※本ページ内の情報は2023年12月時点のものです。

空き家の増加による社会問題と、高度経済成長期に建てられた建物の老朽化が懸念されている中、解体工事業への需要の高まりが予想される。

このような状況で、株式会社イーグループホールディングスは、戸建ての年間解体工事着工戸数5,254件(2022年度実績)を獲得している。多くの件数に対応できる内部管理が行き届き、コストパフォーマンスを維持しているのが同社の強みだ。

若手社員の自主性を大切にしている渋谷巧氏に、その思いを聞いた。

日雇い労働から起業家へ

ーーどのような幼少期や学生時代を過ごされていたのでしょうか?

渋谷巧:
幼少期から型にはまるのが苦手なタイプでした。母親からは、「あなたは型にハマる生き方に向いていないから組織のトップに立つ社長になりなさい」と言い聞かされていた記憶があります。ですから、いつか社長になるんだという考えを幼少期の頃から持っていたのかもしれません。

高校へも進学しましたが、校則に縛られることへの違和感を覚え、早々に中退しました。

高校中退後は、日雇い労働として働きました。派遣先で出会った解体業者の社長に声をかけられたのが、現在の生業である解体工事業へと入ったきっかけです。

ーー起業された経緯を教えてください。

渋谷巧:
18歳のときに、あるトラブルが原因で命を落としそうになります。それが人生のターニングポイントですね。一度死んだ人生だと思って死ぬ気で働こうと思ったんです。

会社に勤めながら副業で事業を始めようとして思い付いたのが、私がもともと持っていた人脈と、若い人材を欲している建設業界との人材マッチングサービスです。

1人あたりのマッチングの手数料の利益は、約2,000円。19歳から事業を始めて22歳のときには、約2000万円の資金が貯められました。その資金を元手に法人化しました。

法人化後は、解体工事の請負へとシフトチェンジし、26〜27歳のときには、年商5億まで成長しました。しかし、現状に満足してしまい、今まで築き上げてきた企業の資産などを、社員たちに譲渡したんです。

それから新たに営業に特化した解体工事業をスタートさせました。営業で仕事を受注するだけでなく、現場での工事品質やコンプライアンス管理などにも注力し、現在の売上高にまで成長しました。

年間5千棟の解体工事を請け負える仕組みづくり

ーー貴社の強みについてお聞かせください。

渋谷巧:
圧倒的に母数が多いうえに中間マージンのカットができるため、コストパフォーマンスを維持できることが強みです。

現在、年間5,000件程の解体工事を請け負っていますが、この件数は、国内においても上位です。多くの施工現場を的確に回せる内部組織の仕組みづくりが行き届いているため、受注件数をどんどん増やすことができるのです。

ーー多くの受注を獲得するための営業力も必要だと思います。貴社では特別な取り組みをされているのでしょうか。

渋谷巧:
弊社の営業部では、インセンティブ給与制度を取り入れています。雇用形態は、外部委託契約です。

一般的なインセンティブ給与は、自分の成果に応じて報酬が得られる仕組みだと思います。

しかし弊社では、チーム全体の利益額によって報酬が左右されます。チームで一つの目標を達成する仕組みであるため、営業部の団結力や向上心が高く維持されています。

社員が自主性を持ち自律して働ける環境づくり

ーー評価制度や社内の仕組み化が非常に秀逸ですが、貴社はそのほかにどのような方針をお持ちなのでしょうか。

渋谷巧:
弊社では、役員は意思決定権を持っていません。トップダウンを禁止しています。

社員たちが主体的に会社の運営や戦略などについて議案を出し合い、会社の方向性や給与などのすべてを取り決めているんです。役員は意見をせず質問のみを行い、最終的な議決は、多数決によって決められます。

社員の給与では、社員が自分の価値や将来のビジョンを議案書にまとめて調停する「給与プレゼン上程システム」を取り入れています。

賞与も、「利他の精神」「向上心」「協調性」の3つを基準にして、社員同士で人間性を評価し合い、そこで得たポイントが賞与に反映されるのです。

このように、社内の決め事を社員同士で決めていくため全体会議が多く、役員ではなく社員同士で、気を遣い合える環境が整っているのが弊社の特徴です。

ーー社員が自主性を持てるように、貴社ではどのような環境づくりをされているのでしょうか。

渋谷巧:
会議の質にこだわることが重要です。定まった時間に始まらなかったり、主題がなかったりする会議はあり得ません。会議の質が企業の質ともいえます。

また、役員などの特定の個人が決定権を持つ企業は、社員の自主性が無くなるため、組織として成り立っていないと思うんです。それぞれに組織をリードできる強い思いがあれば、社員の自主性に任せることが可能です。その自主性を育むことが、弊社が圧倒的に他社より秀でている点だと考えています。

社会貢献と若い人材の啓発にも取り組む

ーー現在取り組まれている活動や将来的に取り組みたい活動は、どのようなものがあるのでしょうか?

渋谷巧:
弊社の理念を持続的に達成することが重要ですね。

たとえば、外国人労働者の方向けに、資格取得のための支援セミナーを開催したり、地域の子どもたちとつくったお米を地域で配ったりする取り組みをおこなってきました。

また、若い可能性を広げるために、埼玉県の児童養護施設の子どもたちを招いて、体験型フェスを開催する活動にも取り組みました。

このようなCSR活動を持続的におこなっていきたいですね。

企業理念を達成することのほかにも、弊社のような、社員が主体となっている中小企業を根付かせていきたいという思いがあります。生きる意味や肯定感を得られるような社会や企業をつくっていきたいですね。

日本の経済を支えられるような企業へ

ーー将来はこのような企業にしたいといったビジョンがあれば教えてください。

渋谷巧:
大前提として、私自身、まだまだ経営者の真似事をしているんだと思っています。私もいつか本当の経営者になりたいですね。

たとえば、ソニーやトヨタなどの素晴らしい企業によって日本経済が支えられています。私も、この国を支えるような経営者になりたいと思っています。

ビジョンとして直近で着手しなければならないのは、グループの連結決算です。そこからは業界1位を目指したいですね。

業界で1位を獲得できると「日本に影響力を与えられる企業」になれるという次のステージに進めるわけです。そこでやっと本当の経営者としての本番が始まるのだと思っています。

ーー今後、貴社を大きくするうえでの注力テーマをお聞かせください。

渋谷巧:
大前提として、利益を上げて会社を大きくすることだけが目的ではありません。弊社では、月次・週次で、会社を大きく成長させるための課題提起をおこなっています。

現在は「総務」「管理」「営業」の3つに課題を細分化しています。この各項目ごとに会社を大きくするための手法を提案し、課題を提起して、検証するという流れを繰り返しおこなっています。

現状の課題としては、開拓していない地方都市への展開方法ですね。エリア展開を広げていくための課題を検証しているところです。

編集後記

高校中退後の日雇い労働と副業から、経営者へと上り詰めた渋谷社長。
役員の意思決定権を無くし、社員の自主性を重んじる組織体制は、若者が企業や社会で生きる意味や肯定感を得られる環境である。

社員を第一に大切にする株式会社イーグループホールディングスが、日本を支える企業に成長する日まで目が離せない。

渋谷巧(しぶや・たくみ)/1987年2月20日生まれ。埼玉県出身。高校中退後に日雇いで働いていた派遣先でスカウトされ解体業界に入る。副業で資金を貯め、19歳で起業。2023年現在のグループ関連企業の総売上高は116億円を超える。