「antiqua(アンティカ)」は2008年に大阪でインターネット販売の可能性に賭け、アパレルのセレクトショップとしてスタートした。その後、他店にはない独自のアイテムを次々と提供し、楽天市場などを通じて多くのファンに支持されている。
大勢のスタッフを抱えながらも、向上心を忘れず、常に「新しさ」を生み出す姿勢を崩さない株式会社antiqua。アパレル小売業の枠に留まらず、食や音楽とのコラボレーションを通じたライフスタイルの提案にも注力。2024年には、大阪・岸和田に大型複合施設「WHATAWON」の開設も待たれる。
「まだこの世に存在していないものを作るのがコンセプト」と語る株式会社antiquaの社長、原京子氏と株式会社ツリーカフェの社長、原俊之氏にその経営ポリシーを聞いた。
高校生でセレクトショップを作ろうと思っていた
ーー アパレル業界で働くことになった経緯は?
原京子:
高校生くらいから自分の欲しい服を自分で選んで売りたいと思っていたので、いつかはセレクトショップを運営したいと思っていました。ネットショップを開いたのは24歳ぐらいだったと思います。前職でも店舗の立ち上げを担当し、それなりに成功したため、退職して自分の会社を立ち上げたのです。
ただ、選んだものを売るだけではまだ物足りないと感じて、オリジナルの商品も作ろうと決意しました。
ーー 売れるきっかけはありましたか?
原京子:
起業は、基本的に自己資金で進めました。借金はできるだけ避けたかったんです。最小限の資金で始めるためにも、ネットショップという形態にしました。しかしオリジナル商品を作る際、まとまった商品数を発注する必要があり、最初は計画を立てずに大量に仕入れてしまいました。
貯金をほぼ使い果たし、このままではお金が底をついてしまうと思い広告を打ったところ、大ヒットになったんです。その後、他の商品も製造・販売して楽天総合ランキングでも成功を収めると、それがまた広告になり、売上が好調に推移していきました。
デザインと着心地、価格はどこも真似できない
ーー 売れた決め手はなんだと思いますか?
原京子:
デザインが非常に凝っていたことが大きな要因だと思います。たとえば甘いテイストのデザインをデニムに合わせてコーディネートして、写真もかなりこだわりました。他の店では、まだそういった取り組みをされていなかったので、差別化ができたのです。
原俊之:
デザイン、着心地、そして価格。この3点はもうどこにも真似できないでしょう。キャリアが15年もあるため、多くの商品を提供することができ、他の店舗では難しい商品も製造できます。着心地が悪くて1回着て終わりということにならないように、弊社では最初に袖を通したときのインパクトや感情というものを非常に重要視していて、製作時の注力ポイントにもなっています。
原京子:
また、ただ安価というだけでなく、長く着られる品質の高さを維持し、高級ブランドと競争できるデザインを施しています。高級ブランドは普段着にしにくいですが、弊社の服は日常のファッションとしても着られる価格帯です。
商品は、自分自身が可愛いと思うものと、自分は着ないけれど他の人が可愛いと思うものを想像して企画します。絶対的に自分が欲しい服には愛着もひとしおで、「こういうのを作ってほしい」と伝えて、いつできるのかを何度も問い合わせたりすることもあるんですよ。市場にまだ存在しない商品を作ることがコンセプトです。
ーー会社の強みはなんですか?
原京子:
アイデアと発想を大切にしています。新しい商品を考える際には、とにかく検索をするんです。どのようなデザインが良いか、どの要素を組み合わせると面白いかなど、情報を収集し、それらをミックスさせます。たとえば、インテリアであれば、1人のデザイナーが照明や家具など特定のアイテムを多く作ることが一般的ですが、私たちは異なる要素を組み合わせて違和感を楽しむのです。
原俊之:
たとえば、業務拡大のために2022年にオープンしたカレー屋は、古風な日本邸宅を再利用して経営しています。ほかではあまり見られない斬新なアイデアだから注目してもらっているのではないかと思います。
新しい人と場所に出会うことでセンスを磨く
ーーセンスはどうやって磨いていますか?
