※本ページ内の情報は2024年2月時点のものです。

3月12日は「だがしの日」。みなさんはだがしにどのようなイメージを持っているだろうか。「懐かしい」「楽しい」「安い」「ワクワクする」などのイメージを持っている人が多いのではないだろうか。

株式会社大町の経営する「日本一のだがし売場」には、多種多様なだがしが取り揃えられ、日本中から多くのお客さんが集まってくる。

今回は、そんなだがしを取り扱っている株式会社大町の代表取締役である秋山秀行氏から、会社設立までの経緯、社長としての信念、今後の展望などについて聞いた。

世のため人のため、という「経世済民」の考え方

ーー社長になるまでの経緯をお聞かせください。

秋山秀行:
弊社の創業者は私の祖母で、女手ひとつで会社を起こし、社員も住み込みで、私がご飯を食べるのはいつも社員の方が食べた後でした。苦労して働く姿をずっと見てきましたが、祖母は商品にも人にも非常に優しい人で、僕はとても尊敬していました。僕が経営を引き継いだのは、祖母に孝行したい、祖母が作った会社を大きく立派にしたいという一心からです。

ーーもともと経営に興味がありましたか?

秋山秀行:
経営や経済に興味があったわけではありません。

ちょっと難しい話になりますが、「経世済民(けいせいさいみん)」という言葉をご存知でしょうか。昔は「経済」のことをそう呼んでいたのです。「世のため民のためにお金を使う」ことがすなわち経済でした。

しかし、それを略して「経済」になってしまった今、「経世済民」の一番大事なところ「世」世の為と、「民」民の苦しみを済う(すくう)という部分がないがしろにされてしまっていると感じています。僕自身は、儲けることに腐心するという考えはありません。

ーー今の成功に至ったきっかけは何でしょうか?

秋山秀行:
商品の仕入れを行うと、どうしても賞味期限が近づいたお菓子が出てきます。そのようなお菓子を子どもたちに全部タダであげていました。タダでもらえるので子どもたちはどんどん店に来てくれました。

そこで子どもたちに名前を聞いたり、「お店にはうまい棒が2種類しかないの?」と言われたら2週間後には16種類全部集めたりするなどして、子どもたちとコミュニケーションをとっていました。そのようなやり取りを子どもたちは面白いと思ってくれたようです。

そのような感じでお菓子の仕入れがどんどん広がっていきました。子どもたちの笑顔のおかげで大人のお客さんも来てくれて、結果として利益が上がってきました。子どもと本気で遊んでいたら、利益が後からついてきたという感じです。

日本固有の文化、精神としてのだがし

ーー秋山社長にとってだがしとはどのようなものですか?

秋山秀行:
10年前にフランスのイベント会場でだがしを売る機会があったのですが、フランスの子どもたちは非常に喜んでくれました。

日本のだがしのようなものは欧米にはなく、お菓子は子供が買うものではなく親が買い与えるという文化が根付いています。一方、日本は子どもたちがお小遣いを持ってだがし屋に買いにきます。お小遣いで買うとき、自分の頭で代金を計算しますよね。日本人が優秀だと言われているのは、そういうところにも理由があるかもしれないと思います。日本では子どもたちが買えるように10円20円のお菓子を売っていますが、欧米では親が買うのでそういった価格のお菓子は売られていません。

子どもたちが10円、20円でお菓子を買える国は珍しいのです。そのため、だがしは日本の文化ともいえるでしょう。

ーー社員教育はどのようにしているんでしょうか?

秋山秀行:
基本的に弊社ではノウハウの教育はしていません。仕事のノウハウは、ひとつひとつ言わなくても見たらわかると考えています。

その代わり、人の心というものがわかるように、月に1回、全社員が営業時間内に集まって勉強会をしており、そのために月刊誌「致知」を活用しています。そこで勉強するのは人間学というものです。

仕事の話はせず、たとえば創業者である祖母の「もったいないという精神」をテーマにして話をするなどしています。この勉強会は20年前からやっています。社員同士が仲良くなれ、理解し合えるとてもいい取り組みです。

3.12はだがしの日。だがしのパワーで世界平和を!そのコンセプトとは?

ーーずっと継続していることや、今後の目標はありますか

秋山秀行:
3月12日の「だがしの日」に「だがしと笑顔の交換日」(※)というイベントを毎年開催しています。「ニッコリ笑うだけでお菓子がもらえる」というコンセプトです。

今後の目標は、ハロウィンを超えるイベントにすることです。ハロウィンもバレンタインも海外発祥なので、日本発の、世界に通じるお菓子のイベントをつくりたいと思っています。

たとえばハロウィンは「お菓子をくれなきゃいたずらするよ」という発想でおばけの格好をしますが、日本はにっこり笑うだけなのです。そのにっこりとした笑いに幸せを感じます。

僕らの目指していることは、そういう発想で世界を平和にすることです。

(※)一般社団法人DAGASHIで世界を笑顔にする会によるもの

僕はもともと儲けようとは思っていません。とにかく子どもたちが喜ぶこと、子どもたちの笑顔を見たい、ということが弊社の社員に共通している思いです。

そこが、他社が効率を求めて利益を上げようとするのとは違うところです。社長も2年後には息子に譲る予定で、その後も子どもたちのために、効率を求めずすべての子どもたちの笑顔のために本気で遊んでいくつもりです。僕が目指しているのは経済や経営でなくて「経世済民」ですから。

お金持ちもそうでない人も、だがし屋に行ったらみんな平等です。たくさんお金を持っていても、10円の商品を100円で買うことはない。

だがしによる平等と共存共栄、この日本の精神を世界中に広げて、だがしのパワーで世界の平和を目指したいですね。

編集後記

優しかった祖母が始めた会社を大きく発展させつつ、祖母の精神を大事に引き継いでいる秋山秀行氏。

大人気の秘密は「だがしで人を笑顔にする」発想だった。これからも秋山社長の素敵なアイデアで世界中の人々を笑顔にしてほしい。

秋山秀行(あきやま・ひでゆき)/1958年岡山県生まれ、1981年同志社大学文学部卒業後、株式会社大丸(現:株式会社大丸松坂屋百貨店)入社。1985年株式会社大町入社。1999年に同社代表取締役社長に就任。「日本一子どもにやさしい町づくり(弱い子どもたちを元氣にする)」活動に注力している。