給食業界は少子高齢化社会が進む現代において学校、医療、福祉と密接に関わりながらその成長が期待される一方で、人手不足や食材の高騰など多くの課題に直面している。
そういった課題とどのように向き合い解決していくのか。今回は株式会社メフォスで人事、教育、サービスなどさまざまな改革に取り組んでいる長江孝之社長にお話をうかがった。
子どもから高齢者まですべてのライフステージに携わる給食の役割
――これまでの経歴をお聞かせください。
長江孝之:
1987年に大学を卒業して大手総合商社に入社しました。営業、人事総務、内部監査部、戦略企画などの部署のほか、約13年間の海外勤務では日本企業の海外進出のサポートを行っていました。現在の給食業界と直接的な関係はありませんが、お客様を陰ながら支えるという意味では通じるものがあると思います。
その後、2020年10月にエームサービス株式会社の取締役専務執行役員に就任し、2022年に100%子会社である株式会社メフォスの社長に就任しました。現在もエームサービスの取締役を兼務しています。
――貴社の事業内容についてお聞かせください。
長江孝之:
社名のメフォス(MEFOS)はメディカルフードサービスの略です。「食に想いを。人にぬくもりを。」をミッションとして掲げている病院給食のパイオニア企業です。
保育園や幼稚園、学校、産業、福祉、病院や医療などの分野で子どもから高齢者の方まで、すべてのライフステージをカバーし、さまざまな施設で安心安全な食を提供しています。
――貴社の強みやこだわりについても教えてください。
長江孝之:
弊社は「地域No.1の頼られる存在へ。」というビジョンを掲げています。全国約2,000ヵ所に及ぶ事業所では、地域ごとにきめ細かな対応が求められます。弊社のサービスでは食材の地場調達やその土地ならではの味付けにも注力し、変化に富んだ豊かな食事を実現するよう努めています。地産地消、地方創生などに果たす役割は今後も増えていくと思います。
――具体的にはどういった役割が求められていますか?
長江孝之:
病院や福祉施設ですと、特に地方は、人手が少なく高齢者が多いという現状の中でもお食事をしっかり提供しなければいけない。この需要は、今後ますます増えていくでしょう。
各地域には立派な学校給食センターがありますが、昼食を提供し、洗浄したらその日の稼働は終了です。しかし、同じエリアには人手不足に直面している高齢者施設がたくさんある。
この矛盾を解消し、設備と人員をもっとうまく活用できれば、と現場目線では感じていますが、行政も関係するとなかなか簡単にはいかない状況です。将来的には自治体とともに、地域の課題を食を通じて解決するお手伝いができればと考えています。
課題解決に向けたDXと社員教育制度への取り組み
――貴社の注力テーマについてお聞かせください。
長江孝之:
給食産業はビジネス構造上、収益性の高い事業とはいえないため、「どう収益性を上げていくか」が業界全体の課題となっています。特にここ数年の食材の値上がりは収益に直接関係しているので、仕入れの見直しやDXの導入によって生産性を上げることに重点をおいて事業活動を営んでいます。
弊社の場合は、厨房における作業の効率化が大きな課題です。たとえば、調理の際は、安全衛生面より、加熱した食材の中心温度を計測していますが、現在は手書きで残している記録を、今後はBluetoothでデータをタブレットに残すといったような、作業時間の削減と記録の正確性に繋がるペーパーレス安全衛生管理システムの導入に向けて、グループ全体で取り組んでいます。
もう1つの課題は、「私たちが提供する食事にどのように付加価値を付けていくか」です。たとえば学校、幼稚園、保育園の場合は「食育」という切り口に、管理栄養士、栄養士、調理師のソフトパワーを活かすことが質で勝負をしていくための重要な鍵となっています。
――社内教育への取り組みをお聞かせください。
長江孝之:
弊社には現在、約1万8千人が在籍し、そのうち正社員と契約社員が6千人、パート従業員が1万2千人います。管理職の約6割が女性で、海外の技能実習生が150人在籍するなど、社員の構成は多様性に富んでいます。
