実演販売の世界で培ったコミュニケーションの力と商品開発の洞察力を武器に、業界で一線を画す存在となった株式会社コパ・コーポレーション。
しかし、コロナショックによる「三密」の回避やソーシャルディスタンス保持といった措置が、直接販売を封じる逆風になった。
ライブコマースという新たな分野で再びリベンジを果たし、未来に向かって進む決意を固めた吉村泰助社長の今後の展望に迫った。
実演販売士としてデビュー
ーー会社設立の経緯をお聞かせください。
吉村泰助:
実演販売業界は基本的に歩合制度で、自分の収入は自分で稼がなければならない。つまり、一匹狼のような存在です。取り扱い商品のメーカー専属として「1つ売れたらいくら」といった歩合制から始まりました。
その後、26歳で独立し、30歳で当時有限会社だったコパ・コーポレーションを設立しました。
売り上げが増えたこともあって、税金対策の意味合いもありましたが第3期になって赤字に転落してしまいました。当時、会社は資本金が300万円あれば有限会社になれたのですが、その資本金が尽きてしまうと社員に給与を支払えなくなります。
正直なところ、そこで初めて「社員のために頑張ろう」と思うようになりました。他者のために努力しようと思ったら、エネルギーが湧いてきたのです。
ーー実演販売をはじめたきっかけは何だったのでしょうか?
吉村泰助:
昔、秋葉原駅の電気街口改札の近くに「実演販売の甲子園」として知られていたアキハバラデパートというところがありました。店頭に5つほどのブースが出展し、お店の中身が1週間から2週間ごとに入れ替わります。そこでレギュラー出展を行っているメーカーに、國學院大学の演劇研究会の先輩がいました。
その先輩は、業界用語で「テコ」といいますが、実演販売士の横で会計や在庫補充、店番などをするアルバイトをしていました。演劇のサークル内で続いている伝統的なアルバイトで、サークルに所属していた私も呼ばれました。
先輩がお昼に食事に行くと、その間はブースは留守になるので、私も少し喋らせてもらいまして、その時に「まるで路上演劇のようだな」と興味を持つようになりました。
実演販売は、要は辻説法です。デパートの店頭といっても、実際には屋根はありません。屋根がないということは、道端なんです。雨が降ったらシートをかぶせるだけです。夏には体感温度が50度に達することもあり、冬にはビル風が吹きます。それでも、私は先輩に実演販売のプロとしてやらせてもらうことを相談し、大学4年生の頃に浅草の松屋さんでデビューしました。
面白いのは、実演販売の休憩中、店番の人がいない状況で商品をそのままにして食事に行っても全く問題ないことです。通常、これは「万引きされるかもしれない」という心配が浮かぶと思いますが、実際には誰も盗みません。
その商品の魅力を誰かが語らない限り、商品の価値は伝わらないからです。ひとたび食事から戻って再びしゃべりだすと、たちまち人が押し寄せみな競って買っていきます。やはり実演販売で商品が売れると、嬉しくてやめられなくなります。
Z世代にとって実演販売士は神秘的な存在
ーー貴社の強みはどんなところでしょうか
吉村泰助:
ターゲットは、ブースの前を歩いているだけの通行人です。その通行人をお客様に変える能力を実演販売士は持っています。商品を気に入って購入してもらうことを、わずか10分から15分の中で実現するコンテンツ力があります。これは他の企業にはないものだと思います。
Z世代などから見ると、実演販売は神秘的に映るようです。ネットで手軽に購入できる時代において、路上で喋ってモノを売る人が目新しく映るのでしょう。
実演販売士は1日20万円売り上げて一人前 「実演アンカーマン」とは?
