繊維や化粧品など数多くの事業を手がけてきた旧カネボウは、2004年に産業再生機構に支援を要請し、事実上の経営破綻となった。
その後、旧カネボウから独立する形で、2007年にクラシエホールディングスとして再スタートを切る。2023年10月の同グループの経営統合に伴い、クラシエ株式会社に名称を変更した。
1985年の入社以来、会社が破綻する状況に直面するも同グループで役員経験を重ね、クラシエへの社名変更後も引き続きリーダーとして采配を振る、岩倉昌弘氏の思いを聞いた。
特定の市場や顧客のニーズを狙い、コアなファンをつくる
ーークラシエでは主にどのような事業をされているのですか。
岩倉昌弘:
日用品・化粧品事業と薬品事業、食品事業の3つが、弊社の主要事業です。
日用品・化粧品事業では、「いち髪」などの一般向け商品のほか、理・美容室やレジャー施設向けの商品も取り扱っています。薬品事業は漢方に特化し、ドラックストア等での販売と、医療用の両方を取り扱っているのが特徴です。
食品事業では、知育菓子®の「ねるねるねるね」や「甘栗むいちゃいました」のほか、海外の菓子メーカーが製造している「FRISK(フリスク)」や「mentos(メントス)」、「chupa chups(チュッパチャプス)」の国内の代理店ビジネスを行っています。
ーー競合他社と差別化している点を教えていただけますか。
岩倉昌弘:
薬品事業を例にすると、市場ではさまざまな種類の薬が販売されていますが、弊社が扱っているのは漢方薬のみです。また、「ねるねるねるね」のようにユニークなお菓子を販売しているのも、弊社の特徴でしょう。
弊社はこうした特定の市場や顧客のニーズを狙い、「絶対にこの商品じゃなきゃダメだ」というコアなファンを作ってきました。その結果、「いち髪」「ねるねるねるね」、「甘栗むいちゃいました」のように、長年愛されるヒット商品が生まれたのです。
また、弊社の事業すべてに共通しているのは、お客様の顔を思い浮かべながら開発を行っていることです。年配の方が飲みやすいようスティックタイプの漢方薬にするなど、お客様のことを考えてきた結果、多くの方のご支持につながっていると思います。
CRAZY KRACIEにかける思い
ーー会社のビジョンとして掲げられている「CRAZY KRACIE(クレイジークラシエ)」についてお聞かせください。
岩倉昌弘:
はじめの案はもっとシンプルなものでした。ただ、すんなり理解できる言葉は人の心に引っかからないんですね。そこで、私はあえて真逆の言葉を選びました。クレイジーといっても、狂気じみたことをするわけではありません。
アメリカの方が感動的なシーンや、信じられないことが起きたときにも、クレイジーという単語を使います。つまり、人々に感動を与える商品やサービスを提供する、という意味でこの言葉を採用しました。
社内では反対意見も多かったのですが、社外の方からは「よくこの言葉を使った」と意外と好評でしたね。
ーーこのビジョンを社内に浸透させるために、どのような取り組みをしましたか。
岩倉昌弘:
2018年の7月に「CRAZY創造部」を立ち上げ、全国の事業場に出向いてビジョンを浸透させる取り組みを始めました。各事業場を巻き込んでさまざまな取り組みを進めているのですが、そのうちのひとつが社内の部活動です。
モーターサイクル部やサウナ部のほか、都内のカフェを巡るスイーツ部などがあり、部費は会社が負担しています。部活動を通して上司や部下、部署の垣根なく、みんなでワイワイ楽しんで交流を深めてもらいたいですね。
過去の教訓を活かした組織づくり
ーー前身である旧カネボウが破綻した際、会社を辞める気持ちはなかったのですか。
岩倉昌弘:
取引先の方々には多大なご迷惑をおかけしましたし、自分が採用した仲間たちを残したまま、会社を抜けることはできませんでした。また、最後は100年以上続いた会社が潰れる瞬間を見てみたいという思いもありましたが、やはりご協力・ご支援いただいた取引先様やお客様に対し、責任をもって対応しなければならないと感じたからです。
