※本ページ内の情報は2023年12月時点のものです。

建設業界はいま、大きな変革期を迎えている。人材の高齢化が進む一方で、「3K(きつい、汚い、危険)」という言葉に象徴されるように労働環境が厳しいイメージが定着している。その結果、新たな担い手が増えにくい状況から、人手不足が深刻化している。

1976年に奈良県橿原市で創業し、地域に根付いた建築・土木工事から、平城宮跡などの文化財、さらにはロケット発射台まで、さまざまな建設実績を重ねてきた八房建設株式会社。同社も担い手不足に直面しつつも、その課題解決に挑んでいる。そこで、代表取締役社長の山辺元康氏に、現状や対応策、そして「夢」を請け負う「ドリコン」という社是に込めた思いや、建設業の魅力についてうかがった。

アメリカから帰国して飛び込んだ、建設業界で見つけた「夢」

ーーこれまでのご経歴についてお伺いします。創業者であるお父様の後を継いで経営者になるという前提が、当初からあったのでしょうか?

山辺元康:
いつかは父の後を継ぐことになるのかな、と漠然とは思っていたものの、明言されたことは一度もありませんでした。東京理科大学の理工学部に進みましたが、勉強したのは建築や土木工学ではなく経営工学です。

また、卒業後に留学したアメリカのユタ大学でも、家業の建設業とは全く関係のないコンピューターサイエンスを学びました。

アメリカで2年半ほど過ごしていたのですが、父が倒れたので急きょ帰国し、そのまま1991年に弊社に入社することになりました。

当時は、建設業について右も左も分からない状態でしたが、父の没後10年ほどは母が社長を務めていましたので、その間にいろいろと学びながら、自由に業務にあたらせてもらい、2002年に代表取締役社長に就任しました。

ーー貴社がモットーとして掲げている「ドリコン」とは?その意味と、込めた思いについて教えてください。

山辺元康:
いわゆる建設業の「ゼネコン(ゼネラル・コントラクター=総合請負者)」をもじったもので、「ドリーム・コントラクター」略して「ドリコン」、つまり、「夢を請け負う人」という意味です。私は、建設業とはお客様の「夢」を私たちに託していただき、形にする仕事だと思っています。弊社ではそうした姿勢を打ち出すことで、価格競争によらずに、他社との差別化を図ってきました。

また、経営者としていろいろと模索する中で2011年から「万葉の楽園」と名付けた薬草園を開いております。当時の建設業界は景気が悪く、多くの会社で本業だけではとてもやっていけないという苦境にありました。

弊社も、なにか他の道を見い出さなければということで、地元の同業他社と協力して、国の助成事業(国土交通省と一般財団法人建築振興基金による、建設企業の連携によるフロンティア事業)の一環として、奈良県固有の大和シャクヤクを復活させるプロジェクトに挑戦したのです。

その後、シャクヤクの花盛りの時期に地元のみなさんに見ていただいたり、憩いの場として親しんだりしていただきました。

人手不足解消へ建設業の魅力発信

ーー現在、建設業界は深刻な担い手不足に見舞われているかと思いますが、貴社ではどのように対応していますか?

山辺元康:
確かに、弊社に限らず業界全体が慢性的な担い手不足に直面しています。仕事はあっても人手が足りず、現場が回らないのです。年齢層が高めの人材でも獲得競争が厳しく、弊社も人手が減るばかりでなかなか増えません。

社員の平均年齢が50歳を超え、若手といっても30代なのですが、ベテランから若手への技術の継承ができていないことも大きな課題です。人が減っていく一方で、仕事はあり続け忙しいため、ベテランが時間をかけて若手に技術を伝え、育てていく余裕がなくなっています。

そうした状況に危機感を抱き、近年は採用強化に取り組んでいます。

以前は、ハローワークなどに募集をかければすぐに応募があったので、こちらから積極的に求人活動をすることがありませんでした。

しかし、最近では人材サービス企業と契約したり、県の採用担当課に相談に乗ってもらったり、初めて企業説明会を開催したりもしました。この取り組みの結果、2024年春には1人、20歳の方が入社する予定です。

そうやって地道に採用活動を続け、少しずつ若手を増やしていくしかないと考えています。

入社後は、先輩のもとで現場を見て学ぶことももちろん大事ですが、研修センターや地元の同業者が共同で行っている若手社員の研修への参加など、外部教育も活用して社員を大切に育てていきたいと思っています。

