2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出ゼロ)実現に向けて、今、エネルギー業界が注目を集めている。その中で早くから省エネルギーや再生可能エネルギーに注目し、業績を伸ばしてきたのがテスホールディングス株式会社だ。
今回は、代表取締役社長の山本一樹氏から、会社の強みや成長につながったきっかけ、株式上場までの経緯、今後の展望などについてうかがった。
時代の変化や顧客のニーズをいち早くキャッチし、安定した収入が見込める仕組みを
ーー代表取締役に就任するまでの経緯と就任が決まった時の率直な気持ちを教えてください。
山本一樹:
代表取締役就任の話があったのは弊社が上場承認を受けた2021年3月です。
上場というのは、準備や承認をされてからもやらなければならないことが多いのですが、承認日当日だけは少しゆっくり過ごせると前社長が考えたみたいです。その日に呼び出されて打診され、その場でお受けしました。緊張しつつも、頑張ろうという身の引き締まる思いでした。
ーー貴社の事業内容について教えてください。
山本一樹:
弊社グループは1979年に創業以来、エネルギーに関する事業を行っており、現在は「エンジニアリング事業」と「エネルギーサプライ事業」の2つの事業を展開しています。
エンジニアリング事業が担うのは、工場の生産設備の稼働に必要な電気などを供給する設備の設計・調達・施工です。弊社グループでは省エネルギー系設備および再生可能エネルギー系設備を取り扱っています。
エネルギーサプライ事業で提供しているのは、オペレーション&メンテナンス(O&M)。工場の生産がどのように変わろうと電気は止めてはならないもので、そのためには設備の点検やモニタリング、運用管理などが欠かせません。
弊社グループでは、顧客に設備を導入して終わりではなく、そういったアフターフォローも長期契約で請け負っています。そのほかにも約300MWまで積み上がった自社太陽光発電所などの再生可能エネルギー発電事業や、電気の小売供給、バイオマス燃料の供給を行っています。
ーー貴社の事業の強みを教えてください。
山本一樹:
弊社グループの強みは需要が発生した際に都度契約するフロー型のビジネスと、長期契約で安定した収入が見込めるストック型のビジネスの両方を持っていることだと思います。弊社グループの事業でいうとエンジニアリング事業がフロー型で、エネルギーサプライ事業がストック型です。
また幅広い事業領域を持つことで多種多様な顧客のニーズに応えられるという利点もあります。弊社グループは省エネルギー系設備と再生可能エネルギー設備の両方を事業領域としており、自社発電所も所有しています。幅広い事業領域を持つことで顧客のニーズが変化しても対応していくことができます。
ーー顧客のニーズが変化すると気づいたきっかけを教えてください。
山本一樹:
エネルギー業界は外部環境の影響を受けやすいものです。例えば、弊社グループが設立した頃にはオイルショックがあり、世の中に大きな影響を与えました。その後も京都議定書での温室効果ガスの削減目標制定、電力の自由化などの動きがあり、また東日本大震災やパリ協定など、様々な出来事をとおして再生可能エネルギーが注目されるようにもなりました。
そのような変化の激しい業界で仕事をし、顧客と向き合ってきたことで外部環境や顧客のニーズを近くでキャッチできたのではないかと思います。
脱炭素社会のリーディングカンパニーを目指す
ーー将来の展望について教えてください。
山本一樹:
2030年に目指す姿として省エネ、再エネを含むエネルギーの総合ソリューションを提供する「脱酸素のリーティングカンパニー」を掲げています。今後も、企業理念である「顧客重視・顧客満足」のもと、常にお客さまの視点に立ち、お客さまに寄り添ったソリューションを提供していきたいと考えています。
ーー海外での事業展開について教えてください。
山本一樹:
インドネシアにおいて、今まで利活用されていなかった農作物残渣をバイオマス燃料として有効活用するための研究開発を進めており、事業化に向けて取り組んでいます。事業化した際は、国内外のバイオマス発電所への供給を行っていきたいと考えています。
また、現在、日本では2050年のカーボンニュートラルの実現に向けて大企業を中心に省エネに取り組んでおり、東南アジアに多く存在する日系企業の工場においても同様の取り組みが進んでいくものと考えています。弊社グループが国内で取引している顧客の工場もインドネシアやタイなどにもあり、今後はそういったところに対してもソリューションを展開していくことも考えています。
営業のエキスパートから経営企画部に異動。そして上場へ
ーー社長ご自身の入社後の経歴を教えてください。
山本一樹:
私は新卒採用の第1号として入社して同期もいませんでした。最初の3年半ぐらいは、営業・技術系先輩社員のサポート業務に加え、新卒採用やパンフレットの作成、社長の運転手まで本当にいろんな仕事をしました。そうするうちに会社の全体像が見えるようになってきて、その後は長く営業の仕事をしました。
営業は顧客の生産技術や製造など多くの部署と関わりますが、そこには重鎮のような方がいて、なかなか営業だけだと話が難しいです。技術の仕事を経験しているとコミュニケーションがとりやすいということで、施工管理や設備の点検など、現場の仕事もしました。一時期は営業のトップにもなりました。
ーーご自身のターニングポイントについて教えてください。
山本一樹:
2008年に取締役になり、その時には営業のことは何でも分かっていたのですが、取締役については「まったくわからない」という状況でした。そこでビジネススクールに通い、経営の勉強をしました。それがターニングポイントです。
ビジネススクールには老若男女、留学生などいろんな人がいて、多様性というものを実感しました。ビジネススクールの同窓会長をしているので、今でも土日はたまに顔を出して人脈作りなどをしています。
ビジネススクールを2013年に卒業したのですが、2014年に社長から新規上場の話が出て、私も経営企画室に異動になりました。上場は証券会社や銀行などの専門家を入れずに私たちだけで行う方針となったので、経営企画室のメンバーでイチから勉強しながら頑張りました。私ももう一度ビジネススクールで上場に関する授業を受けながら準備を進め、2021年に東証一部に上場しました。大変でしたが、「みんなで頑張ったからできたのだ」と思っています。
後継者育成を視野に入れた人材育成の新しい仕組みづくり
ーー貴社の人材育成について教えてください。
山本一樹:
私たちはエンジニア会社で、物を売っているわけではありません。では何で成り立っているのかというと人です。私は人材育成がとても重要だと感じています。
今は再生可能エネルギー設備や省エネルギー設備の総合提案や施工管理ができる、アシスタントマネージャークラスを強化していこうと考えています。現在アシスタントマネージャーは約90名いますが、これを2030年までに200名規模にしたいというのが目標です。
ーー後継者についてはどうお考えですか。
山本一樹:
上場承認日に前社長に呼び出された時、「社長就任の話と同時に次の後継者も考えておかなければならない」と言われました。会社が今後も成長を続けていくためには、私の次の代はもっと能力の高い人物が経営者にならないといけないと考えています。「TESSグループ」の文化を分かった人材が育つことを理想としていて、そのためにジョブローテーションによる幹部候補生の育成も考えています。
ーーそのほかに取り組まれていることはありますか。
山本一樹:
フラットでざっくばらんに話ができ、それでも仕事はしっかりとできるような組織を目指しています。現在はフリーアドレス制を導入していて、社長である私もみんなに交じって仕事をしています。そういった環境の中で意見を出し合って問題解決できるような組織を作れたらと考えています。
コミュニケーションを大事に、諦めない気持ちを持ち続ける
ーー若手へのアドバイスがあれば教えてください。
山本一樹:
まずは人と会ってコミュニケーションをとることが大事だと思います。仕事はひとりではできないこともあり、相手を説得しないといけない場面もあります。
あとは自分から手を挙げることも大事です。自分が所属しているところ以外のことでも興味を持って、「自分が役に立てるのであれば頑張ろう」という意識を持ってもらうことが大事だと思います。
ーー貴社にはどのような人物が合うと思われますか。
山本一樹:
弊社は会社として上場はしましたが、それで安定を目指すのではなく、今後もチャレンジして成長をしていきたいと考えています。
今、エネルギー業界はとても注目されていて、外資やインフラ系大手企業、商社なども参入してきています。その中ではうまくいかないこともあると思いますが、失敗しても諦めない気持ちが大事です。
創業者の言葉をまとめた資料があるのですが、そこにも「Noからスタートしない」や「迷ったら茨の道を行け」「一生懸命に勝るものはない」とか、そういったことが書かれています。そのような気持ちを持った人に来てもらいたいですね。
編集後記
顧客のニーズや時代の変化に合わせて成長し続けてきたテスホールディングス株式会社。山本社長自身も、入社当時からさまざまな仕事にチャレンジし、会社の成長に携わってきた。今後は海外進出も視野に入れ、さらなる成長を続けていくであろう同社から目が離せない。
山本一樹(やまもと・かずき)/1970年10月30日生まれ。関西大学卒業後、1993年4月にTESSグループ入社。営業及び経営企画部門の責任者を歴任。2018年4月よりテスホールディングスの専務取締役に就任。2022年9月より同社代表取締役社長に就任。TESSグループの全体を指揮。