会社のずさんな管理体制のおかげで、自分たちの努力まで否定されたくないという思いから、私以外にも多くの社員が残りました。手塩にかけて育ててきた商品は、自分たちで責任を持ってお客様に届けたいと思ったのでしょうね。
ーー昨年、グループ会社を経営統合した経緯をお聞かせください。
岩倉昌弘:
旧カネボウは、黒字事業が赤字事業の負債を補てんしていました。そのため、本来なら成長のために投資できたはずの事業が、その機会を捨てていたわけです。
旧カネボウからクラシエとして再スタートしてからはこれを戒めとし、それぞれの事業の自立を目標としてきました。ただ、その結果として、自分の会社=自分が所属している「事業」のみという認識が強くなり、全体が見えにくくなってしまったのです。
そこで2023年の10月にクラシエホームプロダクツと、クラシエ製薬、クラシエフーズを経営統合しました。これに伴い、ヒト・モノ・カネを会社全体で循環させる体制を整えていこうと思っています。
ーー今後の目標をお聞かせください。
岩倉昌弘:
グループ全体で売上1000億円を目指していましたが、コロナ禍の影響を受け未だ達成できていませんので、まずは1000億円を達成したいと思っています。
また、これまでは国内をメインに事業を展開していましたが、今後は海外事業にも注力する予定です。国内にとどまらず、海外のお客様にさらに弊社の商品を広めていきます。
前身の会社から引き継がれた、人を大切にする風土
ーー貴社が大切にされている考えについて教えてください。
岩倉昌弘:
弊社の役員に「クラシエの強みは何だと思いますか?」と聞いたところ、全員が「人」と答えたんですね。このことからもわかる通り、弊社は旧カネボウ時代から人を大切にしてきました。
特に社員教育には力を入れていて、多くの教育を受けられる社内システムを用意しています。また、社員が申請すれば、知識の習得に必要な費用を会社が補助する体制も整っています。
ーーどんな人と一緒に働きたいと思われますか。
岩倉昌弘:
弊社のキャッチコピーに「夢中になれる明日」とあるように、何かに夢中になれる人がいいですね。一芸に秀でている、研究に力を注いできた、スポーツに打ち込んできたなど、ひとつのことに夢中になれる人は強いと思います。
ーー最後に読者の方にメッセージをお願いします。
岩倉昌弘:
クラシエはまだ若い会社なので、これから入社される方々に、この会社を作っていってほしいと思っています。
また昨年の経営統合により、事業の垣根を越え、幅広い職種や仕事を経験するチャンスも増えていきます。自分はこれしかできないと思っていても、別のステージで才能が開花する場合もあるので、意欲的にご自身の可能性を広げていってください。
弊社はいくらでも「“リベンジ”できる会社」なので、失敗を恐れず、どんどんチャレンジしてほしいと思っています。
編集後記
会社が破綻するというシビアな状況を直視し、新会社の責任者として組織の再生に奮闘する岩倉社長。
旧体制の悪しき習慣を繰り返さないよう、新しい会社の姿を模索し続けている。独自の商品を生み出し、個性を発揮し続ける、クラシエ株式会社のさらなる発展に期待したい。
岩倉昌弘(いわくら・まさひろ)/1961年兵庫県生まれ。1985年関西大学社会学部卒業後、鐘紡株式会社へ入社。ホームプロダクツ(日用品)部門で営業、人事、新規事業開発などに従事し、2005年カネボウホームプロダクツ販売株式会社代表取締役社長に就任。旧カネボウ株式会社の破綻後、2007年クラシエホームプロダクツ株式会社の社長執行役員、2018年クラシエホールディングス株式会社(現クラシエ株式会社)代表取締役 社長執行役員を経て、2023年10月グループの経営統合に伴い、クラシエ株式会社の代表取締役 社長執行役員に就任。