ーー建設業は「3K(きつい、汚い、危険)」のイメージが先行しがちで、実際の仕事内容を知る機会が少ないことも、若手採用を難しくしているのでしょうか。

山辺元康:
そうですね。建設や土木に興味を持つきっかけがなく、仮に興味を持ってくれても、地域によっては学ぶ場が限られているということが問題です。

弊社では、建築工学科、土木工学科を設けている奈良県内の学校からのインターンシップも受け入れています。建築や土木の学びの受け皿になるとともに、業界に興味を持ってもらうきっかけをつくっていかなければと考えています。

私は、2023年5月から奈良県建設業協会の会長を務めておりますが、協会の青年部会と県の共同で「奈良県建設産業PRチャンネル」というYoutubeチャンネルも始め、SNSを通じた発信にも注力しています。建設業ってこんなに面白いんだ、いいものなんだということを知ってほしいですね。

建設業というのは、自分たちがつくったものが地図に残り、市民の方々が喜んでくださる仕事です。わが子に「この建物はお父さんがつくったんだよ」と見せることもできる。それがこの仕事の1番の冥利なんです。

そうした建設業の楽しさ、良さを私たち自身はよく分かっていますが、世間一般にはなかなか知られていません。そのことを伝えられるように、もっと建設業の魅力を発信していきたいですね。

生まれ変わる建設業界

ーーそうした情報発信による担い手確保と並行して、貴社が未来に向けて取り組んでいることはありますか?

山辺元康:
営業力の強化と、デジタル人材の育成です。これまで弊社では、営業を専門で担当する者はいませんでした。現場での仕事ぶりそのものを評価していただいて、「これなら、八房建設に次の仕事も頼みたい」といわれ、1件1件受注してきました。しかし、これからはきちんとした営業体制を敷き、下請けのみならず元請けとしても、より広い方面で仕事を受注できるような体制をつくりたいと考えています。

また近年、建設業界でもDX(デジタルトランスフォーメーション)の導入が進み、デジタル人材の育成が急務になっています。直接、現場に出られる人手が限られる中で、工事書類や図面、写真管理などのデータを扱うデスクワークに特化し、現場の側面支援を行う、「建設ディレクター」という業務のあり方にも注目が集まっています。

これなら人手が足りない中でも、効率的に複数の現場を担うことができます。弊社でも現場には出ずに側面支援を担当してくれる女性を1名雇用しています。

また、専門知識を有する「高度人材」という資格を持った在留外国人や、日本の大学で学んだ留学生を対象にしたオンライン面談を実施するなど、より幅広い人材を募ろうと動いているところです。

ーー建設業界を志す方、少しでも興味がある方に向けて、メッセージをお願いします。

山辺元康:
なかなか興味を持つきっかけがないかもしれませんが、少しでも建設業に興味を持っていただけたら、ぜひ一度私たちに声をかけていただきたいと思います。建設業の本当のやりがいは、やってみて分かることが多いからです。

たとえば、弊社の場合は、一社単体で受注する仕事はそれほど大きくはないかもしれませんが、大手ゼネコンの下請けとして、正倉院の整備を含む東大寺の仕事、平城宮跡の門の造営などにも関わっています。

また、和歌山県串本にある民間初のロケット発射場の躯体構築にも携わりました。記憶、記録に残る仕事、珍しい分野の仕事にも携われるチャンスがあるという面白さを、ぜひこの業界に来て味わってほしいですね。

2024年の働き方改革関連法の適用に向けて、弊社でも就業規則を書き換えながら、新たな就業環境をつくろうとしています。かつての「3K」から、「給料がよい」「休暇が取れる」「希望が持てる」という「新3K」を目指し、まさに生まれ変わろうとしている建設業界で、ぜひチャレンジしていただきたいですね。

編集後記

アメリカでの留学生活から一転、飛び込んだ建設業界の変革期という荒波を乗り越えようと、社員や地域とともに日々挑戦を続けてきた山辺社長。穏やかながらも熱い口調で建設業の魅力を語る姿に、生まれ変わろうとしている建設業界への希望と期待を感じた。

山辺元康(やまべ・もとやす)/1965年奈良県生まれ。東京理科大学卒、1991年八房建設に入社。2002年代表取締役に就任。2023年より一般社団法人奈良県建設業協会会長、一般社団法人全国建設業協会副会長、一般社団法人奈良県安全運転管理者協会副会長に就任。