※本ページ内の情報は2023年12月時点のものです。

近年、ゴルフ業界の市場規模は縮小傾向にあったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で感染リスクの少ない屋外スポーツとして注目が集まり、再び売り上げを伸ばしている状況だ。

1973年に上野のアメ横商店街のガード下から「二木の菓子」のゴルフ事業部として創業した株式会社二木ゴルフは、関東地方を中心にゴルフ用品のチェーン店を全国展開している。

同社創業者の跡取りである代表取締役社長の二木一成氏は、幼少期を振り返り「ゴルフ屋ではなく、祖父のやっていたお菓子屋さんを継ぐものだと思っていた」と思わぬ過去を語った。

会社を継ぐに至った経緯や、ECサイト・SNSへの新たな挑戦、そして会社として大切にしている根幹の思いを聞いた。

お菓子屋さんを継ぐと思い、過ごしてきた学生時代

ーー二木ゴルフに入社された経緯を教えてください。

二木一成:
アメリカの大学を卒業した後、24歳で二木ゴルフに入社しました。実は、僕はもともとゴルフ屋さんの道ではなくお菓子屋さんになると思って過ごしてきました。祖父が経営していた「二木の菓子」というお店で小さい頃から手伝いをしており、大学生になっても年末年始の繁忙期は、毎年アルバイトとして働いていました。「このまま菓子店を継ぐのか」と思いきや、24歳の時に父が急逝し、アメリカの大学から戻ってきてすぐ家族に「明日からゴルフ屋さんをやってくれ」と言われ、突如、ゴルフ店の店頭に立ったという経緯があります。

ーー入社されるまでに、ゴルフの経験はありましたか?

二木一成:
入社するまで、全くゴルフのことは知らない状態でした。高校生のときに父に「ゴルフをやってみないか」と言われましたが、「いつかできるようになるだろう」と思って断り、当時はバスケットボールに夢中になっていました。そのため入社して店頭に立っても「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」くらいしか言えず、悔しい思いをした記憶があります。そこからゴルフについてシューズやグローブなど、道具の基礎から学び、先輩方に厳しいながらも温かく教えていただいたことで、ゴルフが好きになっていきました。

ーーどのようないきさつで社長に就任されたのでしょうか?

二木一成:
創業者である父が亡くなった後、すぐに僕が会社を継ぐという話もありましたが、叔父が一旦社長を引き受けてくれました。そこから僕は仕入れ部門の担当役員や、業務改革担当役員などを経て、2006年には代表権を得て準備を進め、2008年に社長就任しました。社会人としてのキャリアが何もない状態でしたので、現場経験を積む機会をくれた叔父には本当に感謝しています。

使命は、先代が残してくれた組織と人材を守ること

ーー先代社長から譲り受けたものはありますか?

二木一成:
父は借金もあり、たくさんの問題も残していきましたが、何より感謝しているのは良好な組織と優秀な人材を残していってくれたことです。その人たちがしっかりと力を発揮できるような環境をつくっていくことが、社長としての役目だと思っています。

自分たちの「好き」をお客様に伝えていく

ーーゴルフ用品販売店として、他社との違いは何でしょうか?

二木一成:
「ゴルフの専門店というのれんの下に、600人のゴルフ屋さんがいる」というイメージの集団として、専門的なサービスの提供に特化してきました。お客様であるゴルファーに対して、あらゆる要求に応えられる「質の高いサービス」を提供できるよう、ピッキングやリペアなどの技術向上には特に力を入れています。

ゴルフを楽しんでいらっしゃるお客様に満足していただくためには、自分たちもゴルフを好きになり、楽しく技術を身につけて、お客様にそれをお伝えするという流れを意識して教育に励んでいます。

ーー若手の育成について、どのような工夫をされていますか?