原京子:
情報収集が大切だと思います。会話や訪れる場所に対して常にアンテナを張り、新しいアイデアに触れることで磨かれると思います。家にこもっていても新しいことは発見できません。最近、コロナ対策の制限が解除され、海外に行けるようになりましたが、実際に訪れることで新しい視点が得られることを実感しました。
原俊之:
また、無駄なものを排除することも大切です。センスのないものや陳腐なものに時間を費やすべきではありません。ありきたりなアイデアやアプローチに触れるような選択肢をできるだけ排除することで、新しいアイデアが明確に見えてくるんです。
WHATAWONという新しい挑戦
ーーantiquaの関連会社であるecru(エクリュ)が手掛けるWHATAWONについてお話をお伺いさせてください。
原俊之:
2024年に大阪は岸和田で開業する「WHATAWON」は、60から70の店舗が入る、滞在型エンターテイメントモールで、これまでにない“等身大の非日常”が体験できる場所を目指しています。
年間100万人が訪れる蜻蛉池(トンボ池)公園の真向かいに位置し、岸和田和泉インターチェンジやららぽーと、コストコなどが近くにあります。大阪、和歌山、奈良、さらには関西国際空港からもアクセスが良い場所です。
原京子:
「モールで1泊」というのも今までなかったですよね。WHATAWONはあらゆる点において、一般的な大手のショッピングモールとは異なるコンセプトを持っているのです。たとえば、大手のモールは入店料が高く、体力のある企業以外は入れないことが多いのですが、私たちは血の通った人々と一緒にチャレンジしたい。
ですから、WHATAWONにはお客様のことを考えて運営している店舗さんしか入っていません。楽しいことが好きで、新しいアイデアを試すことが好きな人々が集う場所にしたいと思っています。お金を出したからといって、出店できるわけではないのが特徴です。
原俊之:
また、WHATAWONでは全ての支払いがキャッシュレスで行われます。自分たちがキャッシュレス派で現金しか使えなくて困った経験があることから、物販エリアではバーコードをスマートフォンで読み取って支払いを行えるようにしました。レジや機械を一切必要としない独自のシステムを提供します。
ーーWHATAWONの発想はどこから?
原京子:
私自身も子供がいることから、3世代が楽しめる場所を作りたいと思いました。年齢に関係なく、おしゃれをして買い物し、美味しい食事を楽しんで帰ってもらいたいと考えたのです。
さらに、イギリスやニューヨークのような雰囲気も体験できる場所にしたいと思いました。たとえば、ロンドンにあるショーディッチ・ハイ・ストリートには、輸送用コンテナでできたショッピングモールがあります。WHATAWONでは、このような場所を参考にして、約3割を常設店とは別にポップアップ店舗として運営し、若い起業家も挑戦できる場を提供していきます。
また、「ワンちゃんにとっても居心地の良い場所にしたい」という思いもありました。WHATAWONでは、愛犬と一緒に食事ができるフードホールや、大きなドッグランを完備しています。犬も家族の一員ですから人間と同じように色々な場所へ連れていくことが当たり前になると幸せですよね。
編集後記
原京子氏と原俊之氏の言葉からは、常に新しいものを追求し、挑戦し続ける情熱が伝わってくる。
「まだこの世に存在していないものを作るのがコンセプト」と発するお二人の言葉から、新しいアイデアと創造力がどれだけ重要かがわかる。
お二人の情熱とビジョンに共感する若いスタッフも、自らのビジョンや感覚を大切にし、新しい試みにチャレンジし続けているという。きっと、若い世代のフレッシュな発想が、社会の価値を更新し、面白い社会を作っていくのだろう。
原京子(はら・きょうこ)/1980年大阪府泉大津市生まれ。高校を卒業後、浅草橋の卸問屋JENISUTAに入社し、海外仕入れやOEMを担当。その後、株式会社mightyでセレクトショップを立ち上げた後、ネットショップ「オシャレウォーカー」を開設。2008年9月11日株式会社antiquaを設立。
原俊之(はら・としゆき)/1978年大阪府東大阪市生まれ、大阪芸術大学卒。平川商事株式会社(本社八尾市)に入社後、14年間の経営管理の職務に従事し、2014年に株式会社antiquaへ入社。同年に株式会社ツリーカフェを創立し、2021年にWHATAWONプロジェクトのスタートを期に、株式会社ecruを創立。育児、DJ活動にも注力している。