コロナ禍で一般外食の個人支出が大幅に減少する中、在宅時間が増えた影響もあり、冷凍食品の個人支出は増加した。また、共働き世帯や単身世帯が増加し、冷凍食品の需要も年々高まっている。
人々のライフスタイルが変化し、冷凍食品の必要性が増している昨今。株式会社渡辺冷食は、冷凍食品の製造・加工で約70年にわたりこの業界を牽引してきた。
もともとOEMにのみ注力していた同社だが、自社ブランドを始めたのにはどのような背景があったのか。専務の渡辺克拓氏に、自社ブランドを始めた経緯や戦略、そして今後の取り組みを聞いた。
水揚げされた魚を翌日には製品化できるのが強み
ーー具体的な事業内容を教えていただけますか。
渡辺克拓:
弊社は1954年に創業された会社で、もうすぐ70年が経とうとしています。創業当時は冷凍食品などない戦後の時代で、干物や煮干しの水産加工の事業から始まりました。2代目の父の代から冷凍食品の事業も始めて、少しずつ業態を拡大し現在に至ります。
ーー貴社の冷凍食品は、量販店やコンビニ、学校給食などさまざまな場所に展開していますが、どういった点に強みがあるとお考えですか。
渡辺克拓:
弊社では千葉県の銚子港などで水揚げされた魚を、同じく千葉県にある加工場で加工しています。そのため、東京やほかの関東圏へすぐに届けることが可能です。たとえ冷凍食品とはいっても、鮮度は重要ですから。水揚げされたものを翌日に製品化できるのは、他社と差別化できている弊社の1番の強みです。
ーーもともと渡辺専務は、総合食品商社の株式会社日本アクセスで働いていたとうかがいました。同じ食品業界で経験を積んだことで、何か良かったことはありましたか。
渡辺克拓:
日本アクセスで働いて良かったことは、人脈をつくれたことです。日本アクセスは、現在でも弊社の一番の取引先ですから。当時、会社で一緒に働いていた同期が現在では大手スーパーの担当をしていて、弊社の商品を販売してくれるなど、事業をするうえで人脈が大きく役立っています。
OEMならではのリスクを解消するために自社ブランドを開始
ーー貴社へ入社後、ぶつかった困難などがあれば教えてください。
渡辺克拓:
弊社に限った話ではないと思いますが、メーカーのOEMを行うというビジネスモデルのむずかしさには何度も頭を抱えました。OEMでは他社ブランドの製品を製造するため、ビジネスモデル的に立場が弱いのです。
製造が上手くいくと利益が出る反面、メーカーが製品を内製化してしまうリスクもあります。さらに、取引先が突然契約を終了したり、取引先が倒産した場合には弊社も経営危機に陥る可能性もあります。
このようなリスクを避けるためにも、弊社はメーカーを挟まずバイヤーと直接交渉できる、自社ブランドの事業に舵を切ろうと考えるようになりました。
ーー2016年には株式会社ワタレイフーズを創業されましたが、内製化するためというのが大きな目的でしょうか。
渡辺克拓:
今まで弊社では、仕入れは商社から買っているだけ、販売はメーカーに売っているだけという状態でした。ワタレイフーズを立ち上げたのは、原料の仕入れから販売まですべて自社内で行う内製化をしたいと思ったからです。
内製化を進める方法として、たとえば仕入れでは商社から専門知識のある人材をヘッドハンティングしました。そして、その人を中心に仕入れ業務を進め、自社内で業務が完結するような仕組みや組織づくりをしました。
弊社には良い製品をつくる能力があるので、これからは自社ブランドとして、自分たちの名前で製品を売っていくことが大切だと考えています。
実際に弊社では、アジフライなどの揚げ物を自社ブランド『雪月花』として販売しており、これは鴨川市のふるさと納税返礼品にもなりました。このような活動の積み重ねで、少しずつ知名度は上がってきています。
ーー内製化に向けてヘッドハンティングを進めたとのことですが、何かほかに考えている戦略があれば教えてください。
渡辺克拓:
ヘッドハンティングなどで人材を外から確保する方針が最も良いと考えていますが、M&Aをするのも良いと思っています。
今後は営業体制と評価体制を強化しパワーアップしたい
ーー今後は採用や教育に力を入れたいとのことですが、その点について詳しく教えてください。
渡辺克拓:
まずは営業体制の強化が必要と感じています。現状では私自身が営業活動を兼ねているため、営業専門の人材を入れるだけでかなり状況は変わると思っています。これまでは商品の質に頼って営業を行ってきましたが、営業力を強化すればさらに業績は伸びると期待しています。
また、管理体制の見直しも考えています。今までは社員にノルマを課していなかったので、これからは少しずつ社員たちの目標設定にも力を入れていきたいです。成果主義を取り入れるなど、評価体制を整えていく必要もあります。
編集後記
国内での冷凍食品事業で会社を成長させてきた渡辺冷食だが、店舗化や海外進出にも今後挑戦していきたいと渡辺社長は話した。
次々と新しいことに挑戦する気概を持つ渡辺冷食は、これからも事業を拡大しながら、日本の食を支えてくれるだろう。
渡辺克拓(わたなべ・かつひろ)/1984年千葉県鴨川市生まれ、成城大学卒。日本アクセスで3年勤務後、株式会社渡辺冷食へ入社する。