
多くの企業が人材不足に悩まされる中、今注目を集めているのが「アルムナイ採用」だ。アルムナイとは、元従業員つまり自社を退職した人材のことであり、企業側は即戦力が手に入り、元従業員はキャリア形成の選択肢が増えるなど、アルムナイ採用は両者にメリットがある。
このアルムナイの可能性をいち早く見出し、事業として手がけているのが株式会社ハッカズークだ。同社の代表取締役グループCEO、鈴木仁志氏は、アルムナイ採用がまだ一般的ではない頃から、この領域に力を入れて取り組んできた。今回、同氏が考えるアルムナイのビジネスとしての可能性に迫る。
人材・採用の仕事に携わる中で「アルムナイ」の可能性に気づき起業を決意
ーー最初に、これまでの経歴を教えてください。
鈴木仁志:
カナダのマニトバ州立大学を卒業後、カー用品メーカーのアルパインに入社し、その後、ウェディング事業を行うT&Gグループへ転職しました。2年目にグアム支社の責任者を任されてからは、チャペルの立ち上げや挙式の際のオペレーションなどでとにかく忙しく、1年間ほとんど休みがなかったことを覚えています。
その後、より近い距離で経営に携わるために、人事・採用コンサルティング・アウトソーシング会社のレジェンダに転職し、海外事業責任者としてシンガポールや中国の支社立ち上げに関わるなど、大半の期間を海外で過ごしました。
この会社で人事・採用業務を経験したことがきっかけで、株式会社ハッカズークを立ち上げました。レジェンダで働く中で、アルムナイという元従業員・退職者との関係を構築する領域に可能性を感じるようになったのです。
時代の流れとともに再雇用が肯定されるようになり、それと同時に会社も成長

ーー事業内容や会社の特徴について教えてください。
鈴木仁志:
弊社はHRテック(最先端の技術を人事労務業務に活用すること)と呼ばれる領域で事業を展開しており、企業とアルムナイをつなぐサービスを手がけています。
具体的にはアルムナイに特化したクラウドシステム「オフィシャル・アルムナイ・ドットコム」の運営や、アルムナイに関するコンサルティングサービスなどで、クラウドシステム上では、企業とアルムナイやアルムナイ同士のチャット、アルムナイのプロフィールの閲覧・更新などができます。
企業は弊社のサービスを活用することで、再雇用だけではなく、業務委託やビジネスパートナーなど、さまざまな形でアルムナイとつながることが可能です。また、アルムナイ側も自分が退職した企業のコミュニティに登録することで、同じ会社を退職した他のアルムナイとつながれるというメリットがあるので、辞めた会社に再入社するつもりがない人も多く登録しています。
弊社の特徴としては、ミッション・ビジョンや事業内容に共感した人が多く入社してくれていることでしょうか。社内には、熱い思いを持った人が多いです。
ーーアルムナイ領域の可能性について、どのように考えていますか。
鈴木仁志:
会社を辞める理由は、その会社を嫌になったからとは限りません。元の会社に感謝はしているけれど、新しいことに挑戦したいからという理由で退職する人も多くいますし、コロナ禍でポジティブな退職はより一層増えました。
こういった方々は、再入社という形で会社に戻ってきてくれるだけでなく、さまざまな可能性があります。ビジネスパートナーとして活躍してくれることもあれば、商品やサービスのユーザー、会社のファンにもなり得ます。
弊社の事業は、こうしたポジティブな理由で退職した人々と会社側をつなげる役割を果たすことはもちろん、一度は仲違いしてしまったり、疎遠になってしまったりした退職者との関係構築も支援することが可能です。
「退職者は裏切者」という価値観から「アルムナイともう一度つながる」という考えが受け入れられなかったため、2017年にハッカズークを設立してから2021年頃までは事業が思うように伸びずに苦労しました。
しかし、コロナ禍でこの価値観が見直され「アルムナイは裏切り者ではなく、重要な社外のパートナー」という考え方が定着し始め、2021年頃からは弊社の業績も右肩上がりに伸びています。
目指すのは「退職で終わらない企業と個人の新しい関係」の実現
ーー今後の注力テーマや展望について教えてください。
鈴木仁志:
注力テーマは、人的資本の観点でアルムナイの価値を可視化できるサービスを強化すること、そして、中小企業にも弊社のサービスを広げることです。そのほか、学校の卒業生や定年退職者のコミュニティ、そして現役を引退したアスリートのセカンドキャリアなども弊社では支援しているので、この領域も力を入れていく予定です。
弊社では「退職で終わらない企業と個人の新しい関係を実現し、退職による“損失”のない社会をつくる」をビジョンに掲げているので、ビジネスパートナーや再雇用などの関係だけに限らず、せっかく一度は同じ釜の飯を食べた企業と退職者がゆるく、長く、つながれる関係の構築もサポートしていきたいと考えています。
別れを損失ではなく、資産にするためにどうしたら良いのか。この点について今後も突き詰めながら、企業と個人の新しい関係の実現を目指していきたいですね。
編集後記
昔と比べて退職者の出戻りが認められやすい風潮にはなっているが、一般的な選択肢とはまだ言いにくい。そんな同社のサービスは、この現状を変え、企業と個人の両方の可能性を広げることに貢献している。
少子高齢化などの影響で、企業の人材不足が問題視されている日本。アルムナイ領域に特化した同社のサービスは、これからの日本企業が直面する問題を解決に導く、重要な鍵を握っていると感じた。

鈴木仁志/カナダのマニトバ州立大学卒業後、アルパインとT&Gグループを経て、人事・採用コンサルティング・アウトソーシングのレジェンダに入社。シンガポールを拠点に海外事業責任者。2017年ハッカズークを設立し、アルムナイ領域に特化したSaaS『Official-Alumni.com』やプロフェッショナルサービスを提供。2024年10月にエンジニア採用支援の株式会社レインと経営統合し、グループCEOに就任。