新和重機株式会社(1963年創業、東京都豊島区)は、大型重機を使って主に太陽光発電所や高速道路などの造成工事を手がける建設会社。
自然を切り開く工事を請け負いながら、「表土ブロック移植工法」による森林移植といった環境に配慮した取り組みも行うユニークな一社だ。
持続可能な社会の実現を目指して自然との共生を求める動きが活発化しているが、同社の場合は「森のお引越し」という絶滅危惧種を守る施工に力を入れるほど徹底している。
かじ取りを担う代表取締役社長の新垣彰一氏に、プロフィールや経営方針について話を聞いた。
予期しないハプニングから家業の建設業に回帰
ーー社長に就任するまでのご経験や経緯をお聞かせください。
新垣彰一:
大学ではIT関連の学部に所属し、大学卒業の1年前に東芝系列の会社でプログラムの検査工程のアルバイトを始めたんです。
新しいPCの開発のための部署に所属して働いているうちに、「ここが悪いから動きが遅い」と原因が発見できるぐらい実力がついていました。
そうするうちに上司から「君はもう大学院は行かずに大学を出たらうちに入りなさい」と言われて、入社を決意しました。
法務局やJRのシステムをはじめ、大きなプロジェクトにもずいぶん参加しましたね。もうその道を進むことに何の疑いもなかったんです。
ところが3年ぐらい経ったころ、家業の建設業で働いていた身内が体を壊してしまったため、2年間限定で手伝うことになりました。
当時は「2年ぐらいのブランクなら元に戻っても大丈夫だろう」とも思っていました。
しかし、その2年の間に建設業界は様変わりし、様々な問題を抱えることになって、私も現場から離れられずそのまま働くことになりました。
そのうち現場監督を任されるようになりました。子供のころから機械好きだった性分もあり、気付けば仕事が楽しく、やりがいが強くなっていたので、今から20年ほど前に父とバトンタッチして会社を仕切ることになりました。
「表土ブロック移植工法」により環境保護にも貢献
ーー貴社の差別化ポイントはどんなところでしょうか?
新垣彰一:
できるだけ安価で仕事を請け負うためにも、原価を下げる努力をしてきました。
リースやレンタルをせずにすべて自社機械で施工するので、原価を大幅に圧縮できています。1台5000万円の重機は、1日のリース料が10万円ほどかかります。現場で20台同時に使うという時も多く、リース料が非常に大きいので、自社保有してメンテナンスをしっかりすることでコストを抑えられています。
手前みそかもしれませんが、これを実現できるのは社員が優秀だからです。機械を大事にして無駄な動きがないから壊さずに使うことができる。いかに効率よく動かすかが勝負ですからね。
以前はアウトソーシングもしていましたが、技量の問題から故障や事故が増え、品質を落とすことになるので、現在はあまりしていません。
ーー他社にない独自の取り組みがあれば教えてください。
新垣彰一:
土地の開発は森林や植物を減らすことが避けられない仕事ですが、逆に自然環境を意識した施工を30年前から西武造園さんとともに行っています。
具体的には「表土ブロック移植工法」といって、自然環境の保全や復活、創出のために緑を移転する工事を手がけています。
かつて横浜スタジアムをつくった時は、そこにいる固有種の虫を滅ぼさないために環境をそのまま引っ越しさせました。他の道路建設の際にも、絶滅危惧種の植物を辺りの微生物ごとまるまる移植を行った実例があります。
これからも開発で緑を減らすばかりではなく、樹木移転や失われる森林の代償措置のような方策で、自然環境の保全と循環型社会の構築に貢献していきたいと思います。
機械好きには絶好の舞台がそろう職場
ーー働く環境や人事面での社内方針などについてお聞かせください。
新垣彰一:
弊社で活躍していただくための第一条件は、「機械が好きであること」です。好きであれば大事にするし、機械がどれだけの能力を持っていて、どうすれば引き出せるかを自分で研究しますからね。
自発的に動くように業務はある程度任せています。頑張ってうまくできた人にはいい機械を専用機として渡すので、ますますやる気が出ます。社員同士で切磋琢磨して競争して上手になっている感じですね。
そのためにも給料は年功序列ではなく、頑張りがそのまま給与に反映される方式をとっています。
ーー求人について、採用したい人物像はありますか?
新垣彰一:
真面目で熱意のある方に来てほしいですね。
弊社は機械が好きな人にとっては、刺激に満ちた職場だと考えています。たとえば子供のころにブルドーザーのミニカーを見て憧れて、大人になってもそれを操る仕事をしたいと思える方ならうってつけです。
個別に面談をして、労働環境の改善には敏感に対応しています。私自身が安く働いてきたので、賃金を底上げしたい気持ちも強く持っています。
若い人を育てて仕事のレベルを上げて、高い報酬で還元できるような体制づくりに努めていきます。
編集後記
会社を引き継いだ当時に数億円の借金を抱えていたため、返済するために必死で働いたという新垣社長。「人を大切にして裏切らなければ仕事は入ってくるし、いい仕事をすれば自然と利益もついてくる」とコメントを残している。
仕事を通じて絆をつくる大切さを語る姿から、経営者としての高い道徳観がひしひしと感じられた。
新垣彰一(あらかき・しょういち)/大学在学中にIT系企業でプログラム検査のアルバイトをし、そのまま中退し就職。その約3年後に新和重機株式会社に入社。2003年ごろ、代表取締役社長に就任。