ーー商品開発も手がけていますが、実演販売をしているとマーケティングも同時に行えてしまうのでしょうか。
吉村泰助:
私は「他者の他者性」という概念を掲げていますが、実演販売を行っていると、「他者の他者性」を最も感じることができるようになります。これほど貴重なマーケティング情報を入手できる場所は他にはありませんので、それに基づいて商品開発を行っています。実演販売を知っているからこそ、売れる商品のアイデアが浮かびます。
弊社では実演販売士の認定制度があります。育成講座に応募して弊社の販売ノウハウを学び、その上で1日に20万円以上の売上を達成しなければ実演販売士と認定されません。さらに、商標を取得している「実演アンカーマン」という概念もあります。
これは商品開発とプランニングのスキルを持つ実演販売士を指します。歌手にたとえれば、歌が上手いだけでなく、独自の曲を制作できるシンガーソングライターのような存在です。
実演販売士は商品が最初に存在するのではなく、「売れる言葉」が存在します。その売れる言葉に基づいて商品を製作するという発想です。言葉が先行し、次に商品が存在するのです。このコンセプトは、商品が物語であることを意味しています。
物理的距離は、心理的距離に比例する
ーー新たにライブコマースを始められるとのことですが、コロナショックの
対応策なのでしょうか。
吉村泰助:
コロナショックの際には、大きな痛手を負いました。実演販売の会社にとって三密、ソーシャルディスタンスは非常に厳しい制限です。店頭で「密になってください」という商売をしていたので、痛手は非常に大きかったです。
物理的距離というのは心理的距離に比例します。言葉は「密」でないと伝わりません。
コロナ禍以降、実演販売をDXにどう適応させるかが課題で、その解決のために今回試みたのがライブコマースです。実は約10年前、私たちは将来はライブコマースが流行るだろうと思い、テレビではなくインターネットを通じた実演販売を始めました。
しかし、その当時は時期尚早だったようです。やめた後になって、YouTubeやTikTokなどの動画が段々と一般的になっていきました。今回、ライブコマースの環境が整ってきたので、再度挑戦し始めました。インターネットの強みである「双方向性」を活かせば、テレビ通販とは違うものができると思っています。
売上1兆円達成の足がかりはライブコマース
ーー今後の目標をお聞かせください。
吉村泰助:
ダイエーの創業者である中内㓛さんは「売上高が全てを癒す」と仰っていましたが、やはり売上が増えると皆が楽しい気分になります。売れることによって癒されるのです。
現在はまだコロナが存在し、私たちの会社は売上を渇望しています。私の将来のビジョンとして、売上1兆円を掲げていますが、その足がかりをつくる1つがライブコマースだと思っています。
「売れる」ということは、最終的にはコミュニケーションが成功していることを意味します。自分のメッセージが効果的に伝わることは楽しいです。たとえば「愛してます」という言葉1つ取っても、それを伝えるのは簡単ではありません。ただ言葉を発するだけでなく、聞いた人が愛情を感じなければいけません。そのためには、熱を伝えるのに適した言葉を磨く必要があります。
これは、「言霊」とも呼ばれ、言葉が先行する考え方です。「始めに言葉ありき」ですから、最初にコンテンツが存在するのです。コンテンツは物語であると言えます。
編集後記
「実演販売は、喋り倒しそうなイメージがありませんか?しかし、実は実演販売士は意外とシャイで、論理的に話します」。その言葉に違わず、吉村社長ご自身も、こちらの質問に対して真摯に向き合い、的確な答えを探しだしてくれる。ときに、その柔和な笑顔と楽しいエピソードで場を和ませる。コミュニケーションの達人は、店頭対面だけでなく、ネット配信でもその力を存分に発揮するに違いない。
吉村泰助(よしむら・たいすけ)/1968年新潟県生まれ。國學院大學文学部日本文学科卒。在学中より日本シール株式会社の宣伝販売員として所属。1996年吉村泰助事務所設立。1998年有限会社コパ・コーポレーション設立、代表取締役に就任。2006年株式会社に組織変更。2020年東京証券取引所マザーズ市場(現東証グロース市場)に上場する。