※本ページ内の情報は2024年3月時点のものです。

2024年に施行される「働き方改革関連法」により、労働時間に上限が設けられることで、トラックドライバーの労働力不足による物流の停滞が懸念される等、物流に関する事業環境は大きな変革期を迎えている。

そんな中、荷主に対して最適な改善策を提案し、物流業務を請け負う3PL(サード・パーティー・ロジスティクス)事業等で成長を遂げているのが、株式会社ヒガシトゥエンティワンだ。

同社は1944年に創業した運送会社を祖業とする、グループ会社8社を有する総合物流企業だ。一般の物流サービス以外にも、大企業の社内物流・文書管理やオフィス移転サービス、IT関連サービス、館内物流などのサービスを提供しており、質の高い多様なサービスをワンストップで提供できることが強みとなっている。

加えてM&Aを積極的に実施し、さらなる事業拡大へ邁進する同社の取締役代表執行役社長、児島一裕氏に思いを聞いた。

新型コロナウイルスが蔓延し始めたタイミングで社長に就任

ーー入社された経緯についてお聞かせください。

児島一裕:
弊社は戦後の混乱期で経済状況が厳しかった頃に、日本生命が資本参加した経緯があり、それ以降、歴代の社長の多くが日本生命の出身者です。

私自身も日本生命の役員を退任後、この会社に副社長として2019年に入社しました。

ーー社長就任時にはどのような経営状況でしたか。

児島一裕:
2020年の4月に社長に就任したのですが、ちょうど新型コロナウイルスが蔓延し始めたタイミングで、入社式もみんなマスクをしてパーティション越しの状況でスタートしました。

そのような状況でしたので、就任1年目は業績がかなり落ち込むだろうと覚悟しておりました。実際、弊社の取引先の中にはコロナの影響を受け、物流量が大幅に減った企業もありました。

その一方で、外出規制によりイエナカ需要が増加したことで、業績が伸びた取引先もありました。結果としてその年の売上高は微減に留まり、利益としては既存事業の効率化や経費削減を進めたことで前年比プラスで終えることができました。

ヒガシトゥエンティワンの成長を支える「現場力」

ーーその後、売り上げを順調に伸ばしていますが、この要因は何だとお考えですか。

児島一裕:
社長に就任して2年目以降は、売り上げが右肩上がりに伸びています。その要因のひとつが、大手ECサイトを運営している企業様とのお取引が始まり、商品の配送や保管等、大規模センターでの管理業務をお任せいただけるようになったことです。

それに加えて、M&Aにも積極的に取り組んだことで、優れたリソースやノウハウを持った会社を迎えたことも業績を押し上げた大きな要因ですね。

以前は日本生命や大手電力会社などからの売り上げが業績の大半を占めていた時代が長く、安定はしているけれど成長もあまりしない会社でした。当時はそれでも良かったかもしれませんが、厳しい事業環境の中、このままでは後退する一方になるという危機感がありました。

そこから徐々に新しいビジネスに着手し、今では積極的に事業拡大を進めるようになっています。こうしたビジネスを拡大する原動力となっているのが「現場力」です。

これまで弊社では、物流の仕事を請け負うだけでなく、顧客の要望に応じて迅速・柔軟な対応力で革新的なサービスを提供してきました。こうして培ってきたノウハウで、より最適なサービスを柔軟に提供することを可能とする「現場力」こそが、弊社の成長の根幹となっています。

ーーその他にトピックスとなる新規事業はありますか。

児島一裕:
以前から大手電力会社の部品センターの管理を任されていましたが、さらにこの事業を発展させ、弊社で部品の調達を行い、工事業者へ販売するいわば商社のようなビジネスを2021年に開始しました。その結果、現在ではこのビジネスが売上・利益に大きく貢献するようになっています。

