※本ページ内の情報は2024年10月時点のものです。

東海共立鋼業株式会社は、1950年から愛知県で鉄製品の製造・販売を手がけており、特にレールの販売においては県内トップクラスの実績を誇る鉄鋼会社だ。同社は「鉄」を中心に据えつつ、幅広い分野で活躍している。今回は、3代目代表取締役である酒井信昭氏に、同社がどのような事業をどのような理念のもとで展開しているのか、話をうかがった。

業務の引継ぎなしでの社長就任

ーー社長に就任されるまで、どのような道のりを歩んでこられたのですか?

酒井信昭:
私は入社してから30年近く、ずっと営業に携わってきました。鋼材の新規顧客開拓からスタートし、その過程で顧客が製作されている製品を見て、弊社でも製造すべきだと提案するようになりました。そして、顧客の要望に応じて工場を新設することを先代社長に進言したところ、快く受け入れていただきました。そして、私の提案した異なる機能を持つ3つの工場が建設されたのです。

その後社長に就任することになりましたが、それは先代社長が病気で入院した時期で、業務の引継ぎや心の準備をする時間もありませんでした。社内では社員に「これからは私が会社を率いていくので安心してほしい」とだけ伝えました。

ーー突然の社長就任、戸惑いや不安もあったのではないでしょうか?

酒井信昭:
社長になった当初はあまり実感が湧かず、それまでも一定の決裁権はあったため大丈夫だろうと楽観視していました。しかし、時間が経つにつれ、全ての決裁権を持つ責任の重さを感じるようになりました。

また、次にその役割を担う人材を育てる必要があると強く感じましたが、適任者がまだ育っていないことに気付いて、焦りを感じました。そこで、組織づくりの必要性を痛感し、まずは古いままだった就業規則や考課制度の改善から取り組みました。

先代社長から引き継いだ分散化の理念

ーー貴社が取り組んでいる事業についてお聞かせください。

酒井信昭:
弊社は3つの工場で鉄を使った部材などを製造し、販売しています。主力製品は大きく3つの部門に分かれており、創業以来の「鋼材販売部門」、鉄道橋梁の補修などを手掛ける「インフラ部門」、そして太陽光発電システム用支持架台を担当する「エネルギー部門」があります。

特に、自動倉庫で利用されるクレーンレールの販売量は愛知県でもトップクラスであり、主力メーカー各社に納品しています。商品のニッチさゆえに全国へ営業活動を展開しており、定期的な取替の需要も見込まれています。

ーー鋼材を中心に扱いながら、太陽光や橋梁の分野にも進出された背景には、どのような考えがあったのですか?

酒井信昭:
太陽光発電に初めて関わったのは、まだ広く普及する前の2000年前後で、取引先の熱意ある担当者が強く勧めてきたのがきっかけです。その方は当時の最先端技術を持つ大手電機メーカーとつながりを持っており、2010年ごろには部材だけでなく、架台全体の製作を提案されました。

そこで、アルミ素材が主流だった架台を鉄で製作する開発のお手伝いをしましたが、その数年後に政府が住宅用太陽光発電の拡大を推進したときには、すでに製品が完成していたため、一気に事業を拡大することができました。

鉄道橋梁の補修事業に参入したのは、メンテナンスは永続的な需要が見込める市場だと見込んだからです。ただ、この分野は鉄道が運行する中での作業が必要で、作業現場に入るための教育に最低でも3年はかかるため、その点が課題となっています。

ーー会社を運営していく中で、大切にされている理念を教えてください。

酒井信昭:
先代社長が病床で会話できた約3か月の間、月に1度1時間ほど面会して、経営理念や人生論、社長としての心得を教えてもらいました。これらはメモや録音で記録し、何度も見返して経営に役立てています。その中で最も基本となる考え方は「分散化」です。

これは現在でも弊社の運営スタイルの核となっています。将来、どのような時代が来るかわからないため、仕入れ先や販売先だけでなく、製品の種類も特化せず、分散させることが重要だと考えています。

理想は、素材すら限定せずに新しい産業にも広げることですが、現実的には鉄が中心であり、その中でさまざまな鉄の活用方法で分散化を図っています。工場の新設や太陽光発電、橋梁の事業参入も、分散化の観点から行ったものです。

流行に流されず、時代に合わせながらも継続して同じものを供給できることは、分散化の一つのメリットでしょう。分散化を実現・維持するためには、人とのつながりが不可欠であり、常に社員にもその大切さを伝えています。

「人にお金をかけたい」じっくり伸びる企業へ

ーー人材の採用や育成について、どのようなお考えをお持ちですか?

酒井信昭:
全国に広がる鉄道橋梁や自動倉庫の数に対応するには、現在の約70人の社員では圧倒的に人手が足りません。500か所の橋梁を修繕するには約10年かかってしまいます。メンテナンス業務も増加している中で、もっと多くの人材を採用し、チームを増やして受注可能な業務量を拡大していきたいと考えています。

ただし、業務の性質上、品質と安全を確保するためにも、人材の育成には時間がかかりますし、その時間は非常に重要です。そのため、大幅な採用は難しいのが現状です。業務のスピードと人材育成の速度にギャップがあり、ジレンマを感じることもあります。しかし、夜勤の後は必ず休養日を設けるなど、環境整備や効率化を図ることで、定着率の向上を目指しています。

ーー会社としてのアピールポイントはどのような点ですか?

酒井信昭:
弊社は、社長との距離が近いことが特長です。人事考課制度の一環として、半年に一度、全社員と個別面談を行い、業務やキャリアについて話し合っています。また、特に営業に関しては、売り上げ至上主義をとっていません。

私も営業出身ですが、研究心が最終的には成果につながると考えており、真摯な心を持つ社員には、自然と周囲の人が付いてきます。その結果、昇進も皆が納得するタイミングで行われます。飛び抜けた才能よりも、真面目で実直な人柄の良い人が成功する土壌が、弊社にはあると感じています。

編集後記

先代社長からの経営理念に世代交代がスムーズに進んだのは、酒井社長が「真面目で実直な人柄」であるからこそ成し遂げられたことだと、その話し方や言葉の選び方から感じられた。東海共立鋼業株式会社は、膨大な日本のインフラを支える背景の中で、今後もその真面目で実直な仕事を通じて、目立たないところから人々の生活と産業を支え続けていくであろう。

酒井信昭/1961年生まれ、愛知県出身。1980年、愛知県立東山工業高校を卒業後、1981年に東海共立鋼業株式会社へ入社。約30年営業の最前線で活動し、2009年取締役営業部長、2014年取締役常務を経て、2016年に代表取締役社長に就任。