社長に就任した細谷卓也氏は、ASEANのラオス人民民主共和国で水道のインフラ整備に参加するなど、拡大が見込まれる世界市場に向けて進出してきた。
下積み時代のいきさつや注力部門、次の時代を見すえた環境対策について詳しく聞いた。
奮闘したドイツ修行時代の糧(かて)
ーー会社を引き継ごうと思われた経緯について教えてください。
細谷卓也:
初代の叔父と2代目の父が一緒に興した会社の3代目として後を継いだのですが、子供の頃から会社を継ぐものという認識を自然と抵抗もなくもつことができました。
学生時代は周りの友人のように大きな上場企業に就職するチャンスはありましたが、物心ついた頃に父から創業の苦労話をよく聞かされており、この会社を継続させていくことが自分の役割と思い入社を決めました。ある種の洗脳ですかね。入社当時には古参や同年代のスタッフからは色眼鏡で見られていたようですが、時間の経過とともに同じ船に乗る仲間として認めてもらえたと思っています。
ーー大学院修了後、ドイツ企業に就職されていますが、今に活かされていることはありますか?
細谷卓也:
電磁駆動の薬注ポンプのパイオニアで水質計などの水処理機器を世界的に扱うドイツのプロミネント社に1年間勤めていました。現在も日本の代理店をさせていただいています。
今では考えられないかもしれませんが、インターネットやスマホもなく、卓上電話とFAXが活躍していた時代です。浦島太郎のようでした。もちろん周囲には日本人が1人もいなくて、言葉も十分に伝わらない状況の中で、工場のラインに入ってポンプを組み立てたり、時には営業に同行して得意先様廻りもしていました。いい経験をさせていただいたと思っています。
精神的に鍛えられたおかげで少し度胸がついたかと思います。例えば、外国人に対しても抵抗はありませんし、新規の飛び込み営業にも躊躇しなくなりました。そういうところは現在でも重要な経営判断のシーンで活かされていると思います。
営業社員のスキルアップと海外への事業展開
ーー営業部門の強化が課題とお聞きしました。
細谷卓也:
トーケミの仕事は水環境事業なので、仕事をすることが地球を美しくすることに直結します。先代がゼロから始めた会社なので、会社がここまで成長してくるために重要視していたのは売上と利益でした。目標を達成するために少々ムリをしてでも、根性でどうにかするという風潮があったのですが、今の若い世代に求めることは難しいと思います。
これまでの働き方を改革し、それでいて限られたメンバーで如何に効率的に業績を上げていくかという意味で、営業のクオリティ向上が欠かせません。そしてただ売ればいいというのではなく、過去の経験を活かして、お客様のお困りごとやご希望をコンサルティング方式で相談に乗って提案したりと、工夫を凝らして成約に結びつけていく必要があります。この世界は御用聞き営業では成功しません。
商品単体かそれともシステムで売っていくのかといえば、やはり大きなスケールで販売した方が数字的には有利です。しかしそれには技術力と経験が必要です。どのように売っていけば効率的なのか、会社の存在意義を若手に伝えていくか、スタッフの教育体制を整えていくことが今後の弊社にはとても重要だと思います。
ーー大きなスケールといえば、以前から海外に進出されているようですね。
細谷卓也:
約10年前に中小企業の海外事業を支援するJICAのОDAスキームを活用させていただき、ご縁があったラオス国の水道のインフラ整備に参加しました。ラオスは海のない国で、水道の普及率が30%未満と大変低く、かつ内陸国なので産業も他の東南アジアと比べても発展しにくい環境です。お金のない国ですが、心優しい人々のために、「私たちの技術を活かせる世界で一役を担ってみたい」と進出しました。
東南アジアでは雨季に大量発生した濁水を飲み水のレベルまで浄化します。かつての日本で必要とされた水道の技術がいま、開発途上国の人たちに求められています。この先も東南アジアをはじめ世界で求められるやりがいのあるプロジェクトの技術サポーターとして貢献していきたいですね。
また、日本の水処理を学んで母国に展開したい外国人の方のインターンでの受け入れも行っています。実は今日もエチオピアなどアフリカから3人のインターン生が来られていまして、今後は海外からの人事採用も積極的に行っていく方針です。
もちろん外国人だけでなく、国内の新卒社員も海外事業に参加するチャンスはありますので、弊社は国際交流の場として最適な企業環境だと思います。
SDGsへの意識高らかに リサイクル技術の開発
ーー貴社の強みとこれからの経営方針、商品開発について教えてください。
細谷卓也:
水処理関連の機材の多くを取り扱っていますので、機材と資材の総合メーカーとして営業展開ができるのが強みです。
水処理事業というものはITのヒット商品のように爆発的に売上があがるということはありませんが、環境に関係した事業として誇りを持つことができます。
SDGsの意識も高まっている中で、弊社の販売する粒状ろ材やポンプ、装置をリサイクルする技術で持続可能な環境事業を拡大していくことが可能です。
飲み水を創るだけでなく、排水処理水のリサイクルと資源の回収、そして資材・機材でのリサイクル技術の開発に本腰を入れていきたいと思います。それが次の世代への社会貢献につながりますし、そうした事業に若い方にも賛同していただけることを期待しています。
編集後記
談話の序盤に創業者と後継者の役割の違いに触れ、「0から1ではなく、引き継いだ1を10に成長させることが後継者の役目。それに向けて会社の再構築に取り組みます」と力強く話している。
水処理事業が国内外の環境課題の解決にいかに役立つか、落ち着いた口調ではあるが力強い言葉に筆者も胸が熱くなった。
細谷 卓也(ほそたに・たくや)/1970年5月生まれの53歳。国立明石工業高等専門学校から国立豊橋技術科学大学、同大学院修士課程修了後、ドイツのプロミネント社での勤務を経て1996年にトーケミ入社。2010年技術開発部長、2015年取締役事業推進部長、2018年専務取締役等を歴任し、今年4月から代表取締役社長に就任。自ら海外に赴き市場拡大に注力している。