株式会社ザ・プラントは、日本本社のほか中国とオーストラリアにオフィスを有し、従業員のうち90%以上が外国籍、その国籍数も10ヵ国以上に及ぶ。
オムニチャネルコマースを中心とした法人向けECプラットフォーム、コンテンツマネジメント、モバイルアプリなどのソフトウェア開発やコンサルティングを事業とし、アシックスやラコステなど名だたるグローバル企業から10年以上にわたり厚い信頼を寄せられている。
ザ・プラントがグローバル人材と大手企業に選ばれる理由とは――米国出身のアナトール・ヴァリン氏が日本で創業した経緯、事業の強み、大事にする企業文化や人材に対する考え方、今後のビジョンなどについてうかがった。
外国人向けのポータルサイト開発を機にITの世界へ
ーー日本で創業された経緯を教えてください。
アナトール・ヴァリン:
1997年に来日し、愛知大学大学院の修士号を取得する際の卒業論文が中小企業に関する内容でした。それがきっかけで、愛知県の中小企業向けのバイリンガルサイトを構築しました。それが、私がITに携わった最初の経験でした。
その後、友人と共同で外国人向けの求人や生活情報のポータルサイト『GaijinPot』を開発しました。その時点での私の本業は名古屋大学や中京大学、金城学院大学の非常勤講師で、『GaijinPot』の開発はあくまで副業的なものでした。
そうするうちに、『GaijinPot』のビジネスが順調に拡大したため、東京に拠点を移し、株式会社ジープラスメディアを創業しました。その後5年間はジープラスメディアで仕事をしていましたが、『GaijinPot』が完成形に近づくにつれ、この事業を中心に新しいことを始めようと考えるようになりました。一方で私は、引き続き「プロダクト開発をしたい」とも考えていたので、ジープラスメディアから独立し、2005年に株式会社ザ・プラントを創業しました。
ーー創業から現在に至るザ・プラントの事業内容について教えてください。
アナトール・ヴァリン:
『GaijinPot』で成功した経験をもとに、創業当初は同じようなBtoCのプロダクトを開発していました。しかし思うようにいかず、企業で働いている知人からの要望を受けて、BtoBの仕事を請け負うようになりました。
まず、MTV Japanとの契約から始まり、その後契約したアシックスのヨーロッパ法人とのプロジェクトが成功し、安定的かつ継続的な事業運営ができるようになりました。創業当初の数年間はアシックスが主要なお客様でした。
その後、ラコステと縁があり、正式にEC事業を立ち上げました。要所要所でいろいろなお客様からサポートをいただいたと思っています。
このような大手企業と取引を広げることができたのは、弊社や私を個人的に知ってくれていた方たちの紹介でした。たとえば、MTV Japanとのプロジェクトにおいて弊社の技術力を信頼してくれていた方がいて、その方がアシックスに転職した後、引き続き声をかけてくれました。信頼による強固な人脈によって、取引が広がるという良いサイクルに恵まれました。
ーー外国人経営者に対する日本のサポートもあったそうですが、どのような内容だったのでしょうか?
