※本ページ内の情報は2024年1月時点のものです。

2000年から、現在までカレーブームが続いている。スパイスを使った本格的なカレーを作れるキットが販売されたり、カレー専門店が次々と増えたり、各地でカレーフェスティバルやEXPOなど、カレーにまつわるイベントも登場し、賑わいを見せてきた。

しかし、2018年から専門店の減少に拍車がかかり、コロナ禍がカレー業界に打撃を与えた。2022年には店舗数が10%減少。多くのカレー店は業績を大きく落としてしまった。

そんな中、3年連続の2桁増収となり、躍進を続けているカレー製造会社がある。株式会社キャニオンスパイスだ。レトルトカレーのOEMを主業とし、多彩なラインアップのほか、子どものためのレトルトシリーズが人気だ。

「未来を担う子どもに安心・安全な食を届けたい」と語る株式会社キャニオンスパイス代表取締役の辻田誉氏。その経営ポリシーを聞いた。

子どもの頃の経験が人気商品を作るきっかけに

ーー会社が大きくなったきっかけは?

辻田誉:
最初は自分の好きなものを作っていましたね。でも、それだと全然売れない。やっぱり消費者の方が望むものを作らないといけないということに気づいて、そこからものづくりをしようと。そして、その時に考えたのが、体が弱くて、アトピーだった自分の体験でした。運動や生活習慣以外にも、食習慣が大事だということです。

ですが、街の商品棚を見回してみたら、子ども用の食品は結構手抜きな商品が多い印象でした。大人だけでなく、子供の食事も重要であるということを伝えなければならないと感じ、それが安全な原料を使って安心して子供に提供できるものを作るきっかけになりました。

しかし、良い商品は価格が高くなることから、なんとか購入につなげようと自分でスーパーなどのイベントに参加しながら、直接お客さんに商品の魅力を訴えかけました。地域によって興味を持ってくれる方もいらっしゃったり、高すぎて購入まで至らなかったり、バラつきがありました。

しかし、そのうちにSNSが発達しはじめて、読者モデルの方などが自分のお子さんと一緒に商品を紹介してくれることが増えました。これがきっかけとなり商品が売れ始めたのです。これには僕もびっくりしました。

ーー今はいろんな商品を展開していますが、その経緯は?

辻田誉:
当時売っていたのは子どもに向けたカレー、1種類だったのですが、実はこのルウは未完成で、大体7、8割の完成度です。つまり、残りの2、3割はお母さんが具材を入れたり、大手のルウを混ぜたりします。手を加えて、愛情を込めて作りますよね。だからルウを作っていこうと決めたんです。 それが売れ始めたら、お客様からリクエストがかかるのです。こういうレトルトを作ってくださいとか、クリームシチュー作って欲しいとか。そういったリクエストをいただけることはとてもありがたいことだなと感じています。

まあ、1回失敗してみよう

ーー経営していく上で、心がけていることは?

辻田誉:
僕は他のメーカーがやらない取り組みをしていきたいと考えています。大手さんの真似をしても勝ち目はないので、逆に大手さんにないものを作りたい。そこで、良い原料を集めたところ、価格が高くなってしまいました。みんな「うーん…」ってなってましたけど、まあ1回出してみよう、失敗してもいい、と思っています。

私のポリシーは、基本的にお客様からのリクエストを断らないことです。もし失敗してもやり直せばよいのです。まずは挑戦することから始めなければ、何も始まらないのです。断らないから、どんどん色んな仕事を受けちゃうんです。

ただ、時折大変な課題をいただくこともあります。例えば、「たい焼きを入れてくれ」とか。たい焼き入れたら、だいたいどうなるか想像できるじゃないですか。しかし、僕は否定することをしません。1回たい焼きをカレーに入れてみて「たい焼きがカレーを吸いますよ」って見せる。すると、すごく感謝してくれる。他では断られちゃうのに、「わざわざやってくださった」って。そしたら、ここの会社面白いやって、紹介してくださるんですよ。「この会社さんはすごく真摯に受け止めて挑戦してくれるから」って言って、別の会社さんを紹介してくれる。で、それがうまく行ったりして。

子どものための商品だから、未来の子供のために作りたい

ーー海外への展望はありますか?

辻田誉:
全ての人が生活のため、またはお金を稼ぐために働くのは当然のことです。僕もそう思ってたんですけど、改めて考えてみると、仕事をするのはやっぱり社会貢献だったり、助け合いのためだと思うんですよね。

ですので、世界の恵まれない子供たちに売上の一部を寄付したいと考えています。カレーが売れれば、その売上が今度は世界の恵まれない子供たちのためになるようにしたいと思います。できればこれをどんどん広げていきたい。売れたら子供も助かるし、喜んでもらえるし、 子供のための商品なので、未来の子供のためにという視野でやっていきたい。

ワクワクできる仕事を。そうすればお客様もワクワクする。

ーー会社を綺麗にされている理由は?

辻田誉:
僕も若い頃は現場でカレーを作っていました。毎朝会社に行きましたが、そこはまさに工場的な風景で、グレーな暗い雰囲気でした。だからまた次の朝行って、パッと見上げて「ああ、また1日仕事か」と思ってしまいます。ですが、もしその場所が格好良かったり、綺麗な「よし!」と思える場所ならどうでしょう。僕はそれが重要なことだと思い、工場らしくない外観のほうがいいと考えました。見るからに食品工場というよりは「え?アパレル関連の会社?」という風に見せることにしました。加えてストーリーも作り、例えばここからは海が見え、僕はアメリカの雰囲気が好きなので「ここはアメリカの西海岸だ」と想像するようにしています。そんな風に楽しみを、ワクワクを日常で感じなければいけません。そうすれば、お客様にも同じようにワクワクを感じていただけると考えています。

ーー今の課題は?

辻田誉:
僕はレーサー、特にフェラーリドライバーになりたいと思っていました。だから、フェラーリをいつか購入するという気持ちで仕事に一生懸命に取り組みました。そして「もし利益が出たら、いい車に乗れる!」という意気込みで努力し続け、自分自身の成長と知識を得ることができました。

しかし、今の若い世代に「夢を持つことの大切さ」を伝えようとしても、なかなか理解されないことが多いです。「何か格好いい服をほしいと思ったりしないの?」と聞いても「欲しいんですけど…」というだけでそれ以上の具体的な夢が出てきません。僕自身も今彼らにどうやって夢を与えてあげればいいのかを模索しているところです。ただ、プライベートが充実することはとても大切だと考えているので、その部分の支援を積極的にしたいと考えています。

編集後記

お肉屋さんを相手に塩コショウを売る香辛料専門店だった父の会社を継いだ辻田氏。自身の幼少期の体験を踏まえ、子どもに安心安全なカレールウを開発した。今や子ども用のカレールウやレトルト食品を提供する唯一無二の食品ブランドとなっている。

一方で、辻田氏は子どもに安全な食を届けるだけでなく、貧困などで苦しむ子どもへ売上の一部を寄付することで、より良い未来を切り開くことが「海外への展望」と語る。

夢を持ち、それを原動力に生きることの大切さを語る辻田氏は、これからも失敗を恐れず、新しい挑戦を続けながら、より良い未来を作るために奔走していくのだろう。

辻田誉(つじた・ほまれ)/1975年大阪府生まれ。高校卒業後に仕事をしていた花屋さんで、成果を上げても他の同期と報酬が同じことに違和感を感じ、自分自身で事業を始めることに。父親が経営していた香辛料の会社を譲り受け、1999年にカレー製造会社として新たに株式会社キャニオンスパイスを設立した。