新型コロナウイルスの蔓延をきっかけに「GIGAスクール構想」における児童生徒への1人1台端末の配備など、教育現場のICT環境の整備が一気に進んだ。
そんな中、学校教育ICTの専業メーカーとして教育現場を支援しているのが、チエル株式会社だ。
同社はICTを活用したシステムや教材を開発している企業で、CALL型語学学習支援システム「CaLabo®EX」は、全国で1,300校以上、20ヶ国以上の地域で導入されている。
教育現場におけるICTのさらなる普及を目指し、学校や先生方への支援を行う、代表取締役会長、川居氏の思いを聞いた。
学校教育ICTの専業メーカーを創業
ーーまずは創業の経緯についてお聞かせください。
川居睦:
小泉政権の三位一体改革として2002年以降から補助金が削減され、学校への投資が減ってきていた頃に、私はアルプスシステムインテグレーション株式会社に所属し、教育事業部門の役員をしていたんです。
2006年にアルプスシステムインテグレーションの教育事業部門が分離し、旺文社デジタルインスティテュート株式会社と合併し、「ICT教育に特化した会社」を目指してチエルが誕生しました。
ーー学校教育やICTの分野で創業しようと思われたきっかけは何だったのでしょうか。
川居睦:
すでに企業では1人1台PCが割り当てられ、オンラインで業務をするのが当たり前でしたが、学校現場ではオンラインツールの利用がかなり遅れていました。
また、国内の家電メーカーの多くがパソコン事業から撤退し、一斉に文教市場からも手を引いたのですね。
そうした状況を見て、今後さらに情報活用能力が求められると予想し、ニッチな市場を掘り下げていけば勝機があるはずと、学校教育の専業メーカーを立ち上げることにしました。
ーー貴社の社名である「チエル」の由来についてお教えいただけますか。
川居睦:
“知”と“得る”を組み合わせて、チエルと命名しました。子供たちが「知」を「得る」ための教育の分野で学校や先生方を支援させていただくという思いがあります。
また、弊社の経営理念である「ICTで世界中の学校の先生を支援し、毎日の授業をもっと便利で効果的にするため、商品・サービスを提供していこう」という思いを込めています。
ーー経営者になられてから大切にされてきた価値観や考えについて教えていただけますか。
川居睦:
弊社は学校教育の専業メーカーなので、学校の先生方とお会いする機会が多くあります。
人に教えることをなりわいにされている方々ですので、きちんとあいさつをする、時間を厳守するといった社会人としての基本的なマナーを徹底するよう、日頃から社員に伝えています。
また、営業において何よりも重要なのは、話していて心地いいと感じてもらえるよう、ホスピタリティの心を持つことだと思っています。
こちらから一方的に話す、あるいはただ相手の話を聞くだけではなく、言葉のキャッチボールをすることで、相手との距離感を縮められると思いますね。
チエルの強み・他社との差別化ポイント
ーー貴社の特徴や強みについてお聞かせいただけますか。
川居睦:
弊社は先生方の負担を軽減し、子どもたちがより良い教育を受けられるよう、さまざまなサービスをワンストップで提供しています。
たとえば、朝の出欠をとる際に、先生が名前を読み上げて出席確認をしていたところを、生徒が自分のタブレットを操作して出席連絡をすることで、先生はクラス全員の出欠状況を一覧で確認できるようになりました。
テストを行う際は先生が用紙を生徒それぞれに1枚ずつ配り、終わったら自ら回収して添削していましたが、今はパソコンでファイルを送付するだけなので添削もスムーズに行えて、学習履歴が残るのもメリットです。
また、先生が生徒一人一人を見て回る机間(きかん)指導では、「この子は理解できているな」「この子はつまづいているな」とシステムに記録することで、学習の習熟度を把握しやすくなります。
その他にも学校での生徒の様子をデータ化することで、忘れ物が多いなどそれぞれの特徴や傾向を職員が共有し、保護者の方により多くの情報を伝えることができます。
こうしたICTの活用はまだ一部の学校でしか行われていないので、これからさらに普及させていき、教育現場の課題を改善できるようサポートしていきたいですね。
ーーChromebookを導入した自治体の約4割が、貴社のサービスを利用しているそうですね。
川居睦:
文部科学省によるGIGAスクール構想(全国の児童生徒に1人1台のコンピューターを整備し、ICTを活用して教師・児童生徒の力を最大限に引き出す取り組み)がスタートしてからこれだけのシェアを獲得できたのは、教育現場で次に何が求められるかを予測し、前もって準備を進めていたからです。
そのため新型コロナウイルスが蔓延し一斉にオンライン授業に移行した際も、いち早く対応できました。この対応力の早さが他社との大きな差別化につながったと思いますね。
ーーユーザーによってはサービスをうまく活用できない場合もあると思うのですが、こうした場合の対応はされているのでしょうか。
川居睦:
携帯ショップをイメージするとわかりやすいと思いますが、製品を使っていてわからないところがあれば、気軽に質問していただけるように全国各地に営業所やサポートセンターを設置しています。
チエル株式会社の今後について
ーー今後注力していきたいポイントはございますか。
川居睦:
小学校から大学までを対象にしていた営業活動を拡大し、専門学校や通信制高校、塾などの新規市場へも進出し始めています。
また、これまでおよそ22ヶ国に弊社の製品を輸出していたのですが、コロナ禍でいったんストップし、国内の活動に注力していたため、改めて海外事業にも着手していきたいと思っています。
ーー貴社の今後の課題についてお教えいただけますか。
川居睦:
AI技術を搭載したツールの台頭など、IT分野は日々ものすごいスピードで進歩している一方で、ユーザーのICT利活用が追いついていないのが現状です。
そのため最先端の技術を取り入れつつ、ツールとしての使いやすさも考慮しながらサービスを提供していかなければいけないと思っています。
ーー採用についてはどのようにお考えでしょうか。
川居睦:
今後は新卒採用でも、営業や開発、システム部門、管理部門で幅広く採用していこうと思っています。弊社の経営理念に共感していただき、「学校現場を変えたい」と思っている方と一緒に働きたいですね。
編集後記
会社が教育事業部門を切り離すことを決めたのをきっかけに、学校教育のICT専業メーカーとして創業することを決めた川居会長。教育現場で次に何が求められるか常に先を見越し、着々と準備を行ってきた結果、他社との差別化につながったという。子どもたちが知を得て成長できるようICTで支援するチエル株式会社は、これからも教育現場に改革を起こすことだろう。
川居睦(かわい・むつみ)/1962年生まれ。1986年タカギエレクトロニクス株式会社に入社。1993年アルプスシステムインテグレーション株式会社に入社。1999年株式会社旺文社デジタルインスティテュート株式会社(現チエル株式会社)取締役に就任。2005年アルプスシステムインテグレーション株式会社取締役に就任。2006年チエル株式会社代表取締役に就任。2017年沖縄チエル株式会社代表取締役、2021年チエル株式会社代表取締役会長、グループ戦略統括管掌に就任(現任)。