アナトール・ヴァリン:
創業当初、日本の行政機関に手厚くサポートしてもらえたことは嬉しい驚きでした。今でも感謝しています。
具体的には、渋谷区から中小企業支援として、私のような外国人経営者であっても資金を貸し付けてもらえましたし、中小企業サポートセンターからのアドバイスやガイダンスの提供も有難かったです。改めてお礼を伝えたいと思います。
競合他社が2年かかるプロジェクトを4ヵ月で提供するスピード感
ーー貴社の事業の強みを教えてください。
アナトール・ヴァリン:
技術力を自社で保有している点が大きいと思います。一般的に大企業とのプロジェクトでは、ITコンサルティング企業が窓口となりますが、採用するソフトウェア企業は別にあり、さらにそのソフトウェアを構築・導入する下請け企業がいるなど、複雑な依存関係が発生します。結果、コミュニケーションや技術力などに齟齬が生じ、納期が長くなって柔軟性も乏しくなります。
一方、弊社の場合、ECシステムなどもすべて自社で構築しているので、確実に品質コントロールもでき、お客さまのニーズに柔軟にスピードをもって対応することができます。価格面でも工数が短くなりますので、安価に提供できる点には優位性があると考えています。
実際に、大手企業に弊社が選ばれる理由の1つは、見積もり時点での納期の短さです。競合他社が1年半や2年かかると見積もったプロジェクトを、弊社は4ヵ月で提案して実際に完遂しました。特にECビジネスにおいてスピード感は重要です。そうしたところを評価されていると思っています。
また、弊社は外国人が90%以上を占めているので、外国企業の日本法人との取引があった場合でも、海外の本社と日本チームの間に入って、英語と日本語でのコミュニケーションのサポートができることはお客様の負担軽減になり、プラス要素になっていると考えています。
ーー大切にしている価値観や企業文化を教えてください。
アナトール・ヴァリン:
Netflixが発行しているカルチャーデックに影響を受けました。カルチャーデックに書かれていたことは、会社は成長して規模が大きくなるにつれ、さまざまなプロセスが追加され、次第に会社の魅力が失われてしまうということでした。「特に才能のある優秀な人材にとって魅力がなくなる」というのは、非常に面白い視点だと感じました。
私自身、会社というのは優秀な人たちが集まり、ポジティブで明るい環境で仕事をすることが大事だと考えています。また、優秀な人材に働き続けてもらうためには、魅力的なプロジェクトに一緒に取り組むことが何より重要です。
優秀な人材の採用と確保を重視する理由は、そうした人材で構成されるチームであれば、どのようなビジネスの変化が起こっても対応できるからです。
キーとなる人材も重要です。弊社のマネージャー層や各国のオフィスの代表者は、私から見ても責任感があり、尊敬できる人たちです。そのような存在は、他の従業員の良いロールモデルにもなるので、企業文化の醸成やビジネス成功のために大切な要素の1つと考えています。
優秀なチームを拡張して、EC事業のグローバル展開を視野に入れる
ーー今後のビジョンについて教えてください。
アナトール・ヴァリン:
今後も、優秀な人材で構成されるチームづくりを続けていきたいと考えています。今でも素晴らしいメンバーと仕事ができており、幸運なことだと思っています。事業の継続性や安定性のために、このチームの構成範囲をさらに広げていきたいと私は考えています。
弊社のECシステムに対するアプローチと考え方には独自性があると自負しています。日本では徐々に認められてきていますが、最近では海外でも弊社の取り組みに興味を持っていただくことも多く、今後はそうしたニーズにもお応えできるように事業をさらに展開していきたいと考えています。
そのためには、今あるチームの輪を拡張し、よりグローバルに展開して優秀な人材の確保に努めたり、魅力的で面白いプロジェクトに取り組んでいきたいと考えています。
編集後記
ザ・プラントは創業以来、他企業からの出資を受けることなく、事業で生み出された利益をシステム開発に再投資することで成長を続けてきた。
また、少数精鋭で構成されるチームを広げることで着実な成長を目指しており、安易に規模を追い求めない経営方針は今後も変わらないと感じる。
社会のデジタル化に伴うシステム投資が増加する中、ザ・プラントはこれからの社会にとって必要な企業であり続けるだろう。多国籍集団の特徴を活かして、日本国内に留まらないグローバルな事業展開に期待が高まる。
アナトール・ヴァリン(あなとーる・ゔぁりん)/1968年米国ニューヨーク州生まれ。1997年来日、名古屋大学、中京大学などで非常勤講師を勤めるかたわら、外国人向けポータルサイト『GaijinPot』を開発、事業化して2001年、株式会社ジープラスメディアを創業。2005年に株式会社ザ・プラントを創業、代表取締役社長に就任。