--M&Aは特定の分野を伸ばすことを目的に実施されたのでしょうか。

児島一裕:
M&Aの対象となるフィールドは、全事業領域です。現中期経営計画ではすべての事業領域をさらに成長させることを目指しているので、ジャンルを問わず良い会社があれば買うというスタンスを取っています。

直近ではIT人材派遣会社である株式会社旅人(たびと)を子会社化したことで、既存のITサービス事業の強化と事業の裾野を拡大でき、統合後も順調に売り上げを伸ばしています。

その前には鋼材等の重量物輸送を展開している山神運輸工業株式会社を子会社化しました。弊社でも製造業で原材料として使われるアルミなど比較的軽量の鋼材の運送を行っていたため、経営統合で新たな価値が生まれることを見込み、買収しました。こちらも順調に売上・利益に貢献しています。

基本的な事業の枠組みは維持しながら、事業の強化、シナジー・周辺事業の拡大のためにM&Aを行っています。

多様なサービスラインナップでマイナス面を補い、トータルで成長を目指す

ーー多様なサービスラインナップを提供している理由についてお聞かせいただけますか。

児島一裕:
新型コロナウイルスが蔓延し始めた頃は、業界や業種によって売り上げの大きなバラツキが出て、弊社でも大きく落ち込んだ事業と伸びた事業がありました。

このように事業環境が大きく変化する局面では会社が多角化できていると、業績が落ち込んだ部分を好調な事業でカバーできます。弊社のような中堅企業では、ひとつの事業に偏るのは経営面で不安定要素が強くなり、リスクが大きくなると考えます。

以前は日本生命など、「大企業と取引が多い安定している会社」という評判であったと思いますが、今では特定の企業や事業に依存しすぎないようにすることで、仮に事業ごとに浮き沈みがあっても、好調な事業でカバーし、トータルで成長していくことを目指しています。

ーー経営スタイルを大きく変えていく中で、後継者の育成はどのように行われているのでしょうか。

児島一裕:
長らく安定成長企業だったため、社内には保守的な考えの者も多くいます。そのため、リスクをコントロールしながらチャレンジできる人材を育成していかなければならないと考えています。

まずは事業部長や子会社の社長など事業のトップに、既存の事業を発展させながら、新たなビジネスへの投資や新規ビジネスにチャレンジするマインドを持ってほしいと伝えています。

リスクを負いながらもチャレンジし、成功させることが事業責任者の目標なので、既存の事業の売上をキープしているだけでは責任者として0点です。

例え話ですが、「向こう傷は問わないが、逃げて背中を切られるようではだめだ、立ち向かっていけ」ということは日頃から話をしていますね。

ーー最後に20代・30代の方々に向けてメッセージをお願いします。

児島一裕:
自分なりに考えてみる、ということを大切にしてください。私は前例踏襲という言葉が嫌いです。もちろん、現状についてきちんとリサーチをしたうえで、結果として今必要なことが昨年と似ているという場合もありますが、単純に前例を踏襲するだけでは新たな価値を生み出す仕事はできないと思います。

身近なことでも、昨年と今年では環境も課題も異なると思います。今年必要なものは何かを考え、最適解を導き、周囲の変化に合わせた取組みをしてみてください。

編集後記

日本生命で役員を務めた後、新型コロナウイルスが蔓延したタイミングで取締役代表執行役社長に就任した児島社長。事業環境の変化に対応し、成長し続ける企業への変革に向け、事業の拡大やM&Aを積極的に行い会社の成長を導いてきた。既存事業にとどまらず、果敢に新たなビジネスへチャレンジする株式会社ヒガシトゥエンティワンは、今後も事業成長を続けていくことだろう。

児島一裕(こじま・かずひろ)/1960年生まれ大阪府出身。1983年大阪大学経済学部卒業、日本生命保険入社。2010年執行役員、2017年専務執行役員を歴任。2019年に株式会社ヒガシトゥエンティワン入社、副社長を経て、2020年に同社取締役代表執行役社長に就任。