※本ページ内の情報は2024年11月時点のものです。

製造業や自動車産業など多分野でのものづくりに欠かせないネジの製造業。その中でも、早い段階からアメリカを中心とする海外向けに事業展開し、約80年にわたってネジ製造を続けてきたユニタイト株式会社。1984年生まれの若さでありながら、アメリカ法人の社長と本社の副社長を兼任する3代目に、これまでの歩みと今後の展望についてうかがった。

海外での経験が形づくったリーダーシップ

ーー貴社に入社してから副社長に就任されるまでの経緯を教えてください。

橋本篤:
弊社は、1946年に私の祖父が神戸市長田区で創業したネジ部品の製造会社で、1965年ごろからアメリカ向けにネジ部品の輸出を開始し、1990年には現社長である私の父親がアメリカでの製造も本格的に始めました。

私は2007年に大学を卒業後、新卒で弊社に入社しました。入社と同時にMBAプログラムを提供する大学院に進学したため、最初の2年間は会社に在籍しつつ、主にビジネス研究に専念していました。大学院を卒業後、3年間は子会社に出向し、中国での拠点立ち上げに携わり、その後30歳でアメリカに赴任し、2020年にはアメリカ法人の社長に就任し、2023年からは本社の副社長も務めています。

ーー豊富な海外経験を活かしてどのような会社づくりをしていますか?

橋本篤:
海外経験を通じて、日本の常識が必ずしも世界の常識ではないということを理解しました。たとえば、私がアメリカで社長に就任した2020年は、まさにコロナウイルスのパンデミックが発生した年でした。

日本の対応方法だけにこだわらず、幅広く情報収集しながら、アメリカ企業、日本企業、アメリカの日系企業それぞれに適した対応をとりました。未知の状況下で苦労はしましたが、このことにより1つの常識にとらわれず、柔軟に対応する必要性を強く感じました。

本社の副社長就任後は、従業員の年間休日数を120日まで増やすなど、時代に合った働きやすい環境づくりに取り組んでいます。今後は、アメリカ企業で導入されている従業員表彰制度や、社長と新入社員がコミュニケーションをとる交換ノートを採用するなど、環境整備に取り組んでいきたいですね。

また、従業員のモチベーションを上げるためには、より高度なコミュニケーションが重要です。例えば、アメリカでは、会社全体としてどのように取り組むべきか全従業員に四半期で説明しております。

マネジメント層には、対面で会社の業績と給与の関連性を説明し、目標設定を行わせています。次世代を担う社員にも会社の業績の理解をより深めてもらいたいと思いました。そのため、会社の状況や理念を周知させることを目的に、社内報の発行を始めたところです。

建設から風力発電まで、幅広い分野で活用されるネジの商品力

ーー貴社の強みとして挙げられることは何ですか?

橋本篤:
弊社の強みは、会社のビジョンを理解し、それを実現する人材が豊富にいることです。ボルトやネジの製造業は派手さには欠けますが、自分たちの事業の価値をお客様に伝える営業部、ネジに限らず必要とされる製品をお客様と共同開発する開発部や技術部など、優秀な人材がそろっていることが弊社の最大の強みです。

また、弊社は一つの業界に特化していないことも強みで、建築・土木業、重機、自動車業、そして最近では風力発電など、さまざまな分野に向けた製品を製造しています。たとえば、日本で構造建築物と見なされる風力発電タワーの建設には、国土交通省の認定が必要ですが、弊社にはそのノウハウがあります。

また、風力メーカーの多くは外資であるため、英語での監査対応が必要です。弊社にはアメリカや中国の拠点で活躍した社員が多いため、多言語での単刀直入な顧客対応が可能であり、こうした強みが風力発電用ネジ製品の売り上げ拡大につながっています。

人材育成と海外拠点の拡大で、目指すのは世界シェアNo.1

ーー人材育成などについて、注力している取り組みを教えてください。

橋本篤:
今後弊社が成長するためには、私の年齢層の方々がリーダーシップを持って活躍してくれることが重要になってくると考えております。ネジ業界はコストが厳しく、また後継者不足などによって衰退している業界であり、M&Aなども今後多くなってくると思います。

それに備えて、40代でも子会社の社長を任せられるようなリーダーシップや事業管理能力を持つ人材を育成していきたいと考えています。もちろん、私もその中で成長していきたいと考えています。

管理部門の人材については、私のように初めから弊社に所属して育ったプロパー社員の登用と、専門性を持った中途採用者の活用があり、両者の適切なバランスをとることが課題です。プロパー社員は弊社の良さや風土を理解しており、中途社員の新しい発想をどのように現在の社風にバランスよく融合させて活かしていくのかが重要です。

ーー最後に、今後の展望についてお聞かせください。

橋本篤:
現代では、20代の人がネジ製造業を志す時代ではないかもしれませんが、その魅力を伝え続けていきたいと考えています。世界の産業界を支える部品製造会社が世の中には多く存在することを知ってもらい、業界として人材確保の問題に取り組んでいきたいですね。

「ユニタイト」という社名のユニ(UNY)はラテン語のUNI(ひとつ)を表し、タイト(TITE)は英語のTIGHT(固く結ぶ)を表しており、ボルトとナットを「ひとつに固く結ぶ」だけでなく、お客様と弊社、あるいは従業員同士、会社同士のつながりを固く結ぶという意味もこめられています。

80年近く続いた弊社の理念を大切にしつつ、時代の変化に対応しながら、世界中で「建築用ボルトと言えばユニタイト」と言われるような会社に育てていきたいと思います。

現在、日本の建築・土木業界での弊社のボルトシェアはトップではないです。但し、弊社の場合、アメリカや中国にも拠点があり、それらの拠点が海外シェアを伸ばすことで世界でのトップシェアを確保できると考えております。さらに今後はインドネシアなどの東南アジアの国々でのシェアを増やすことを検討しております。世界でのシェアNo.1を目指すことが、私の夢であり目標です。

編集後記

現代の若者にとって、ネジ製造業は確かに目新しさに欠けるかもしれない。しかし、橋本副社長の話を伺う中で、世界中のインフラを下支えしているという誇りが、業界の魅力を再認識させてくれた。

戦後いち早く、アメリカに進出した創業者の思いを確実に受け継ぐ一方で、常識にとらわれることなく、時代の変化に柔軟に対応しながら成長を続けている。「建築用ボルトと言えばユニタイト」と世界で言われるようになる日は近いかもしれない。

橋本篤/1984年兵庫県生まれ。同志社大学工学部卒業。2007年にユニタイト株式会社に入社し、同志社大学大学院ビジネス研究科に入学。修士課程修了。2014年にアメリカに赴任し、2020年にUNYTITE, INC.の社長に就任(現在も兼任中)。2023年にユニタイト株式会社の副社長に就任。