二木一成:
僕が若手の育成に対して常々思っているのは、「多くの失敗を経験できる環境を用意して、自ら学ばせることが大事だ」ということです。僕もカタログを隅から隅まで暗記して、毎日お客様との会話を試みましたが、付け焼き刃ではミスも多く、先輩に助けられたことで自ら学んできました。
その一方で、人が主体的に仕事を行うには、「商品知識」「技術」「お客様への思い」の3つがそろって初めて可能になります。僕も入社当時は何の知識も技術もなく辛い思いをしたので、若手には同じ思いをさせないように、新入社員研修を充実させようと考えています。

これまでは1〜2週間程度の軽い研修の後、すぐに店舗に配属していましたが、店舗も忙しいため教育にまで手が回りません。レジ操作や商品知識など、最低限の武器を持たせてからお店の戦力として配属できるようにしています。

ネットリテラシーを高め、新たな境地へ

ーー今後のビジョンを教えてください。

二木一成:
営業部門における教育の体制構築を強化していきます。小売りというものに「こうしたら売れる」というメソッドはなく、個人でコツコツ経験を積み上げていくしかありません。その積み上げた経験や情報を全員に共有して、社員全体のレベルアップを図っていきます。

また、今は店舗を構えてお客様を待っていれば良いという時代ではありません。弊社のサービスや商品がお客様の目に広く触れるよう、多様なチャネルを利用する必要があります。ECサイトやSNS関連に注力し、新しいやり方での集客を考えています。

ーーECの強化についてはどうお考えでしょうか?

二木一成:
ECサイトは2006年に立ち上げていましたが、当初はそこまで注力しておらず「お店の中で通販ができる」くらいの感覚で、サイトから直接お客様に商品を送ることは考えていませんでした。現在はそれなりに売り上げも伸びてきている状況なので、次は店舗とどう融合させて活用できるかを模索しているところです。

ーーSNS活用についても詳しく教えてください。

二木一成:
店舗のアプリをつくり、定期的に情報を配信してプッシュ通知をするようにしています。アプリの更新頻度や内容は本部で統括するのではなく、各店舗の専任者に任せてしまっているので、どうしても店舗ごとに差が出てきてしまいます。
インスタグラムのアカウントも開設しているのですが、ある店舗では100日連続で更新しているにもかかわらず、開設から1度しか更新していない店舗もあります。そのため、今後はSNSの活用やネットリテラシーについても、教育として組み込むような人材育成が必要だと感じています。

会社の根幹はお客様とのコミュニケーション

ーー会社を守る上で大切にしていることはありますか?

二木一成:
SNSやECサイトでの売り上げも大切ですが、会社の根幹としてはやはり直接お客様と顔を合わせて接客することが1番重要だと考えています。お客様に良いサービスを提供して満足してもらえれば、そのお客様がまた知り合いを連れてきて、新たなつながりが増えていきます。それを体系化しようとまでは思いませんが、少しでもつながりを増やすため、僕らはお客様から常に勉強をさせてもらっています。

たとえば、接客にはクレームがつきものです。クレームが起こった際にどう対応するかで、お客様との信頼関係を築けるかどうかが決まります。接客でお客様に怒られたとしても、誠心誠意謝罪し、最後まで責任を持って修理や提案をすることで、最終的には「また来るよ」と言っていただけます。そこで言い返したり、投げ出してしまってはお客様との関係は終わりです。お客様に指摘していただいたことに感謝し、対応できるだけの知識と技術を身につけるチャンスだと捉えるべきです。

弊社は1店舗あたりの正社員の比率が高く、パート、アルバイトの方は少数に設定しています。なぜかというと、ゴルフという商材は、知識や技術、お客様との付き合いが長い経験の中で時間をかけて培われていくものなので、パートやアルバイトの短い期間での接客では、なかなか難しいのです。お客様と長く付き合うことが弊社の1番の核となっているので、今後もサイト関係の武器は持ちつつ、お客様に直接良いサービスを届けられるよう精進していく所存です。

編集後記

学生時代にゴルフをやっている人は3〜5%程度だという。同社では、社員にゴルフ自体を好きになってもらうべく練習時間を設け、ラウンドの機会を与え、金銭的援助も含めてゴルフを学ぶ経験を提供している。

「社員の“ゴルフが好き”という思いを顧客に伝えることが、サービスの始まりだ」と語る二木氏。SNSなどのサービスも、商品の紹介のみではなく、売り手の人となりが分かるようなメディアとして注力していく。二木ゴルフのさらなる躍進に期待したい。

二木一成(ふたつぎ・かずなり)/1975年東京都生まれ、米国レイクランド大学卒。1999年に株式会社二木ゴルフへ入社。店舗運営にあたり、その後は仕入部門担当役員、業務改革担当役員などを経て2008年に代表取締役社長に就任。