1934年に印刷機の製造販売からスタートし、今や段ボール印刷業界で大きな存在感を放っている「株式会社新幸機械」。
3代目・代表取締役社長の塚崎昌弘氏は、順風満帆な状態で父から役職を受け継いだわけではなかったという。就任までの経緯や企業の未来について話をうかがった。
私のキャリアジャーニー「一族経営の企業で社長となるまで」
ーー家業を継ぐことはいつ頃決まったのでしょうか。
塚崎昌弘:
祖父が立ち上げた会社ではありますが、僕はむしろ建築に興味があったのでアメリカ・シアトルに留学し文化や有名建築について知見を深めながら大学生活を過ごしました。
帰国後は貿易会社に勤め、しばらく経った頃に父から入社の打診があったのです。1991年に弊社へ移り、3年間ほど組み立ての現場で学び、設計開発部を経て2017年に社長となりました。
テクノロジーを活用して日中の友好関係を確保する
ーースポンサーシップを結んだ広州の企業とは具体的にどのような取引をしていますか?
塚崎昌弘:
年間約300億円の商いをしている中国・広州の企業からスポンサーとして支援していただきました。資金投入してくれるということは、経営にも関与すると思いましたが、それが全く無く、スポンサーが目的としていたのは弊社の「技術力」でした。
そのため弊社は、今まで通り独立採算で経営ができ、技術は中国で講習などを開いて引き継いでいます。弊社で開発した技術については、特許の取得も自由と伝えてあります。
日本と中国は、政治的には様々な問題があると思います。しかし、ビジネスにおいて弊社と中国の企業とは、政治の壁を越えて「人間対人間」の対等なお話ができる関係です。
ただ、中国国内の経済が悪化しているので、現在は中国以外の東南アジア、ヨーロッパ、アメリカ、人口の多いアフリカやインドへの展開も考えています。社内の営業担当と各国にいるエージェント、販売目的の代理店などに動いてもらっています。
今後の目標と会社の将来予測
ーー目標数字も掲げられているのでしょうか。
塚崎昌弘:
親会社と協議して、「世界的に業界No.1になる」という目標を掲げています。世界で一番というと、売上何十億、何千億の規模ですね。
具体的には、中国国内において広州とは別の工場を新たに建設中です。稼働後は、個数にして広州のおよそ10倍の機械を生産できるようになります。
「ロールレスフィーダー」開発のきっかけ
ーー貴社の製品の強みを改めてお聞かせください。
塚崎昌弘:
段ボールの印刷製造は、ロールで紙を挟み込んでいく形が世界的に主流でした。段ボールが持つ波型の厚みを少し潰してしまうわけです。そこで、弊社はロールを取り払い、潰さない印刷機械の開発に挑み、見事に成功しました。
自慢に聞こえますが、製品を発表してから7年以上経っても各社は開発できていない技術です。僕自身が設計開発部にいたため、機械の設計にはかなりこだわっています。
もちろん営業も必要なんですけれど、「営業さんが胸を張って売れる製品を作る」というのが会社発展の一番の近道ですね。
「製造業」という面白い世界――未来を担う人材へのメッセージ
ーー学生や転職希望者へ向けた、貴社のアピールポイントをお聞かせください。
塚崎昌弘:
製造業は「ものづくりを覚える」というハードルが高いかもしれませんが、やりがいは大きい仕事です。自分たちで設計して組み立てて、電気を入れて動かすというのが、感動的かつ嬉しい瞬間ですね。非常に面白い世界だと思います。
ーー従業員のための取り組みや制度があれば教えていただけますか。
塚崎昌弘:
50人ほどの会社なので、不定期ですが一人ひとりと面談しています。会社の話だけではなく、プライベートな話も日常的にしています。たとえば精神的な問題がある人がいれば、共に話し合って心のケアをすることが大切です。
お友達感覚ではありませんが、提案や要望は話しやすい組織風土になっていると思います。実際に、現場の方からの声でISOの取得や個人型確定拠出年金(iDeCo、イデコ)を始めました。
ーー最後に20〜30代など若手の方へメッセージをお願いします。
塚崎昌弘:
会社であったり、学校であったり、「ちょっと周りと違うな」という人がいますけれど、そういう人間こそ必要だと僕は考えています。必ずしも他人と合わせる必要はないのです。
自分の中に秘めているポテンシャルを存分に出して、自分の魅力を伸ばしていく方が新たな世界を発見できると思います。
編集後記
「人間対人間」の対等なやりとりは、ビジネスや外交の行方を左右するだけでなく、日常生活でも軽んじてはいけない部分だ。社員や親会社、取引先に対する塚崎社長の真摯な姿勢には、ものづくりと同様に強いこだわりが感じられた。
塚崎昌弘(つかざき・まさひろ)/1991年、シアトルにあるSouth Seattle Collegeを卒業し、翌年1月に株式会社新幸機械に入社。2017年に代表取締役社長就任。2020年、新型フィーダー実機投入に成功。段ボール製造機械メーカーとして、国内外に最新の技術とサービスを提供している。