脱ガソリン・脱ディーゼルに向けて電気自動車(EV車)の普及が期待されるなど、自動車に対する人々のニーズや求められる技術は日々進化している。
グローバル競争の真っただ中にある自動車市場で、日本のモビリティ産業を支えているのが株式会社フィアロコーポレーションだ。伝統と新たな発想を組み合わせたデジタルテクノロジーを駆使し、自動車開発を行っている。
同社の代表取締役社長、岩﨑晃彦氏に、刻一刻と状況が変わる自動車市場で今後注力していきたいことと展望を聞いた。
父から会社を受け継ぎ35歳で社長に
――社長に就任されるまでの経歴をお聞かせください。
岩﨑晃彦:
大学卒業後は日本政策金融公庫に入庫し、社長を継ぐ前の修業期間として3年半ほど勤めました。その後、1997年にフィアロコーポレーションへ入社し、最初は栃木工場に配属になりました。栃木の工場に配属されたのは、この事業所での仕事が弊社の業務内容を理解するのに最適な場所だったからです。それから10年後の2007年、社長に就任しました。
――35歳のときにお父様から会社を受け継がれたとのことですが、同族経営ならではの苦労などはあったのでしょうか。
岩﨑晃彦:
先代の父が良い職場環境をつくってくれていたので、人間関係で苦労をしたり、過度なプレッシャーを感じたりすることはありませんでした。弊社は高い技術を持っている会社ですから、社長としてしっかりと成果を出していきたいという思いが強かったです。
ただ、スタートアップ企業のようにゼロから私が立ち上げた会社ではないので、今まで受け継いできたものを守りつつ挑戦していかなければいけない大変さはありましたね。
個性あふれる技術者集団が強み
――貴社の強みはやはり技術力の高さにあるとお考えですか。
岩﨑晃彦:
技術者が開発を最後までやり遂げられるかどうかは、やはりその仕事が好きかどうかに大きく影響されます。その点、弊社は仕事に情熱を持っている人がたくさんいるのが強みですね。
弊社は多様な個性が集まった集団なんです。そのため、お客様もフィアロコーポレーションと仕事をしているというより、技術者個人と仕事をしている感覚を持たれているかもしれません。
――ほとんどの社員が開発業務に従事していると伺いました。専門的な仕事であるため、一人前になるまでに時間がかかるイメージがありますが、その点はいかがでしょうか。
岩﨑晃彦:
どのようなキャリアステップを踏みたいかにもよりますが、一人前になるには5年くらいは必要かと考えています。3年間技術を学んで、2年間プレーヤーとしてプロジェクトに参加するような流れですね。
ただ、スペシャリストになることはもちろん大切ですが、スペシャリストだけでは大規模な仕事はできません。それゆえ、スペシャリストをサポートできるメンバーもそろえながら、チームとして上手く動ける組織をつくっていきたいと考えています。
顧客が世界で勝ち残るバックアップをしていきたい
――今後の注力テーマについてお聞きかせください。
岩﨑晃彦:
1つは、新しい商品や技術の開発です。EV車が将来普及するといわれ、何十年後かには自動運転が当たり前になっている可能性もあります。その際に、スマホとの連携ができるなど、車のハードウェアだけでなくソフトウェアの提案ができると強いと思っています。
従来のハードウェアからソフトウェアを含めたところまで、トータルで開発ができることを売りにできるかどうかは、今後の弊社の課題でありチャンスでもありますね。
2つ目は、既存顧客との関係促進です。自動車産業はグローバル競争の真っただ中にあり、新しい技術をどんどん開発していかなければいけません。弊社は大手の自動車メーカーや部品サプライヤーとの取引が多いので、お客様が世界で活躍できるよう、さらにバックアップしていきたいです。
ヨーロッパの技術を活用する海外展開も視野に
――既存顧客との関係を促進させていきたいということですね。顧客と関わるうえで、何か付加価値を提供するために意識されていることはありますか。
岩﨑晃彦:
先ほどもお伝えした通り、弊社は技術者の集団なので、口が上手いわけではありません。ですから、お客様と関わる際は口の上手さでどうにかしようとするのではなく、有益な情報や面白い情報、技術サンプルの提供など、相手が喜んでもらえるものを渡せるよう意識しています。
たとえば弊社は海外の仕事もしているので、海外の情報や海外の面白い技術を見せると興味を持ってもらえることが多いです。
――今後は海外展開も進めていきたいとのことですが、具体的にどのような展望をお持ちですか。
岩﨑晃彦:
今後はヨーロッパ、特に東ヨーロッパの高い技術をより活用していきたいと考えています。ヨーロッパは自動車先進国ですから、あちらの優秀な人たちと連携したいですね。
弊社に限らず、今後はどのような仕事をするにしても、海外で戦える強いマインドや英語力が必要になってくると思います。弊社にも英語が話せるエンジニアがもっと増えてほしいですし、若い方は自分の価値を高めるためにも英語を学んでおくと良いと思いますよ。
編集後記
伝統を守りつつ、革新も忘れない岩﨑社長。同社のYouTubeアカウントでは、モビリティ業界のことだけでなく、社長の趣味であるマラソンのコンテンツも投稿するなど、試行錯誤しながら新たな挑戦を続けている。
技術力の高さで日本の自動車産業を支える株式会社フィアロコーポレーションが、新技術で日本や世界に革新をもたらすのが楽しみだ。
岩﨑晃彦(いわさき・てるひこ)/1972年埼玉県生まれ、早稲田大学卒。中小企業金融公庫(現日本政策金融公庫)に入庫し、3年半の修業期間を経て1997年に株式会社フィアロコーポレーションへ入社。2007年に同社の代表取締役社長に就任。