※本ページ内の情報は2024年10月時点のものです。

目指していた夢への道が閉ざされ、生きる活力を失ってしまった経験はないだろうか?工業系の総合商社である鈴興株式会社の代表取締役、鈴木博彦氏は、病気によりプロサッカー選手の夢を諦めたものの、商社社長として再起し、今ではリーダーズアワードに名を連ねる。

新たな道で鈴木社長が目指すものは何か。会社のビジョンや道を歩むための取り組みなどをうかがった。

閉ざされたプロサッカー選手への道。それでも乗り越え新たな道を歩む

ーー鈴木社長の経歴をお聞かせください。

鈴木博彦:
弊社は祖父が創業した会社ですが、私はもともとプロサッカー選手を目指しており、別の道を歩んでいました。プロになるために海外留学も経験し、中学校卒業後は単身南米ブラジルへ渡り、プロユースチームに所属。毎日朝から晩までサッカー技術の向上に励む生活を送っていました。

しかしあるとき、私の身にサッカー選手生命に関わる出来事が起こります。毎日のハードな練習で右目に網膜剥離を発症し、6度の手術を受けたものの失明してしまったのです。これにより私はプロ契約を断念し、1年以上にわたる闘病生活を送ることになります。

闘病生活が終わってもプロに戻ることは難しく、私は自らのキャリアに苦悩しました。そんなとき、父から弊社への入社を持ち掛けられ、そこから私の第2のキャリアが始まりました。

入社後はまず営業職として働き、30歳のときに専務に就任しました。さらに5年後の2016年には父の引退をきっかけに社長に就任し、現在に至ります。

自動車ホイールメーカーのルーツと多彩な商品で顧客に最適な提案を届ける

ーー貴社の事業内容を教えてください。

鈴木博彦:
工業系の総合商社として、自動車業界や化学メーカー、製油会社などを対象にした卸売業を行っています。取り扱っている商材は自動車用のアルミホイールを中心に、工場向け資材や燃料、金属材料、工業薬品などさまざまで、商材の数は1,000種類以上にのぼります。

また、販売だけでなく各種工事や保守点検業務なども行っており、配送から提案まで一貫した提供が可能です。

弊社は国産初のアルミホイール製造を完成させたエンケイ株式会社からスピンオフした会社なので、エンケイの商品を販売するECサイト運営や、アルミホイールや車用オプションパーツの物流業務や倉庫業務も行っています。

ーー貴社独自の強みは何ですか?

鈴木博彦:
人間力の高さと顧客とのネットワークの2点だと思います。個々の人間力を高い水準にキープすることを意識し、顧客との信頼関係を良好に保ち、ビジネスを健全に保つことを念頭に置いています。

弊社は、多くの企業から商材や仕入先を紹介してもらい、今日まで発展してきました。この強みは絶対に守らねばなりません。そのために、祖父の代から伝わる「人間尊重」「相互信頼」「共存共栄」という3つの社是を日々意識し、人間力の向上に努めています。

お互いの人間尊重はコミュニケーションの基礎であり、これが成り立つことで相互信頼の第一歩が踏み出せると思っています。そして、これらが満たされることでやっと共存共栄のスタートラインに立つことができるのです。

サプライチェーンの中間に立つ者として、顧客との信頼関係を強固にすることや、真面目に業務に取り組むことは義務です。信頼関係をベースに良い仕入・良い商談をまとめるのはもちろん、関係会社の業務が円滑に進むことも意識しないといけません。

これらの根本を考えてみると、どれも結局は人間力に戻ってきます。会社と社員の明るい未来を描くため、今後も社員一人ひとりを自慢できる会社であり続けたいです。

時代の変化を味方に付け、効率的な業務体系を目指す

ーー仕事の環境改善に向けた、具体的な取り組みを教えてください。

鈴木博彦:
デジタルを活用した業務効率化に取り組んでいます。すでにPC上で意見交換ができる環境づくりや、ペーパーレスの推進、社内システムの構築などを実施し、会議の減少や事務作業の削減などに成功しました。

削減した会議時間は、新たな取り組みである社長抜きの営業ミーティングに使っています。どうしても社長同席だと話しにくい話題はあるものです。社員だけで業務上の気付きをざっくばらんに話してもらい、議論の活発化を狙っています。

また、時代に合わせた意識改革を進行中です。かつての精神論的な体質から合理性と効率を重視した体質へと変えていき、理論的な組織への変革を目指しています。

ーー今後、特に注力すべきだと感じているテーマは何ですか?

鈴木博彦:
新規取引先の開拓や取引先の深耕は、常に取り組むべき課題だと感じています。

社会から「安定」という言葉が失われつつある昨今、仕入と販売のバランスが以前よりとりにくくなってきていると感じています。そうなると、離れていく顧客も出てきますし、弊社も仕入れ先の模索が必要になるでしょう。

だからこそ、仕入先と顧客、そして弊社が「三方よし」となる選択肢を探し続けねばなりません。大手企業だけにこだわらず、優れた中小企業にも積極的に声をかけていき、顧客に最適な提案を続けていきたいです。

顧客にとって常に便利な存在であり続けるために

ーーこの記事の読者にメッセージをお願いします。

鈴木博彦:
弊社には創業50年以上の歴史があります。これもすべて国内の顧客に支えられてきたからこそです。今後も75年、100年と国内で確かな価値を届けられるように、引き続き精進してまいります。

そのため、現時点では事業拡大や海外展開は予定していません。しかし、時代に合わせた変化は続けていきます。事業の基礎はそのままに、新たな商材やサービスを積極的にとり入れ、いつの時代も顧客にとって必要な存在でありたいですね。

編集後記

サッカー選手と商社の社長。鈴木社長の目的地が違えど道を究めんとする姿は、私たちに努力する大切さを教えてくれた。大切なのは、与えられた環境で成せることを考え抜く姿勢ではないだろうか。最善を追い求める鈴木社長がどこまで進み続けるのか、その歩みに今後も注目したい。

鈴木博彦/1981年3月20日生まれ、静岡県浜松市出身。中学校を卒業後、南米ブラジルへプロサッカー選手を目指し単身渡米。労働ビザ取得、プロ契約を目指す最中、右目に網膜剥離を発症。帰国後、6度の手術に及ぶが右目を失明。プロ契約を断念。2000年に父親の薦めで祖父の代から続く、鈴興株式会社へ入社。2016年に代表取締役に就任。