総合職は入社後に管理職を目指していく中で必要なビジネススキルを中心に学ぶ育成体系である一方で、栄養士などの専門職は、まずは現場運営に必要な知識やスキルの習得を優先としています。業務経験を積む中で、各自の成長度合いや目指すキャリアパスに応じた学びの提供を目指しています。
親会社のエームサービスは、先行してエームアカデミーという社内研修サービスを設立しました。
今年から弊社も参画し、安全衛生から食に関する基本、契約や法律のことまで、ビジネスに必要な動画コンテンツを作成し、社員が必要な科目を受講してステップアップできるように準備を進めています。
お客様のニーズと運営の効率化の実現に向けて
ーーサービスの将来の展望と動向をお聞かせください。
長江孝之:
クライアントのニーズも時代とともに変わってきています。たとえば社食ですと、すべての方に食事の楽しさを感じてもらえるように、メニューも見栄えも常に新しくし、カフェ形式にしたりヘルシーなメニューを提案したりするなど、時代のトレンドを取り入れていく工夫が大切です。
また、課題としては、調理をしてその場で召し上がっていただく形式(クックサーブ)は、人手の問題があり限界が見えている領域です。病院や医療福祉の現場は朝昼晩の提供が必須ですが、特に朝の人員確保が難しいところです。
メニューの製造や加工を1カ所に集中させるセントラルキッチンである程度つくり上げたものを運んで、各施設で温めて提供できるように、省力化を混ぜていかないと食事の提供が難しい地域もあります。
将来的には、そのような機能を自社に備えたりして、プラスアルファの引き出しを増やしていくことが必要だと考えています。
採用と人財の育成について
――採用における貴社の強みについて教えてください。
長江孝之:
弊社の強みは、一つの会社の中でさまざまな経験ができるという点です。計画的にキャリアパスを積んでいけるよう、育成施策、人事制度の運用に磨きをかけています。
私たちのアセット(財産)は人です。人の財産と書いて「人財」です。人への投資をまず一番に考え、DXと並行して行っています。
ーー求める人物像についてお聞かせください。
長江孝之:
私の好きな言葉は「融通無碍(ゆうづうむげ)」です。「すべてのものは互いに影響し合って調和を保っている」というもともとの仏教用語が転じて、「しなやかに何にもとらわれずに、自由に動く」という意味があります。
自分でいろいろと仮説を立てて実行・挑戦し、しなやかに対応できる人財を求めています。
――職場環境改善のために行っている施策はありますか?
長江孝之:
就任して以来、ずっと「風通しのいい職場環境をつくりましょう」というメッセージを発信し続けています。
月に何回か地方の事業所を回って直接現場の話を聞いたり、社長室から出て共有スペースで業務しながら、通りかかった従業員に話しかけたりして、意見を求めています。すべての声がすぐに反映されるとは限りませんが、風通しのよい環境がベースになるよう努めています。
弊社は人と人とのコミュニケーションを大切にする会社です。それ故にDXを含めビジネスの変革が遅れていることは事実。改革をすると、当然ですがプロセスが変わって仕事の仕方を見直さなければいけません。慣れた作業を変えていくことには苦労も伴いますが、次のステップを目指して弊社はこれから変わる必要があります。
時代についていくために皆で力を合わせて変わっていきたいと思います。心理的な壁を取り払って、社員が正しいと思うことをきちんと言える会社にしたいと思っています。
編集後記
36年勤めた総合商社での豊富な経験をもとに、給食業界に新たな風を吹き込んでいる長江社長。
穏やかな口調ながらも熱く未来の展望を語る長江社長の、軽快なフットワークで改革を進める手腕に今後も期待だ。
長江孝之(ながえ・たかゆき)1963年愛知県生まれ、1987年名古屋大学卒。同年三井物産株式会社に入社。2015年コンシューマーサービス業務部人事総務室長、2018年アジア・大洋州本部コンシューマーサービス事業商品本部長、2020年エームサービス株式会社専務執行役員などを経て、2022年株式会社メフォス代表取締役社長に就任。