2006年に設立された「株式会社BlueMeme(ブルーミーム)」は、日本で初めてローコード開発基盤「OutSystemsⓇ」を導入し、以来、ローコード技術とアジャイル手法を活用した大規模な業務システムの開発に特化したDX事業を展開するIT企業だ。ローコード×アジャイル市場において国内最大級のサービス実績を誇り、その提供数は3,600件を超える。それらの実績を基に構築された独自の開発ノウハウを活用することで、現在は「ローコード技術とアジャイル手法を用いたシステム開発の内製化」を主軸としたサービス展開を行っている。
今回はBlueMeme代表取締役社長の松岡真功氏に、ITとの出会いやBlueMemeの今後の展開についてうかがった。
社長のキャリアジャーニー「85年、10歳の頃にパソコンに出会う」
ーー社長の生い立ちをお聞かせください。
松岡 真功:
私は1975年に熊本県菊池市の温泉街で生まれました。母親は美容師、父親は公務員という家庭で、ITとは直接的に結びつかない環境でした。ITとの出会いは私が10歳の頃です。ある日突然、父親がパソコンを購入し、それが自宅の子供部屋に設置されたのです。すぐにカタログでそのパソコンの値段を調べてみました。まず驚いたのは、パソコンというものがファミコンよりも数十倍高いということ。小学生の私は「こいつはファミコンより相当すごいことができるはずだ」と勝手に思い込み、期待に胸を膨らませました。
でも、ファミコンを圧倒的に凌駕するようなクオリティのゲームはパソコンにはまだなかったのです。もちろん似たような内容のゲームはあったのですが、何十倍もスゴイものはなかった。ファミコンの数十倍も高価なパソコンが、ファミコンに圧倒的に勝てないことに当時の私は納得がいかなくて、それなら自分で何かすごいものを作ってみようと思いました。それがプログラミングを始めたきっかけです。
そんなときに、地元の本屋で「こんにちはマイコン」という子供向けのプログラミングを学習するためのマンガに出会いました。この学習マンガは1982年に発売されたものですが、現在は電子版で再販されているので、ぜひ読んで頂きたいです。驚くことに、ここに描かれている未来予想図はいまの我々の世界そのものなのです。炊飯や洗濯、掃除が自動化されることや、会社と自宅のコンピューターがつながって自宅で仕事ができること等、いまでは当たり前のことが40年前のマンガに描かれているのです。ワクワクしましたし、よりいっそうITへの興味が深まった一因です。私以外にも、IT業界に身を置く方の中には「この学習マンガを読んでITの道に進んだ」という人も少なくないと思います。
ーーその時代にプログラミングをやっている人は周りにいましたか?
松岡 真功:
祖母の知り合いの美容師の自宅に、たまたま遊びに行った時に、自宅にあるものと同じようなパソコンがあったのです。そのパソコンの横に、マシン語が印字された大量の用紙がドサっと置いてあり、思わず「これは何?」と聞いたのを覚えています。「これをパソコンに入力するとゲームとかいろいろ作れるのだよ」と言われ、僕の知っているプログラミングと違うぞ、これはなんなんだ?と混乱しました。
当時はプログラミング専門の月刊誌「マイコンBASICマガジン」通称「ベーマガ」を、パソコンを持っている人の多くが購読していて、かく言う私も愛読者でした。パソコンを使うためにプログラミングを嗜む時代でした。中学生の私はBASIC以外の言語を見たことがなかったため、ほぼ記号の羅列であるマシン語をみて衝撃を受けました。祖母の知り合いの家でマシン語を知ったことで、「BASICの次にやるのはマシン語だ!よし、まずはBASICを完璧にマスターするぞ」と決意しました。それからベーマガに記載されているプログラミングの見本を写経のように入力していたら、いつのまにか自力でプログラミングができるようになっていました。
高校生になり中古で自分のパソコンを手に入れてからは、音楽を打ち込みで作ったり、CGを作ってみたり、パソコン通信で知らない人とチャットをしてみたりと、プログラミング以外にもいろんなことをやってみて、コンピューターはこの世界を確実に変えていくものだと確信しました。
文化祭でマッチングアプリをリリース
ーーその頃に開発したシステムで印象的なものはありますか?
松岡 真功:
高校の文化祭で学生同士のマッチングサービスを提供したことでしょうか。当時、コンピューターに詳しい先生が、学校にあったミニコンで生徒同士を無作為にマッチングするお遊びプログラムを作っていました。私はこれを見て、学生のデータベースを作ればもっと良いサービスができるのではないかと思い、コンピューター室にあったパソコンで一気にマッチングプログラムを作り上げました。プログラム自体は簡単に出来たのですが、問題だったのは事前の全生徒データの収集でした。
私の構想したプログラムは、事前のアンケートによってデータを蓄積させ、学生番号を入力するだけで、最適な相手の名前が大きなハートマークと一緒に印刷されて出力される仕組みになっていました。そのためには、生徒のデータをアンケートで集めなければなりません。全校生徒のデータを集めようとしましたが、このサービスを先生達になかなか理解してもらえず、プログラムを作ることよりもデータを集めることに苦労したことを覚えています。技術力だけでは新しいサービスの提供になかなか至れないのだな、ということを身にしみて感じました。その後、コンピューター部の先生の力を借りて、なんとか文化祭でマッチングサービスを提供することができました。このプロジェクトは大成功で、コンピューター室の外に女子生徒の行列ができました。「何かをつくるとそれに応じて人が動く」という体験に、新規サービスの開発の面白さを感じました。
ーーそして、自然とIT企業に就職を?
松岡 真功:
大学に入り、大手企業に対し先進技術の導入支援を行っているコンサルタントの方と知り合いました。その方の紹介で、パソコン教室の講師や、大手企業のホームページ作成、社会人のスキルアップ講座、動画配信システムの開発など、様々なアルバイトを行っていました。太陽光パネルと自動車用バッテリーを使って災害時に情報発信をする実証とか、本当にいろんなことをやりましたね。大学卒業後は関西のベンチャー企業に入社し、その後証券会社や外資系企業に就職しました。そこでの多くの出会いが、2006年の当社の設立につながっています。
会社設立当初は「短期間での開発は難しい」と言われるような、他社が手をつけなかった案件を積極的に引き受けました。実績のないIT企業が仕事を獲得するには、まず実績が必要でしたので、敢えて他社が手をつけない案件を選んでいました。その中で、クライアントが「一般的に1年半はかかるだろう」と踏んでいた案件をわずか半年で完了させたことがあり、それにすごく驚かれたんです。それに手ごたえを感じて「自分たちのスピード感は他とは一線を画している、この事業はいける」という確信を抱きました。
今後の展望――開発の未来を拓く、ロボットが創り出す新たなエンジニアリング時代
ーー今後の事業展望についてお話しいただけますか。
松岡 真功:
一般的なシステム開発にはサーバエンジニアやフロントエンドエンジニア、インフラエンジニア等、各開発工程にそれぞれの専門的知識・技術を持った技術者が複数人必要になるのですが、ローコードの場合は基本的に全ての工程を一人で担えます。高度なプログラミングスキルを持たない人でも効率的にアプリケーションを開発できるため、不必要な人数を巻き込むことなく開発の透明性を維持でき、結果的に開発スピードや品質が向上します。それは日本の課題であるIT人材不足へのソリューションにもなりますし、開発内製化の推進にも寄与します。
私たちは次のステージとして、ソフトウェアロボットであるデジタルレイバーを活用した「ローコードエンジニアのロボット化」を目指しています。これは開発作業そのものも自動化することで、個人個人の開発スキルの差を無くす施策です。
生成AIや最新のローコードツールを使えば、デジタルレイバーは不要じゃないのか?と思われるかもしれませんが、当社が手掛けている「業務システムの開発」のプロジェクトにおいては、業務の分析や解析、業務の再設計や組織改革、レガシーシステムのマイグレーション等の様々な作業が必要であり、プロジェクトの70%はプログラミング以外の作業です。デジタルレイバーは、それらの工程とプログラミングを結びつけるために重要な役割を担います。また今後は、複数のローコードや生成AIを使用してシステム開発が行われると考えており、デジタルレイバー構想は、マルチクラウド・マルチローコード時代の新たな人材不足問題を解決できると考えています。
ーーどのような人材を採用していきたいとお考えですか。
松岡 真功:
できる限り様々な背景を持つ人材を採用したいと考えています。新しい技術は、既存の技術やアイデアでは予想もできないような「新しい結合」で生まれることが多いのです。ですので、ITとは関係のない他の業界で深い経験をした人の思考のプロセスが欲しいのです。
実際に当社も「ITには詳しくないが、魅力を差別化しにくい商品で数字を出してきた営業」を採用してから業績が大きく向上しました。あえてそこで買わなくとも、どこかでほぼ同じようなものが手に入る、例えば「紙」や「文房具」なんかがそうですが、そういったもので数字を出せる営業は強いと思います。私自身も彼らがどのように成果を出しているのか完全には理解できていませんが、私が理解できない人々、つまり私の視点では考えられない独自の能力を持つ人々を、当社は歓迎しています。
若手人材に伝えたい「変化を楽しむことで、自ずと道が見えてくる」
ーー若手の方に向けてメッセージをいただければと思います。
松岡 真功:
面接では「とにかく変化を楽しむ従業員になってほしい」と伝えています。「エンジニアを目指して手に職をつけたいと考える方もいますが、ビジネス環境やIT技術が著しいスピードで変わっていく現代において、それは常に学習と変化を続ける必要がある道です。自分のキャリアパスを最初の段階で決められる人は少ないですし、その通りに行く人はもっと少ないと感じています。それよりも、時代の流れに合わせて自分を変えていくことを楽しめれば、自ずと軌道に乗れるのだと考えています。
新しいアイデアがあれば、遠慮せずに積極的に伝えてほしいと思います。怒られても、失敗してもいいから「大胆なことを言い、チャレンジする」。若手の方がそれを実行できるカルチャーを、これからも創っていきたいと思っています。
編集後記
開発作業を自動化し、エンジニアが開発の上流工程であるクリエイティブな領域に専念できる状態を目指しているという松岡社長。より進化していく自動化技術は、「人間の仕事を奪うもの」ではなく、多くの日本企業が悩む人材不足問題を解決してくれるのかもしれない。
松岡真功(まつおか・まさのり)/ネット証券会社、外資系ERPベンダー、外資系システムベンダーにて、エンジニアリングとコンサルティングに従事。2009年にBlueMemeで業務開始。業務システムのコンサルティング事業開始後、ローコードによる業務システム開発の実現を積極的に推進。2010年6月より現職。